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9.呼び出したのは

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「自己紹介がまだでしたね。僕は、アムドラ・ヴォルダーといいます。ヴォルダー伯爵の息子、つまりあなたにとっては兄にあたる存在です」
「兄……」
「ロナティアさん、あなたのことは聞いています。しかしながら、父上があなたにここに来るように言った……その手紙を出したのですか?」
「よろしかったら確認してください」
「ええ、少しお借りします」

 ロナティアから手紙を受け取ったアムドラさんは、その手紙を読み始めた。
 それが本物であるかどうか、彼なら判別可能だろう。
 もっとも、ロナティアが嘘をついているとは考えにくい。伯爵家を騙すために遠路遥々彼女がやってきたという可能性は低いだろう。

「……確かに、これは間違いなく父上の字ですね。いつの間にこんな手紙を送っていたのか。驚きです」
「その手紙によると、伯爵は私のことを認知して、この伯爵家で保護するとされています。生前、母も何かあったら伯爵を頼れと私に言っていました。故に私は、不躾ながらもここまでやって来たのです」
「なるほど、それは大変でしたね……」

 ロナティアは、かなり慎重に言葉を発していた。
 相手が高貴な伯爵令息であるということを、彼女なりに理解しているのだろう。
 そんな彼女に対して、アムドラさんは笑顔を浮かべていた。彼女を安心させようとしているのだろう。その表情は、とても穏やかだ。

「事情は理解しました。とりあえず、父上と話をする必要がありますね……ゼボルグさん、父上をお呼びしてもらってもいいですか?」
「それなら、既にメイド長が……しかしながら、やけに遅いですね」

 アムドラさんの質問に、ゼボルグさんは怪訝そうな顔をした。
 伯爵を呼びに行ったメイド長が、中々戻ってこない。それは確かに、少し気になることだ。
 自分で呼んだ少女が来たという報告に対して、反応がないということは考えにくい。つまり単純にヴォルダー伯爵が見つかっていないということになる。

「父上に何かあったのでしょか?」
「そうですね。おや……アムドラ様、メイド長です」
「メイド長、父上は……」
「アムドラ様、それが……」

 そこで、玄関に浮かない顔をしたメイド長が現れた。
 その表情が、何があったかを物語っている。どうやらヴォルダー伯爵に何かあったようだ。

「メイド長、何かあったんですか?」
「旦那様が見つからないのです。屋敷の中を探し回って、色々な人に聞いたのですが……」
「なんですって?」

 メイド長の言葉に、アムドラさんは少し焦ったような表情をしていた。
 私もゆっくりと息を呑む。なんというか、少し胸騒ぎがする。
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