失踪した婚約者の連れ子と隠し子を溺愛しています。

木山楽斗

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5.伯爵令息とメイド

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「……どちら様ですか?」
「……僕は、アムドラ・ヴォルダーと申します」
「ヴォルダー……」

 私の部屋を訪ねてきた男性に名乗られて、私は少し驚いた。
 その名前は知っている。事前聞いていたこのヴォルダー伯爵家の嫡子だ。

「えっと、とりあえず入ってください」
「失礼します……初めまして、あなたがエリシア様ですね?」
「ええ、私がエリシア・ラガーテです」

 部屋の中に入ってきたのは、私と同い年くらいの男性だった。
 彼は一応、私の息子となる人物だ。その時点で、この婚約は歪なものであるような気もする。

「挨拶が遅れてしまって、申し訳ありませんでした。少々立て込んだ用がありましてね……」
「いえ、問題はありません」
「おや……」

 アムドラさんは、ヴォルダー伯爵とは似ても似つかない人物だった。本性はわからないが、少なくとも表面上は紳士的である。
 そんな彼は、私のベッドに腰掛けるクルネアさんに目をやった。使用人である彼女がそこに腰掛けているのは、確かにおかしな状況だ。
 ただ、クルネアさんは呆気に取られているのか特に動かない。アムドラさんのいきなりの訪問に、思考が追いついていないのかもしれない。

「クルネアさん、どうかされましたか?」
「あ、ああ、いえ、すみません。アムドラ様、少し気分が悪くなってしまって……エリシア様が、介抱してくれたのです」
「いえ、介抱という程ではありませんが……」

 アムドラさんの言葉に、クルネアさんはすぐに立ち上がった。
 病み上がりの彼女が、そのように急に動くのはよくない。彼女の立場からすれば仕方ないことかもしれないが、少し心配だ。

「なるほど、エリシアさんは心優しい女性であるようですね……ありがとうございます」
「え?」
「おや、どうかされましたか?」

 アムドラさんは、私にお礼を言ってきた。
 それは恐らく、クルネアさんを介抱したことへのお礼ということなのだろう。
 ただ、それはなんというか少しおかしい。彼の立場で、この状況でお礼をするというのは少し変な気がする。

「……もしかして、お二人は恋仲とか、ですか?」
「ど、どうしてそうなるんですか?」
「なんというか、お二人が親しい関係にあるような口ぶりなので……」
「そういう訳ではありませんよ。まあ、仲が悪いという訳ではありませんか」

 私の言葉に、アムドラさんはそんな返答を返してきた。
 やはり、二人は何かしらの関係がありそうだ。明らかに伯爵令息と使用人の関係ではない。
 ただ初対面の私に、詳しく教える必要はないということだろうか。確かにそれはそうだ。あまり踏み込むのはよくないかもしれない。
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