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4.だだっ広い部屋
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「……こちらが、エリシア様の部屋です」
「えっと、失礼します……」
色々と話している内に、私は自室まで辿り着いていた。
部屋の中には、既に私の荷物がある。使用人達が運び込んでくれたのだろう。
部屋の広さとしては、かなりのものだ。伯爵家の屋敷だけあって、豪華な部屋である。
「といっても、こんなに広い部屋は少々持て余してしまいそうだけれど……」
部屋が広いからといって、何かいいことがあるという訳ではない。あの伯爵がいる限り、この屋敷での暮らしはいいものにはならないだろう。
そんなことを思いながら、私は部屋を見渡した。そこで気付いた。ベッドがやけに広いということに。
「一人用ではなさそうね。まあ、そういうことなのかしら……」
私は、先程の客室でのことを思い出していた。
彼のあの下卑た目つきは、今でも脳裏に焼き付いている。
「……あら? ク、クルネアさん、どうかしましたか?」
「いえ……」
部屋を見て率直な感想を口にしていた私は、ここまで連れて来てくれたクルネアさんがとても苦しそうな表情をしていることに気付いた。
彼女は、明らかに具合が悪そうだ。何かあったのだろうか。
「と、とにかく、こちらに。とりあえず、横になりましょう」
「いえ、メイドが主のベッドで横になるなんて……」
「そんなこと言っている場合ではないでしょう。主としての命令です。横になってください」
「は、はい……」
クルネアさんは、諦めたようにベッドに横たわった。
彼女は明らかに憔悴している。何があったかはわからないが、かなり苦しそうだ。
これはどう考えても、医者を呼ぶべき状況であるだろう。彼女は明らかに普通ではない。発作的な何かしらの病にかかっていると考えるべきだ。
「エリシア様、お待ちください」
「え?」
「医者などを呼びに行く必要はありません。大丈夫です、既に落ち着いていますから……」
「そ、そうなのですか……?」
医者を呼びに行こうとした私を、クルネアさんは止めてきた。
彼女は、私の手を力強く掴んでいる。確かになんというか、元気そうだ。先程までの彼女が、嘘のようである。
横になったことで、回復したということだろうか。少し早いような気がするが、それならよかった。なんて楽観的な考えは、できそうにない。
「クルネアさん、何かあるのですか? どうか正直にお話しください。あなたと会ってから、いいえそれ所かこの屋敷に来た時から、私はずっと何か歪さを覚えているのです」
「それは……」
「……失礼します」
私の問いかけに、クルネアさんは何かを答えようとした。
しかし、その声は遮られた。私の部屋を訪ねて来た何者かの声によって。
その声を、私は聞いたことがない。一体今度は、誰が訪ねてきたのだろうか。
「えっと、失礼します……」
色々と話している内に、私は自室まで辿り着いていた。
部屋の中には、既に私の荷物がある。使用人達が運び込んでくれたのだろう。
部屋の広さとしては、かなりのものだ。伯爵家の屋敷だけあって、豪華な部屋である。
「といっても、こんなに広い部屋は少々持て余してしまいそうだけれど……」
部屋が広いからといって、何かいいことがあるという訳ではない。あの伯爵がいる限り、この屋敷での暮らしはいいものにはならないだろう。
そんなことを思いながら、私は部屋を見渡した。そこで気付いた。ベッドがやけに広いということに。
「一人用ではなさそうね。まあ、そういうことなのかしら……」
私は、先程の客室でのことを思い出していた。
彼のあの下卑た目つきは、今でも脳裏に焼き付いている。
「……あら? ク、クルネアさん、どうかしましたか?」
「いえ……」
部屋を見て率直な感想を口にしていた私は、ここまで連れて来てくれたクルネアさんがとても苦しそうな表情をしていることに気付いた。
彼女は、明らかに具合が悪そうだ。何かあったのだろうか。
「と、とにかく、こちらに。とりあえず、横になりましょう」
「いえ、メイドが主のベッドで横になるなんて……」
「そんなこと言っている場合ではないでしょう。主としての命令です。横になってください」
「は、はい……」
クルネアさんは、諦めたようにベッドに横たわった。
彼女は明らかに憔悴している。何があったかはわからないが、かなり苦しそうだ。
これはどう考えても、医者を呼ぶべき状況であるだろう。彼女は明らかに普通ではない。発作的な何かしらの病にかかっていると考えるべきだ。
「エリシア様、お待ちください」
「え?」
「医者などを呼びに行く必要はありません。大丈夫です、既に落ち着いていますから……」
「そ、そうなのですか……?」
医者を呼びに行こうとした私を、クルネアさんは止めてきた。
彼女は、私の手を力強く掴んでいる。確かになんというか、元気そうだ。先程までの彼女が、嘘のようである。
横になったことで、回復したということだろうか。少し早いような気がするが、それならよかった。なんて楽観的な考えは、できそうにない。
「クルネアさん、何かあるのですか? どうか正直にお話しください。あなたと会ってから、いいえそれ所かこの屋敷に来た時から、私はずっと何か歪さを覚えているのです」
「それは……」
「……失礼します」
私の問いかけに、クルネアさんは何かを答えようとした。
しかし、その声は遮られた。私の部屋を訪ねて来た何者かの声によって。
その声を、私は聞いたことがない。一体今度は、誰が訪ねてきたのだろうか。
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