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2.自室への案内

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「……失礼いたします」
「え?」

 部屋の中でこれからのことを考えていた私は、戸を叩く音と女性の声に少し驚いた。またもそんなものが聞こえてくるとは、まったく思っていなかったからだ。
 聞こえてきた声は、先程の女性とは違う。あちらとは別口であるようだ。
 現在、この部屋には私しかいない。ただ、ノックした使用人はきっとそれを知らないのだろう。こちらも、伯爵に火急の要件といった所だろうか。

「すみません。ヴォルダー伯爵は、今席を外していまして……」
「いいえ、私が用があるのはエリシア様です」
「私ですか? あ、えっと、とりあえず入ってください」
「はい、失礼いたします」

 私の言葉に、部屋の中に一人の若い女性が入ってきた。
 格好からして、まず間違いなく彼女はこの屋敷のメイドであるだろう。そんな彼女が私に用とは一体何だろうか。

「旦那様は、しばらくの間別件の対処にあたることになりました。故に、あなたを部屋に案内するように申し使っております」
「ああ、そういうことですか……?」

 若いメイドさんの言葉に、私は少し疑問を覚えていた。
 伯爵はつい先程出て行ったばかりである。そんな彼が、こんなに早く指示を出せるものなのだろうか。
 ただ、別にそこを疑っても仕方ない。自分の部屋で休めるならその方がいいし、案内してもらった方がいいだろう。

「わかりました。それなら、よろしくお願いします。えっと……あなたの名前は?」
「クルネアと申します」
「それならクルネアさん、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします」

 クルネアさんは、私の言葉に淡々と答えてくれた。
 どうやら彼女は、冷静な人であるようだ。これまでの会話でも、表情がほどんと動いていない。
 ただ、私はそんな彼女の顔に違和感を覚えていた。彼女の顔は、どこかで見たことがあるような気がするのだ。

「あっ……クルネアさん、メイド長のカルネシアさんと似ていますね?」
「はい?」
「いえ、こちらまで案内してくださったメイドさんに似ていると思いまして……」

 私の違和感は、すぐに解消されることになった。
 彼女はこの屋敷でつい先程会ったメイド長に似ているのだ。
 もしかしたら、親子でメイドをやっているのかもしれない。そういうことは結構あるし、あり得そうだ。

「よく言われます。ただ、私とメイド長は他人の空似ですよ」
「ああ、そうなんですか」
「はい、それではそろそろ行きましょうか?」
「あ、はい。すみません、話の腰を折っちゃって……」

 しかし私の予想は、的外れだったらしい。
 ただ、そういうこともあるだろう。世の中には似ている人が三人はいるというし。
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