KINGDOM DESTINY

神月

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第3章、謎の青年

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 村を離れ王都へ向かうこととした三人。
 その道中でとある行商人達と出会い、彼らは困っていたと三人に明かした。

「俺らは行商人として王都に向かってたんだが、どうやら王都に向かう為に避けて通れないこの峠に盗賊が住み着いてるらしくてな。どうしたもんかと立ち往生してたところなんだ」
「ここにも盗賊が……」

 以前世話になった村人からこの辺りに盗賊が蔓延っている話は聞いていたものの、それを聞いたギンは「どうします?」と彩音に問いかける。そこに行商人は三人に向け

「あんた達も王都に向かってるそうじゃないか。その身なり……商人の類じゃない。つまり、旅人とか傭兵なんだろ? 頼む、王都までの道まで護衛してくれないか!」
「えっ、私達はただの旅人で、傭兵なんて大したものじゃ」
「報酬は払う。同じ目的地のよしみで頼む」

 揃って頭を下げられた三人は驚きと困惑するも、ギンは自分達も王都へ向かっている以上早かれ遅かれ盗賊と遭遇する可能性が高いと二人に告げる。そして同じ場を目的とする以上断る理由もないと明かし

「何より、歩いて王都に向かうなんて何日かかることか。盗賊の影響で馬車は出せないと言われたし、ここで乗せてもらえるのは大きいです」
「何より、今の私達にはまともな寝食につくお金がありません」
「つまり、どちらにせよ変わらないのであれば共に行動した方がメリットが大きいということです。そこでどうでしょう。護衛を受ける代わりに王都まで馬車に乗せてもらうのは」
「それなら任せてくれ。何なら食事も出そう」
「だったら……」

 護衛を受けることとなり数日、峠を抜けようとした所で事態は発生した。数はそう多くないものの、ギンとシズクに対する盗賊としては何倍もの人数がおり行商人を庇うように二人は警戒する。そんな二人に向け

「補助と守りは任せて」

 と彩音は呪文を唱えると彩音含めた行商人の周りに青いドーム状の壁を張り、それに行商人達がざわめく中彩音は「防御魔法です」と説明する。

「この中にいれば安全です。ギンとシズクの負担が凄いことになるけど……」
「彩音さんはそこから出ないでくださいよ。貴方が死ねば全ての意味がなくなりますから」
「…………」
「来ます」

 最後の一人を倒した後、峠を抜け一同は野宿し夜を明かす事にする。行商人の好意で温かなスープが置かれ、湯気が上がっていく中三人の話を聞いた行商人は驚きながら

「港から王都行きの馬車が出ているはずだから普通は馬車に乗っていくもんだけど。まさか村を経由して歩いて行こうなんて考える人はそういないだろう」
「何せ土地勘がないもので……」
「しかし……最近はやけに治安が悪いような気がするよ」

 その後行商人の一人が零した一言に三人の表情は変わり

「噂では王子が行方不明だとも聞くし」
「王子が行方不明?」
「あぁ。十日くらい前かな、そんな噂を商人仲間から聞いてね。何者かに襲われたんじゃないかって良くない噂が絶えないものだよ」

 昔はもっと平和だったようで、それこそ王が治めていた頃は平和だったと嘆いては

「前王は四年前に病で亡くなり、今は次期王に即位されるであろう王子が国を治めている」
「けど、その王子が行方不明……。確かに怪しい話ですね」
「隣の国から帰る途中に何者かに襲われたみたいでね。それっきり行方不明というわけだ」
「その何者かが、少し気になりますね」

 普段あまり話すことのないシズクが呟き

「訓練を積んでいるであろう兵士を壊滅させるなど、そこらのならず者や賊に出来ることではないでしょう。相当手練だったのか、あるいは……」
「あるいは?」
「…………」

 シズクは黙り込み、それに続くであろう言葉が思いつかなかった彩音。しかし、それを破ったのは行商人の一人で「何者かに雇われた傭兵か暗殺者に暗殺されたか……」の一言に彩音は言葉を失った。



 かつてリレミア王国はまだリレミア王国としての名を持たず、支配による抗争により多くの兵が命を落としたという。それは、俗に言う独立戦争と後に呼ばれそれを機にリレミア王国として、一つの国として独立したという。

「これは、冗談抜きにして港に戻りこの大陸を離れた方がいいかもしれませんよ」
「俺もそう思うな。ここから一番近いのは王都の近くにある港か。王都を通って行くのがまだ安全だろうな」
「どちらにせよ、王都に向かわなければ行けないのは変わらない」

 移動を続け王都までの距離が確実に近づく中一同は森の道を進んでいた。王都までの道はいくつかあり、主に行商人や馬車が通る大道もあるのだが賊との戦闘を少しでも避ける為森の中を通ることになったのだ。
 その判断が幸を成してか賊に遭遇することも無く小休憩に入り、彩音達が川の水を汲む中、ふと川沿いに視線を上げた時何かが目に留まる。

「あれ、何だろう」

 指さした先を二人も追い、目を凝らすと野生動物とは違う何かが倒れている事に気づき

「人……? 誰かが……倒れている?」
「え?」

 ギンの一言に彩音が反応し、ギンは立ち上がると倒れている方へと向かいその後を二人も追いかける。やがて立ち止まったギンに追いつくと、近づいた先には言葉通り人の姿が川沿いに倒れていた。

「なぜこのような場所に人が……?」

 と彩音とシズクが困惑する中、ギンは脈を測るように手を取り

「どうやら生きてはいるようです」

 しばらく経ち、意識を失っていた青年は「う……」と目を覚まし、頭が朦朧としたまま起き上がる。

「ここは……」
「あ、起きた」

 ふと端から聞こえてきた声に視線を向けると見知らぬ者達に囲まれており、青年は未だぼんやりとした様子で彩音達の姿を眺めていた。その後「目を覚ましました!」と行商人に告げては青年に視線を戻し

「君、そこに倒れてたんだよ?」
「倒れ……。……貴方がたが助けてくれたのですか?」

 そう青年は立ち上がり、礼を告げるとどこかへと歩き出そうとするも足取りは不安定。そんな彼を見た彩音は「ってそんなフラフラで動いたら危ないよ!」と彼を止め

「意識がはっきりするまではもう少し横になっていた方がいいと思いますよ」
「いえ、僕は大丈夫です」

 そうまた歩き出そうとするもののバランスを崩し崩れ落ちる。そんな彼に彩音が慌てて駆け寄った所で青年の前に水筒が差し出され、青年が顔を上げると行商人は水筒を差し出しながら

「そこで汲んだ水だ。取り敢えず飲みな」
「…………」
「色々と気になる事はあるが、何故こんな所で倒れていた?」
「それは……」

 おそるおそる水筒を受け取り水を飲むも、行商人の問いに青年は答えることを躊躇い「この辺は賊に襲われる事も少なくない。盗賊にでも襲われたか?」と再度行商人が問うも黙り込んだまま答えない。

「何か言えない理由でも?」
「そういうわけでは……。貴方がたは」
「そりゃこっちから名乗らねえと話すもんも話せねえか。見ての通り、俺達は行商人だ。地方で仕入れた品を王都に売りに行く所だった。そっちの若者達は旅人だそうだ」
「行商人と旅の方……ですか」

 やがて、青年はミズキと名乗り

「私は……いえ僕はミズキという者です」
「私は彩音。こっちはギンでこっちがシズク」

 そう名乗り返した彩音を始め青年は三人の姿を眺めては呆然としており、やがて「助けていただいてありがとうございました」と覇気のない声で言葉を続けようとした時、それはギンに遮られた。

「しっ」
「ギン?」
「近くに何者かの気配を感じます」

 そんな一言に周囲の表情は変わり

「なっ……こんな時にまた賊!?」
「分かりません。しかしこの気配……俺達の様子を伺ってるようにも見えます」

 間もなく少人数の何者かが現れ、統一された鎧を身につけていることからギンとシズクは違和感に気づき

「彼らが身につけている鎧……統一されています。彼らは賊ではない?」
「やっと見つけたぞ。さあ大人しく投降しろ」
「賊じゃない? じゃあ一体……」

 賊ではないと知りながら、武器を構え明らかな敵意を向ける姿に気を抜ける訳もなく、青年は腰に差さっていた剣を抜き構える。それを見たシズクが

「本調子ではないでしょう。貴方は行商人の方達と共にどこかに隠れていてください」
「いえ、僕も戦います」
「これ以上逃げようったって逃がしゃしない。お前はここまでだ!」
「僕の事は気にせず逃げてください」

 そう背中越しに呟く青年を行商人の男は無言で見つめており、迷うようにギンとシズクは彩音に判断を促した。それに気づいた彩音も僅かの間考えを巡らせ

「そんなこと、出来るわけないじゃないですか!」

 そう叫ぶように発せられた言葉に青年は目を丸くし、「ギン、シズク!」と声を上げれば最初から少女の意思を察していたかのように二人はミズキを庇うように前に出た。



「まだ近くに仲間がいてもおかしくありません。仲間を呼ばれる前に王都へ向かいましょう」

 二人が一時的に足止めをしながら急いで王都へと向かう中、ギンは警戒しながらもミズキに傍目を向けた。

(今の敵は、鎧もだがやはりこれまでの賊とは違う。あの身なりは兵士と呼んだ方がしっくりくるが)

 先程のやりとりで統一した鎧を身につけた者達はこの青年を狙って襲ってきたと思われ、倒れていた青年は至る所が汚れているものの身なりそのものはそれなりのものと見られた。
 やがてギンとシズクは追っ手を食い止めると立ち塞がり、ミズキと彩音を乗せた馬車が行商人によって先へ進む中、遮られた鎧の者達はギンとシズクを取り囲むように武器を構える。

「我々に逆らうということがどういうことか、身を持って知りたいようだな!」
「ここは一歩も通さない。この命にかけて」

 一方二人が足止めし王都へ走らせる行商人と彩音は、残してきた二人を気にするように元来た道へ目を向けながら

「あのお二人は、無事でしょうか」
「あの二人はすごく強いから大丈夫。問題はこっちだよ」
「しかし急に何なんだあれは」

 と行商人の一人である男性も驚いたように

「なんでベス王国の兵士が襲ってきてるんだ」
「ベス王国って……」
「リレミア王国に隣接する大国だよ。あの黒い鎧はベス王国の兵士が統一して身につけるもので、つまりあれはベス王国の兵士に間違いないってことだ」
「隣の国の兵士がまたどうして」

 やがて走っていた馬車が止まり、荷台から違和感を感じた男性が「どうした」と投げかけると馬に騎乗していた行商人の男性の声に男と彩音は荷台から降りた。そして騎乗した男性の視線の先を追うと高台から下の一本道で同じ鎧の部隊の姿があり

「さっきと同じ連中が待ち伏せしてやがる」

 それを聞いた男性は彩音と馬車に戻りながら

「王都まではもう少しだが、王都に向かうにはあの道は避けて通れない」
「つまり……強行突破するしかないって事ですか?」

 やがて追っ手を撒いたギンとシズクが合流し、状況を話すと同じく悩ませ

「王都までは後少しなんですよね」
「情報が回れば回るほど我々が不利になります。何とか荷台に隠れてやりすごせないものでしょうか」
「待ち伏せている以上、ここに狙いがあると分かっての行動だろう」


「さっき退けた兵士から情報を得た可能性もあるとなると、特に俺達は目立つ特徴から既に顔が割れていると考えていい」
「商人だけであれば、さほど目立たず通過出来そうですが。となると二人を隠して通るのが堅実だと思われますが」
「……いや」

 ふと彩音の声に二人の声は止まり、やがて彩音の作戦の元兵士の部隊は突破することが出来た。「何とか突破出来たが……」と行商人の男性は彩音に向け

「俺達行商人だけで通った後にあんた達だけ現れるたあ、あんな魔法見たことねえ」
「瞬間移動の魔法です。かなり条件が厳しいので今の場合、見える範囲でしか移動出来ませんでしたが高台から兵士の先が見えて助かりました」

 しかし間もなく、王城が目視できる程に近づいたところで一同はあの兵士達に取り囲まれた。ここまで来てと彩音やギンが苦い表情を浮かべる中、逃げ場がないと察したミズキこと青年は考えた後荷台から兵達の前に降り

「目的は私なのでしょう。であれば行商人である彼らは関係ない。王都まで見逃して頂けるのであれば、要求に従いましょう」
「な……ミズキ!」

 彩音が身を乗り出しかけ、青年に向け投げかけるも

「助けて頂いたご恩は忘れません。さあ、王都に」
「目的がここにいると知らされ、憲兵でも呼ばれたら面倒だ」

 と兵の部隊長らしき男の声にミズキの表情は変わり

「まずはその剣を捨てろ。そして拘束した後なら、そいつらは見逃そう」
「…………」
「こちらもむやみな殺戮は望まない。祖国で血を流されるのは嫌だろう? 下手な考えや抵抗はやめ、我らの国に同行してもらおうか」

 身柄を拘束する為か兵達が青年に近づく中、荷台にいた彩音は行商人へと告げる。

「私達はミズキを助けます」
「なっ……」
「合図をしたら馬を走らせ急いで王都の中へ向かってください。流石に他国の兵士が王都まで入り込むことは出来ないでしょうから」

 と行商人からギンとシズクに視線を向けると

「行商隊が門への道を渡るまで私が守る。その後戻ってくるから、それまで相手を頼める?」
「確かに王都への入口たる門はほんの先、馬を走らせりゃいけるかもしれないが一兵を相手にやるつもりなのか?」
「ここまで来て置いて逃げられないでしょう」
「なんとなく、そんな気はしましたよ」

 とギンは分かっていたように呆れては荷台から降り

「貴方は他の人間達とは違う。その言葉を信じて行商隊が道を渡るまで俺達が食い止めます」

 ギンに合わせるように全てを察したシズクも降り、兵達が不審な念を抱く中ミズキへと歩み寄る。そして「前衛は俺たちに任せてください」とミズキに投げかけると彼は驚いた様子でいたものの、やがて首を振り

「いえ、私も多少となり剣が扱えます。私も、共に戦います」
「せめて場を荒らすくらいはしよっかな!」

 そう彩音は手を構え「サイクロン!」と唱えると兵達の中心に竜巻が起きた。そして周囲の兵何人かが巻き込まれ、それを見た兵達が唖然とする中

「さあ走って!」

 無理やり開かれた活路に彩音が叫ぶと行商人は馬に合図を出し、竜巻が離れた瞬間を狙って走り出す。行商人を送り出したギンは兵士達と、ミズキへ視線を向けると

「貴方はこの兵達に狙われているようですが、その理由は何か話せない事情があるようですね」
「…………」
「あの場で倒れていたのはこの兵達から逃げていたからですか?」
「……そうです。逃げていた先で追い詰められ、勢いで川に飛び込み」

 そう兵達と交戦していると次々に兵たちが倒れていく。兵士たちが驚きの声を上げ、更に門のあった方角から戦場へ駆け戻りながら「ウィンド!」と詠唱をすれば手から飛び出た風の刃が一兵の剣を弾き落とす。

「くっ。さっきの小娘、魔導士か!」

 そうこう交戦すること、何とか兵を無力化することに成功し周囲の気配を確認してギン達が息をつこうとする。しかしその時気配を感じ視線を向けると、その先にはまた新たな数人の兵士らしき姿があり

「増援か……!?」
「しかし、さっきの人たちと鎧の柄が違います」

 しかし取り囲む兵達が味方ではないことは、向けられた武器から察することが出来る。
 戦闘を重ねた末、これ以上の連戦は限界だとジリジリ感じながら「あと少し、あと一歩だと言うのに……」と兵達に囲まれながらギンは悔しげに呟く。そこに彩音も合流するも、切り抜ける体力など無いと汗を滲ませた時

「いや、彼らは敵じゃない」
「え……」

 そうミズキの声に、彩音達は騒然とした。
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