俳句集『たらざり』

第十九章

『解けぬ春』

立冬やアランドロンも枯れ果てぬ




哭き叫ぶ東尋坊の冬の海




殺生す冬の虫へと手を合わせ




モノクロの銀幕に泣くオリオン座




銀色の陽光に向き石蕗の花




冬構しつつニュースのガザ憂う




戦場に振りまわしたき柊や　




焼芋を割って分けない資本主義　




濡れ落葉あさましき代議士の貌さま




本物のししゃも手が出ぬ安月給




小雪や自死の小説閉じた夜半　




雪虫と身の置き場なき異邦人　




ブラックなリスケ勤労感謝の日




挑みたる毛絲玉への猫パンチ




薄墨のやや濃く京の冬の雨




身を切らぬ政治家へゆけ鎌鼬




民族や国家や愚か寄鍋や




遠距離の電話に湯冷め気にもせず




寒暁や治らぬ馬鹿は夢の中




多種多様在る日おでんは豊かなり




頬染めて鼻水たらし葱を巻く




生涯に咲けるかぎりの狂花くるいばな




大雪や「かたたたきけん」期限切れ　




狩人の銃口が指す寒北斗　




じんわりと祖母直伝の参鶏湯




痩せ飢えど野良寒影に睨み立つ




寒星や重信房子なおも立つ　




ストーブや掃除の荒れた手をかざす




煮崩れた鱈を掬って独り言つ




葬送の影と並べる冬木立




寒禽やなにを不満にぷっくりと




寒禽を愛でる餌場の糞そうじ




もうお菓子ブーツじゃダメなクリスマス　




隠滅の黒煙は逃げ消ゆ暖炉




息白しボクサーかけし朝まだき




珠洲の大なゐ未明の初鴉　




大なゐに腰を抜かせり投扇興　




よろめきぬ投扇興の夜の美徳　




한강漢江を覆う氷に街灯　




猿曳や似た者同士が大笑ひ




蠟梅や栄華もいずれ滅びたる




寒造チャンジャと燗の無敵感




底冷えの底の暗渠の奔る闇




阪神忌忘れる人に知らぬ人




大寒の指かきわける恋の襞　




河豚刺しをつまむ男女の透ける嘘　




寒三日月こころのどこを斬りつける　




もふもふや悴む指に肉球の




ラガーらの厚き背中の放つ湯気　




心中も臆さぬ恋よ初天神　




くるくると舞う風花と仔犬たち




頬白や合格した子へ祝う声




タワマンと嘆きの壁や針供養　




人間をやめたくないと針供養




君に曲リクエストせず帰途の野火




青空よバスに乗れない春へ行く　




麗かやカリカリ掠め喰う鴉




フルートの音色麗か猫の耳




寝釈迦にも筋トレさせてみたくなり




春泥のような二度寝で筋違い




かたくなに解けぬ戦地の春の川