短歌集『虚仮の轍』

凛七星

文字の大きさ
上 下
12 / 13

『渺茫として』※雑誌『抗路』11号掲載・連作短歌

しおりを挟む






瀝青を裂いて戦げる雑草の渺茫としてブルースを聴く




胸の奥しまう口惜しさ揺り返し笑顔の底に舞い上がる澱




革命も暴動もなき饐えた世のタイムセールの遅い夕食 




しくじったテロリストは捕らわれて「殺せ!」の声が雑賀崎に舞う 




深淵は覗きたくない覗かない覗かれたくない安住の繭 




婉曲な「向こうの人」と言う声が背に貼りついて五十年すぎ




千万の言の葉の森さざめきをすり抜け向かう未生(みせん)の道を




生きてきた跡形を知るのはただ愛した者と愛された者と




「凛さんは好きだけどね…」の続き聞き月はどっちに出てると笑う 




抵抗と反逆できる心身を鍛えるための今日の筋トレ 




うろを乗せ島と別れる船が出るマイナー和音コードで汽笛を鳴らし 




「チョーセン」の呪いの箍を外せずにいたともよ眠れ解き放たれ




白柩のかおはいくらかふくよかで此の悔恨を知らず眠れる 




我に撃つ用意はあるか問うている逝った者らの褪せた写真よ




ミルフィーユのように記憶は重なって過去は一つも過去ではあらず 




たおれたる戦禍の跡の幼児の眼窩の深く底なき晦冥  




流血に虚ろなした兵士らよ誰が為に鳴る鐘は聴こえるか 




真実は少女の目に在る戦場の言えないままのサヨナラだけだ  




リゾームが分断された知の森は枯れて現るAI社会 




なるようにならんほんならなるべくはラララたまらんスキップを踏む






詞書〈関東大震災、そして虐殺から百年をおもい五首〉

十五円五十銭で奪われた命の数はいまだ不明で




そしてまた「朝鮮人が井戸に毒」うすら笑いがネットへ流す




追悼にヘイトスピーチ浴びせられ小池百合子はしらばっくれる




無邪気に愉しめなかった誕生日九月一日その惨劇に




『福田村事件』に涙する客にどこへ向けてと問いたくもあり







日本語が癖あることに嘲笑と怒声響かす客の口角 




幻想の「日本すごい!」に酔う甘い綿菓子のごと言葉ふくらみ




韓国の客に毒入り飲み水を出した銀座の店の弁解




「朝鮮人を殺せ!」アジった党首を支持す者が選ぶ歌壇よ




この道をちょん髷わらじで歩いてたころと変わらぬ攘夷の顫音トリル




どの国が好きですかとか無邪気にも投げつけてくる錆びたナイフを




人生のほとんど怒りまくってたわたしの中の朝鮮人は  




徴用の子孫の部落は放火され冬ざれに記憶の墓標よ




どれくらいルサンチマンは闘える?カラータイマー点滅をして




爺はんの幼名もろた歌詠みにグレートベアが今夜も吠える 




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...