短歌集『虚仮の轍』

凛七星

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『かわたれの薄月(うすづき)』 ※雑誌『抗路』10号掲載・連作短歌

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「脱北の叔父を助けてもらえんか」電話の声は凍土のようで 




しらん顔をしてる日々の静けさが鳩尾つかみぶらさがってる




善意とか正義感とか戯言で脱北ビジネス甘き汁なり




投げる賽どちらに出ようと決めている晴れた夜空に星流れゆく 




逃亡のルート地図から探しだし遠き道のり指でたどれば 




失った日本語さがし断片を混ぜた北鮮訛りの電話 




「行先は韓国がいい日本より」助言は虚し故郷は恋し




余命ない残る一人の肉親の姉に会いたい男の嗚咽




病身の妻と幼い子を残す決意は蒼い結晶となる




後悔のどちらを選ぶか人生はそれだけのこと、ここがロドスだ! 




子を一人連れて冷たい豆満江トゥマンガンわずかな距離の国境はるか  




越境し始まる険しい長旅のしるべを照らせ砂漠の月よ  




開かれたパンドラの箱の底からピンセットで希望を摘む日々




前転やバク転でなく側転で異人いりびとたちは軒下をゆく




もてあますこの感情と連れ立った七つ隣の何もない町




食べるよりこぼれ隙間へ消える夢さがしつづける獏となる夜




顔歪め「わたしにどこへ行けという?」帰国事業の犠牲者は涕く 




逃れ来たガイジンだから軽率に生命いのち侮る入管の声 




盲人のカメラマンらはそばにある世界をなにも切り取れずいて     




ジャグリングされて消えゆく理不尽な運命たちよクールジャパンの 




覚めきらぬ夢の異人いりびとの歩廊やおいの硝子の鐘ひびく中




朗報と悲報を告げにゆくときの十字架背負う重い足どり




購った切手に願い託しても届きはしない北への手紙




妻も子も姉も亡くして踏むことを許された地は野の花の咲く 




支援した組織の長は得意げに生死を賭けた者らで誇る




믿지마라信じるな」念押す声に能面で応ず親子の獣の匂い 
 



笑わない瞳の奥で光るのは生死を時に別ける冷酷




「国籍がないって?」うっすら分からせる話を何度したことだろう




帰れない幼い過去を『キューポラのある街』で見て泪するひと 




黙祷の間に蝉が鳴いていた やはりずっと蝉が鳴いていた 




北鮮のロックを唄う少女らのムルムピョ疑問符どこへ突き刺さるのか 




朝鮮の左派の哀しき本当は闇で屠られ屍となり 




いつもいる黒い車の男らのかどあるまなこいきどおろしい 




ほんとうの気持ちはシャボン玉の中 ふかれて、飛んで、こわれて、消えて 




普遍でないと川端が言う在日は詠むかわたれの薄月うすづき



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