短歌集『虚仮の轍』

凛七星

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在った日々の記憶 (雑誌『抗路』掲載作品を含む)

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この海の向こうに祖国と呼ぶものあり
吾を拒む祖国があり 



三世代の世紀を超えた物語に
句読点つけ半島へゆく 



半世紀過ぎてようやく同胞と
認める国へ足を踏み入れ 



民族や国家に殉教した者は
愛されぬまま骨となりけり 



人生の五十余年を断捨離し
今日からわたしは韓国人 



弔わる墓なきアナーキストらは
望郷の地へ海へと帰る 



こちらでもあちらでも異邦人なり
歴史の海に吾らは沈む 



啄木が好きだった亡き母の
東海は生まれた半島の海 



朝鮮のアナーキストの映画観て
我の中の朝鮮が滾る 



韓国でも北鮮でもなく吾は
朝鮮人で過去の残骸 



死ね殺せ叩きだせ!と騒ぐ者ら
今も昔もデマを信じて 



在日の特権だとかなんですの?
あるならほしいその特権が 



ホルモンやビビンパ食べる日本人
ながめながらぶぶ漬けさらさら 



都合よく歪曲されるもんやんかと
煙草ふかし歴史を語る



三代じゃ「よそはん」どすし京(みやこ)では
「しょうがおへん」と異人の顔で 



被害者をことさらアピールしてみても
踏みつけられるだけと強がり



羅城門東寺九条で育つ身は
京がふるさと在日どすが 



かなしくて悲しくてやりきれなかった
イムジン河どした鴨川は 



鮮やかな色に鴨川染め洗う
寒中のひと遠い記憶の



パンソリと浪花節とが同じ場で
響くマダンと呼ぶ集まりで 



『パッチギ』でライダーキックした日々は
消えて探せぬ変わりゆく街



百年も前から日本にいるけれど
見えない吾ら透明人間



強ければ差別に負けず暮らせると
言ったあいつが涙した夜



「鶴橋のことや」とわたしに言われても
アウェーどすえ京の生まれで



いまはもう消え薄れする在日の
虚仮の轍の日々の記憶よ



凛七星(りん しちせい)
京都生まれ。在日朝鮮人三世。
祖父は在日本朝鮮人連盟、在日本朝鮮人総聯合会で中央委員、京都本部長を歴任。父は左派哲学者の立場で1970年代から祖国・朝鮮民主主義人民共和国の主席・金日成崇拝と独裁政治体制を批判し数々の著書を出す。
作者は近年、日本各地の路上にあふれ出た劣悪な差別行動やヘイトスピーチに対するカウンターを起こし活動をしてきた中で、短歌や和歌を詠み始める。
過去に角川全国短歌大賞、全日本短歌大会、NHK全国短歌大会、天神祭献詠短歌大賞、和歌の浦短歌賞、後鳥羽院和歌大賞・短歌大賞、蒲郡俊成短歌大会、古今伝授の里短歌大会などで受賞。
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