乙女ゲームの悪役法師陰陽師に転生した俺は、どうやら昔助けた秀麗な半妖陰陽師を狂わせているようです。

雨宮一楼

文字の大きさ
上 下
34 / 55

第34話-秋時雨の姫 参

しおりを挟む
「みんな、こんにちは。今日は友達を連れて来たんだ」

 迎えてくれたのは院長シスターと若いシスター。ラナ、シレネ、それに数人の子供達だった。

「手前から、ヴィラトリア嬢、スペッサ、トンガリだよ」
「こんにちは。ヴィラと呼んでください」
「スペッサだよ~よろしくね」
「…………………トンガリだ」

 トンガリ君は訂正しようか迷って、諦めたみたいだ。

 いきなりやって来た身なりの綺麗な4人の貴族の子供と複数の護衛に、孤児院のみんなはビビってる。そりゃそうだよな。

「ラナ、今日はリアはいないの?」

 リッチがラナに尋ねた。

「あいつなら、今日は用があるからって来てないよ」
「そんな!」

 がくーん、と見るからにリッチが落ち込んだ。やっぱり、こいつはいつもリア目当てで来てたんだな。

 その様子にシスターもあたふたしてる。貴族の機嫌を損ねる事ほど怖い事はないだろうしね。

 とりあえず、少し緊張をほぐすか。

「孤児院の皆様に贈り物がありますの」

 オレは侯爵家から連れて来ていた護衛に、準備していた物を運ばせた。

「日持ちのするパンやクッキーですの。中に野菜も練り込んでますので、多少は栄養が摂れますの」
「まぁ!」

 シスターズが顔を輝かせた。孤児院の1番の悩みはきっと食費だろうから。これはとっても助かる筈。

 ふと、ラナやシレネと目が合う。ラナは何か言いたげに、シレネは猫みたいにジーッとオレを観察していた。

 これは…もしかしてバレた?

 とりあえず誤魔化すようにオレは2人に微笑んでみせた。



◇◇◇



 その後は、普段通りの孤児院を見せてもらいたいという事で。リッチの護衛騎士が教える剣の指導に、トンガリ君が交じったり。

 シスターの魔法教室にスペッサが交じったりして各々過ごした。

 オレは勉強してる子達のサポートをした。リアの時は教養があるのを知られたくなくて出来なかったけど、ヴィラの姿ならいくらでも勉強を見てやれる。

 それが楽しくて時間もあっという間だった。

 そろそろいい頃合いだから帰ろうか、と話してる時にその客はやって来た。

 身なりの良い明らかに貴族と分かる男だった。

「ここに、10歳くらいのピンクの目をした子はいないか!?」
「ピンクですか?お待ちください」

 シスターが慌てて、シレネを連れて来る。

 男がシレネに何か話しかけて、頷いたシレネが首元から何かを取り出して見せた。

 ロケットペンダントだ。

「あぁ、間違いない。この子は私の娘だ!」

 その後は孤児院は大騒ぎだった。

 ずっと孤児として育てていた子が、まさか行方不明の子爵の娘だったなんて、漫画やゲームなら王道すぎてビックリだ。

 ん?王道?

 最近すっかり忘れてたけど、ココは妹のハマっていた乙女ゲームの世界で。確かヒロインは、ピンクの髪で、目もピンクだった様な…。

 今さらながら、オレはシレネがいずれこの世界を救うヒロインだという事に気づいた。

 子爵やその護衛、シスターらに囲まれたシレネはとても不安そうだった。

 いきなり知らない男がやって来て、住み慣れた場所や、親しかった仲間から引き離されようとしている。

 そしてこれから、厳しい貴族としての生活や教育が待ってるんだ。

 ふと、6歳の頃にいきなり記憶を思い出して不安になった自分を思い出した。オレにはあの時お母様がいたけど、シレネにはそんな存在はいないんだ。

「子爵、ちょっとよろしいですの?」
「ん、何だい?小さなレディ」

 子爵はオレに目線を合わせるべくしゃがんでくれた。良かった。良い人そうだ。

「ワタクシ、トルマリン家の娘、ヴィラトリアですの」

 貴族としての礼をして、オレは子爵を見つめた。

「無事、お嬢様が見つかって良かったですの。ぜひお祝いに贈り物をしてもいいですの?」
「あ、ああ。ありがとう」

 戸惑う子爵をよそに、オレはシレネの手を引いて教会の中庭に連れて行く。みんなも、よく分からないままゾロゾロ後についてきた。

「見ててくださいの」

 オレは、手の平からいくつもの水の塊を出すと、それを風魔法に乗せて空に飛ばした。続けて氷の塊を飛ばす。

 水の塊が次々と空に弾けて、まるで霧雨の様に雨を降らす。本日の天気は晴れ。陽光を浴びて、うっすらと綺麗な虹が浮かび上がった。

「わあ、綺麗!」

 シレネが目をキラキラとさせた。

 そこに小さく砕いた氷の粒を降らせる。虹の中を、陽光を浴びた氷の粒達がまるで宝石みたいにキラキラと空を舞った。

 これには、子爵含め、他のみんなも歓声を上げた。

 美しい光景にみんなが見惚れる中、オレはシレネを振り返った。

「ワタクシは魔法の力が少なくて簡単なものしか使えないんですの。でも努力したらこんな綺麗な物を作れる様になりましたの」
「ヴィラ様…?」
「これから貴族として生きていくのはとても大変だと思いますの。だけど、努力は裏切りませんの」

 オレはシレネの手をギュッと握った。

「だから大変だと思いますけど、頑張って欲しいですの。そして13歳になったら、また貴族学校で会いたいですの」
「…っ、はい。わたし、がんばります!」

 シレネは泣きながら、でも笑顔で手を振って子爵と去って行った。子爵も何度もオレにお礼を述べて帰って行った。



ーーー


 次話、第一部の最終話です。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...