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第54話−女主人公 橘香澄に似た男は転生者

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後半直す前の文章になっていました!申し訳ございません!直したので再度アップし直しました!

***

「その様子じゃゲームの世界に転生したのは俺だけじゃないようだな」

香澄の姿をした彼は真剣な顔つきをして俺の言葉に頷く。

「……蘆屋満成じゃない。転生者、あの流行の? あなたはいつからここにいるんですか?」

俺は初めて蘆屋満成に転生し記憶を思い出した時のことを思い出した。
もう数年はこの世界で生きていることを話した。

「まあ、いろんなことがあったが悪い思い出はないよ」

善晴と身体の関係があるのは黙って置こう。
俺の口から彼……めんどいな、姿は香澄なだから、香澄でいいか。
香澄に伝える必要性はないよな。もし、知られてもあえて尋ねてこないだろ。
香澄は俺の話を聞きながら、考えこむように眉根を寄せ、目を閉じている。

「あー、蘆屋満成の生い立ちってもゲームじゃそこまで細かく明かされていなかったから話を聞いても馴染みないよな」

ゲームをやりこんでた俺でも最初は戸惑ったし、もし前世の香澄が名前と軽い内容ぐらいしか知っていなかったら満成の過去なんて分からないよな。

すると、香澄はゆっくりと長い睫毛を上げたのと同時に口を開いた。

「それは、僕が作ったシナリオ通りだ」

「僕の? シナリオ?」

驚く俺を見て、香澄はまた頷き神妙な顔つきで云う。

「はい、僕は前世でこの世界、『恋歌物語』のシナリオライターをしていました」

「シナリオライター!?」

俺は声を抑えつつ驚いた言葉を繰り返した。
香澄は俺の驚きをよそに、淡々と自分の置かれた状況を整理するように口に出しはじめた。

「まさか、自分が作ったシナリオの異世界に転生するとは、それによりによって橘香澄とは」

「そうだ! 自分の事はどれくらい覚えているんだ?」

「自分が作ったので橘香澄の設定は覚えています。ただ、まだ記憶があいまいで」

「あいまい?」

「はい、僕が転生? して自分の記憶を思い出したのは一ヶ月ほど前なんです」

一ヶ月前? そんな最近なのか。

「何があったんだ?」

「忠栄さんが言うには僕は羅城門前に倒れていたそうです。そして、そんな僕を助けてくれたのが静春さんらしくて」

「静春が? そうだったのか」

「はい。なので、僕が知っていることはほとんど最近の事しか……」

「そうか」

「ただ身体を休めるようにと忠栄さんに言われたので何もしていません」

「そうか。それなら今の俺の状況も知らないよな」

「どうかしたんですか? そういえば、少女と一緒でしたね。何かあったんですか?」

「ああ、菫か。いやあ、それとは別件なんだが……」

あれ、もしかして少女誘拐したと思われてる?

「さすがに前世の法律がないからといって」

「違う! 断じてそうじゃない! あの子は前世の自分の妹に似てたんだ」

「妹さん、……そうだったんですね。きっとすごくあなたに会いたいと思っていますよ」

「そうだと、嬉しいな。そう想ってくれるだけでいい。俺は忘れられない。だから、忘れてほしくないと思うのは押し付けてることだと思うけど、それでも自分を忘れられると辛い」

自分がしたことは前世の未練を引きづってのことだ。本当は全く関係ない菫を安全ではない京に連れて来るなんてなんて自分本位な行動をしてしまったのだろう。

「貴方の想いは貴方だけのものです。僕は良いと思います。今世で妹さんに似た人を見つけられるなんて、強い縁があるということでしょう」

「ああ、ありがとう」

俺は熱くなる目頭を押さえて涙を引っ込める。

その時―――「泣いているのか満成」

良佳の声が聞こえた思うと、部屋の中に良佳がずかずかと入ってきて持ち上げるように俺の腕を掴む。

「な、泣いてない! 目に塵が入っただけだ」

「なんだ。そうか。ならいい」

良佳の後からずれた烏帽子を手で支える忠栄と、菫と手を繋ぐ和紀が部屋に入ってきた。
まだ、聞きたいことあったんだがな。

忠栄は入ってくるなり満成の傍に寄る。

「勝手に入って悪かったね。彼を止めようとしたんだけど、力が強くて」

「ははは、大変でしたね。兄様、ありがとうございます」

俺はその姿を想像して笑いながら、忠栄の烏帽子を直してやった。

「そうだ! 彼は私の屋敷で預かっているんだけど、同じ部屋でもいいかい? その、まだ片付いてない部屋がいっぱいあって」

この屋敷に越してからだいぶ経っただろうに、この人は相変わらず散らかった部屋を増やしているのか。

「はい、構いませんよ」

「満成、彼と知り合いである理由を尋ねたいところだけど、今すぐはやめておくよ。でも、くれぐれも彼に深入りしてはならないよ」

「なぜですか?」

忠栄は俺の耳元で囁いた。

「彼は橘家のものだ」

俺は目を見開いて、忠栄の目を見つめる。

「昔一度会っただけだが、彼には面影を感じる」

「そうだったんですね」

まさか、彼らも顔を合わせていた時期があったなんて。彼を橘の生き残りだということを隠して行動しようと思っていたが、これでは橘香澄の記憶を取り戻すのは難しいな。

俺は香澄の方を見てギョッとした。

「おい! どうしたんだ? 良佳が怖いか?」

真っ青になった香澄の顔が自分の方に向く。

「どうした?」

そして菫の顔と俺の顔を何度も見比べて、俺の衣の裾を強く握ると「ごめんなさい」と謝る。
その表情はまるで人を殺してしまったのを恐れるよう顔だった。

次の瞬間には香澄は意識を失ったようにその場に倒れた。


***

香澄を部屋で寝かせ、俺が看病をすると言って彼らには入ってこないようにと伝えた。

苦痛の表情を浮かべながら眠る香澄を前に考えを巡らす。

最後に香澄が見ていたのは俺と菫だ。

ふと、俺の頭に疑問に感じていた何かが答えを導き出した。

あれ、香澄って男だったか?

俺は香澄の顔をもう一度見る。

香澄を男にしたような容姿。

ああ、俺は、そうか。

「僕があなたを殺してしまったんです」

俺の考えを共有していたかのように香澄が目を開けて口にした。

「前世で君は死んだ」

「ああ」

「トラックに轢かれそうになった俺を助けて」

「……」

香澄は身体を起こし、土下座した。

「すまない」

怒りが湧くかと思ったがそうでもないな。むしろ、俺が死んだことを証明されてやっと前世で死んだことを実感できた。
むしろ、前世で助けた相手に謝罪のつもりなんだろうが、土下座をされるのはあまり気持ちの好いものではなかった。

俺は香澄の身体を支えて上体を立たせた。

「謝るな。謝られても、もう俺はそれほど前世に未練はないみたいだ」

百パーセントそうか? と言われたら首を振るだろう。

「それよりもあんたは天寿を全うしたのか?」

「……それが、申し訳ないことに、病院に運ばれた時君が昏睡状態にあったのを確認して、その、君のご家族と対面して、部屋を出たあと階段を降りてたら足を滑らせて死んでしまったようだ」

その後、きっと俺は死んでしまったのだろうな。

「あぁ、そうか、それは……痛そうだな」

そうか。その時に俺の妹にあったのか。それで、何度も菫と俺を見比べていたのか。妹の幼いころに似てるなと思ったけど、そういえばあまり顔は変わらなったな。

「……それだけか?」

「なんだ?」

「怒ったりしないのか?」

「あのな、前世のことだ。今どうこう言ったところでどうにもならないだろう」

「そうだが、」

「それよりも、前世でのあんたの顔、今のあんたとそっくりだよな」

「ああ」

「他人の空似ってやつか?」

言いにくそうな表情で香澄は「その、なんていうか」と口にする。

「香澄は僕なんだ」

「ん? ああ、そう、だな?」

香澄に転生したのは前世で香澄を男にしたような彼だったんだよな……ん?

「キャラクター制作の人が、その、僕をモデルにして女性のキャラクターを作ったんだ」

ああ、なんとなく言っていることが分かったぞ。
まあ、美形で薄い身体をしていたし、幼いころはさぞ実少女だったんだろうなと想像できる。
ただ、彼を女性キャラクターのモデルにするなんて、……ナイスすぎるだろう橘香澄を描いた人。

「あんたも大変だな」

本人はすごく恥ずかしがっているから、心の中で留めておこう。

「でも、僕は主人公なんて器じゃないし、そもそも僕男だし」

「まあ、それは俺にも分からんが。これからどうするんだ?」

香澄は困った顔をした。香澄の心配することはわかる。少しでも、心の負担を減らせればいいんだが。

「そうだ! ストーリーが大幅に変わっているんだ。もしかしたら、普通に過ごせるかもしれない」

俺がそう口にすると、香澄は「そうだ!」と何かを思いついたらしい声をだした。

「さっき、倒れた拍子に自分のことを少し思い出したんだ」

「なにを?」

「君がしてくれた話を聞く限り本来は満成が、悪役で主人公を痛めつけるはずだったが、それが無くなったから、本来のこの体は橘家が滅亡したときに灰になってるはずなんだ」

「……そうだな」

香澄はバツが悪そうな俺の顔を見て、慌てて訂正した。

「君を、今の満成を責めているわけじゃないんだ」

「ああ」

香澄は自分の体に傷がないのを確認する素振りを見せた。

「なのに、僕のこの体は五体満足で生きている」

「主人公の記憶を思い出したのか?」

香澄は首を振る。

「残念だけど、そこまで思い出せていない」

「すまない、気が急いた」

「大丈夫。思い出したのは、やはり最近のことだ。
自分が静春に助けられた時のものだ。
なぜかわからないが、静春によって河で溺れていたところを助けられた」

「そういえば、倒れてたの助けられたんだったんだな」

「うん静春にね。それよりも、気がかりなことが他にあるんだ」

「なんだ?」

「安倍善晴のことだ」

俺は心臓が止まりそうになった。なんとか察せられないようにする。

「……どういうことだ?」

「分からない、ただふと彼を思い出してしまう。すふと不安な気持ちになるんだ」

「……そうか、なら、暫く離れておくか?」

「いや、距離をつめようと思う」

「なぜだ?」

「この不安な気持ちの正体がわかれば記憶が戻るかもしれない」

「記憶を戻したいのか?」

「うん」

「記憶を失くしたままでも普通の生活を送ることはできると思うが」

「満成の過去を知っただろう? その後、君は満成として生きようと思えたはずだ」

「……」

「僕も、この姿で生きるのならば嘉子に何があったのか知ってからのほうが生きやすいと思うんだ」

確かにそうだ。なにも善晴と恋仲になりたいと彼は言っているんじゃない。香澄の記憶が戻ってそれを本人が強く望むのであれば良い事だ。

「……そうか、なら協力しよう」

「ありがとう」

俺は柔らかく微笑む香澄に顔を見られないように彼の頭を撫でる。

 善晴に会わねば。
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