乙女ゲームの悪役法師陰陽師に転生した俺は、どうやら昔助けた秀麗な半妖陰陽師を狂わせているようです。

雨宮一楼

文字の大きさ
上 下
42 / 55

第42話−善晴と、呪のこと

しおりを挟む

目の色が戻ったシーバルは、さっきのようにフラフラしなくなった。矢を受けたとは思えないしっかりとした歩みで、俺とニールさんを引き連れ、王宮への抜け道に案内する。

そして王宮の結界の綻びを3人でくぐった時、ニールさんは感嘆の声をあげた。


「まさかこんなところにあったとは。せっかく教えていただきましたがここは塞がせていただきます」

「ああ」


ニールさんはシーバルの返答にまた慌てだす。俺はこのシーバルの声色を聞いて理解した。シーバルは本当に、俺を屋敷に帰すつもりだ。だから父上に報告されて軟禁されようが、抜け道を塞がれようが、関係ないのだ。

俺はまだ彼の優しさや愛に報いていないのに。

俺の焦燥やニールさんの困惑をよそに、シーバルは宮殿とは別の方向に歩きだす。


「怪我の手当をしなければなりませんよ!」


方角的にあの滝と池に行くのだろう。そのまま消えて無くなってしまいそうなシーバルに、ニールさんは必死に呼びかける。


「穢れを落としてくる。着替えを持ってきてくれるか。そのあと宮殿で手当を頼む」


シーバルは俺の前以外ではこういう口調なのだろう。余裕がないのか、それとも諦めてしまったのか、隠そうともしなかった。

ニールさんは宮殿に着替えを取りに行くと、俺とともに歩きはじめた。


「ニールさんは袖付と聞きましたが、ニールさん以外に直接シーバルからの命令を受ける人はいるのですか?」


ニールさんは貴方までなぜ? といった顔で振り返る。確かに自分でも唐突すぎたと反省した。


「シーバルは俺を屋敷に帰そうと手配をするかと思うんです。それを手配する人はニールさん以外にいますか?」

「い、いえ! 袖付は袖の要で、武力を伴わない雑務の命令は私しか受けられない仕組みとなっております! し、しかしなぜ……リノ様が屋敷に帰るからシルヴァル皇は……」


ここで自暴自棄とも取れるシーバルの行動にニールさんも気づいたようだった。


「リ、リノ様……私は一介の袖付で、もし先程の無礼に気を悪くされたのであればどうか私の首をお刎ねください……シルヴァル皇は……」


首を刎ねるという言葉に、青と赤の記憶が呼び起こされたが首を振って払い除けた。


「もし着替えを渡す時にその手配を命令されたら、ニールさんの胸だけに留めていただけませんか?」


ニールさんは口から魂が抜けたような音を出して立ち止まってしまった。


「婚姻とか、そういったものはまだよくわからないのですが、彼の愛に報いたい。それには少し時間をいただきたいのです」

「は……はわわわ……!」

「勝手でしょうか……散々彼の気持ちを踏みにじってきたのに……」

「そ、そそ、そんなことございません! あんな一方的な拙い愛で、リノ様が振り向いてくれるなんて! 本人でさえも思っていません! シルヴァル皇の執念は本来あんなものじゃないんです! きっとリノ様が屋敷に帰られたら……帰られたら……ううっ……」


ニールさんは散々失礼なことを言いながら、妙なところで泣きだしてしまった。



2人はまるで密偵のようにひっそりと宮殿に帰り、治療の方法を教わった。そしてニールさんは着替えを持って大急ぎで宮殿を後にする。

シーバルはあの池で泣いているのだろうか。そして、いつものような無邪気な演技で帰ってくるのだろうか。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

特等席は、もういらない

香野ジャスミン
BL
好きな人の横で笑うことができる。 恋心を抱いたまま、隣に入れる特等席。 誰もがその場所を羨んでいた。 時期外れの転校生で事態は変わる。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズでも同時公開してます 僕の居場所も、彼の気持ちも...。 距離を置くことになってしまった主人公に近付いてきたのは...。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...