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第6話-攻略対象 安部善晴 (幼少時代)

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俺は双葉火玉を女と童のいる部屋に呼び寄せ、合流した。
合流する間に、女に尋ねたことを火玉たちに伝える。

「ここにいる記憶もない、この童も知らないらしい」

「なんと、不思議なこともありますね」

真っすぐな髪を弄りながらあかねは、童を見つめている。
俺は微動だにしない女を観察する。

「この童、ただの熱では?」

天パを揺らしながら動きまわるあかりは熱にうなされる童を覗き込む。
ただの熱、そういったあかりに向かって女は細い腕で掴みかかった。
あかりは、驚いていつものようにぴえと泣きそうになっている。
俺は、女にが殺意がないことに気が付いていて、あかりをほっとき童に近づく。

俺とあかねは観察し終えて、女の方に向く。

「そろそろ、そいつを離してくれないか」

「その子を治せるのか?」

女は震える声で言った。

「ああ、ただの風邪だ。すぐ治る」

「だが、あの人間たちが持っていた薬では治らなかった」

「そりゃそうだろう、おぬしが襲った薬師たちの薬の大半は質が悪い」

女は首をかしげる。

「同じじゃないのか?」

「あいつらは、―─あー、いや話が長くなるから簡潔に言うと、この子に飲ませた薬は病を長引かせる薬だ」

女はその言葉を聞いて、目を見開き恐れた顔で、あかりの首元を離した。
女は童に近づいて愛おしそうに顔に触れ、その額に涙を零した。

「だが、そのままにしておけば力尽きて死ぬだろう」

女は俺を睨む。その瞳には野生で生き延びてきたおびただしい気配を秘めていた。

「そうだな。俺の質問に答えてくれたら救ってやろう」

主人公の攻略対象がここで死んだらこの先不安だしな、それに美男子になると将来が約束されている子供を見殺しにするなんて、無理。それに、ここで彼を救う事でマイナスにはならないだろう。

「何でも答える!」

女は俺の深緋色の狩衣の裾を掴む。女の白い衣の袖から伸びる白く細い手や腕には傷一つなく、まるで上流貴族のように苦労を知らないものだった。

ふうむ、この女と善晴の関係は母子ってことでいいんだよな。公式でも善晴は陰陽師と妖狐の間に生まれた陰陽師ってことだったし。なら、後は、

「嘘を――」

「つかないと約束する。しかし、ここ数日の記憶しかないのは勘弁してほしい」

「なあに、ここ数日の記憶だけで十分だ」

俺は扇の裏で不敵な笑みを浮かべた。
その情報だけで、貴族もお主上も満足できるからだ。
女は安心したらしく、落ち着いた様子で俺の質問を待った。

「うむ、質問は三つ」

「ひとつ、この村を通る薬師を襲っていたのはおぬしで間違いないな」

「ええ、そうよ」

「ふたつ、その薬師はどこにいった?」

「籠だけ奪って裏山の獣道から帰したわ」

俺は考える素振りをして鋭い目つきで女を見つめる。

女の息をのむ音が響く。

「ふむ、最後だ。おぬしは──先ほどのが化けた姿で違いないな?」

「……ええ、ただの狐の私は目が覚めたら白狐になっていたわ。そしてこの姿になることが出来たの」

「わかった」

俺は白い扇をたたみ顔から離すと柔らかな笑顔を白狐に向ける。
女は目をぱちくりさせている。

顔を見せると妖でも驚くのか。こんなに美しいとは思わなかったんだろうな。

「最後に、俺はおぬしを退治にきた陰陽法師だ。おぬしが白狐で薬師を襲っていたのなら殺さねばならない」

「……この子が助かるなら、私の命を持って行っても良いわ」

女は憂いを帯びた表情で童の方を振り向いた。

背を向けた女に俺はにやりと笑うと帯刀していた刀で女に切りかかった。


倒れた女は眼を閉じていた。

頬には雫が一筋通っていた。



俺は女の黒壇の髪の束を紙に包み、懐にしまった。

「……あかり、あかね用は済んだぞ」

二人は俺の行動に驚いたかもしれない。
こうなってしまったのはしょうがないんだ、俺にはこの方法しか思いつかなかった。だから、

「満成様……それは」

「な、何を」

そんな顔をしないでくれ。



「何してんですか!!!???」



双子は綺麗にハモりながら怒鳴った。

「……俺もつい、勢いで」


「勢いで女の髪を一言もなしに斬りつける男がいますか!?」
「相手が白狐だとしても、何も知らない女なのですよ!」

「すまん」

「はあ、もういいです。満成様はこの童の解熱に集中してください。私達が散策した庭の方に多種類の薬草が生えていましたからそこから集めてくると良いですよ」
「僕達は白狐を寝かせて様子を見てますから。何かあったら呼んでください」

「それでは」

双葉は目を笑わせずにニコリと笑みを浮かべている。

やっべ、怒らせた。
妖だから、こんなことで意識失わないだろって思ったのに。
やっぱり後ろから刀を振ったのが駄目だったのか? 
もう少し妖に対しての関わり方について考えよう。

はあ、一人で草摘みに行くのか。寂しいな。

庭に出るとあたり一面に雪が積もっていた。外はすでに日が落ちているせいで何も見えない。

この空間は、やはり白狐が作り出した空間か。
外に出ても野生の動物の気配もなければ、妖の気配もない。
にしても暗すぎて何も見えない。
火は一応持ってきてるから照らせば見えるけど、見える範囲が狭すぎて探すのに不便だ。

「よし!」

俺は見える範囲で木の枝を数本見つけ、草の生えている近くの地面に刺す。枝の先に酒を撒き火を付け、灯りを増やした。

燃えることのない火。
消えることのない火。

双葉火玉の火は敵と認識した対象以外は決して燃やさない。
彼らの命尽きるまで消えることはない。

酒を使うと彼らが力を消費することなく燃え続けるため、このような措置をする。

とりあえず、探しやすくはなったか。
後は、風邪薬の薬草を探すだけだ。

「ん?……これは」

俺は広がった灯りが当たる草のなかからそれをみつけた。
丸い蕾のような白い花びらの先だけを外に向けて、頭を重そうに垂らして咲いている花だ。


天落草てんらくそう

天落草──天から落ちてきた薬草。その命名の意は、その草を煎じて飲めば体の傷、疲労、体調が戻ると言われていることから天からの恵みであると言い伝えられてきた。しかし、この草の生息地は崖の側面であったり、入ったら正常では出られないと言われる洞窟の奥深くであったり、勢いよく流れる川の真ん中にある岩場だったりと、難所でしか見つからず、見た者は採ろうとせず、観賞するだけである。

なぜ、そんな貴重な薬草がこんなに沢山生えているんだ!!
と、取り敢えず、いくつか拝借していくか。
何かの役に立つかもしれん。

俺は火を一つの火に戻し、太郎丸の分と、自分のくすねた分を持って太郎丸のもとに戻った。

苦しそうに寝ている善晴は俺の帰りに気づいて目を開けた。

キラキラと光る瞳は、まるで宝石のようだ。

「あの、母様は無事なのですか?」

「……無事だ」

まさか、話しかけられるとは思ってなく、未来で俺を呪い殺す青年の声とは違った高い子どもの声に、まだ現実は始まったばかりだと安堵した。

「そう、ですか。良かったあ」

「ほら、すぐに薬を作ってやるから、……まずは自分の体調を戻すことだけ考えろ」

「……はい。あの、ありがとう」

「ふん、礼を言うのは治ったらだ」

俺は天落草を煎じた薬を太郎丸に飲ませる。
太郎丸は吐き戻したりせず、最後まで飲みきった。

子供のくせに駄々をこねないんだな。

藤千代だったら、薬を持ってきた時にはすでに布団から逃げてるからな。
……こんなに手が掛からないなんてな。
幼少期から年相応ではないのか、聞き分けがいいだけなのか。

未来の安倍善晴を考えると精神年齢が大人びてるんだろうな。

「太郎丸、もう寝ろ。お前の母様が起きたらお前も起こしてやるから」

「うん」

太郎丸はいくらか調子が落ち着いたらしく、顔色が徐々に良くなってきた。
規則正しい寝息を立てる太郎丸の顔は童らしかった。

なんともまあ、善晴の幼少期は愛らしい顔だな。
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