【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第四章 最愛の番

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南の家に着いた途端、拓海は尋ねた。
「南先輩は写真の女性を知っていますか?」
拓海は自分の自宅で写真を見た南の顔が険しくなった事に気付いた。
 だからと言って、南先輩は写真に驚いただけかもしれないのに。
「……知ってる」
「秀也の何ですか?」
「それは」
南の気まずそうな顔を見て、察した。
「恋人ですか?」
 肯定されたいのか? 俺はそうであってほしいなんて望んでいないのに。
南は黙る。どう答えるべきか、そもそも自分が言うべき事なのか、南は悩んでいる。
「教えてください。秀也の何ですか」
拓海の口は止まらなかった。 
 南先輩を困らせたいわけじゃない。どうして勝手に口が動いてしまうんだ。
感情と体の整理がつかず、拓海は情緒が乱れ、泣きたいわけでもなかったのに、涙が出た。
涙を止められず、そのまま南の方を見つめる。
南が傷ついた顔をして、拓海から顔を背けた。
 ああ、俺はなんで人を困らせてばかりいるんだ。
南は部屋の中に入り、手にハンカチを持ってすぐ戻ってきた。
拓海の涙を拭いながら、怒りを含む喉を絞るような声で言った。
「元婚約者だ……二人が一緒にいる理由は分からないが」
 元婚約者? 
拓海はなぜか腑に落ちたような気がした。
 最近送られてきた写真の中の秀也の顔が柔らかくなったのも、より戻したという事か? 
南は涙を流したまま固まって動かない、拓海を強くに抱きしめた。

***
拓海は南の家に泊まり始めて半年が経とうとしていた。
二人で仕事から帰ると、南は準備しておいた荷物を廊下に置いた。
「拓海。明日から実家の方に泊まるから」
南は実家の病院経営の勉強で一ヶ月ほど長期休暇を取ることになった。
勤めている病院も南の実家が経営に携わっているため、簡単に許可が下りた。
「はい。あの、南先輩がいないのに残ってても本当に大丈夫ですか?」
「良いんだよ。あの家はもうほとんど帰ってないだろう」
”ほとんど”というが、南の家に移ってからは一度も戻っていない。
拓海が戻ろうとしても、南に鍵を預けたままで、なんとなく拓海は返して欲しいとは言えずにいた。
「外科の方も大分慣れたか?」
南が長期間空ける為、拓海は外科の方も担当する事になった。といっても一人では診ず、主に院長の補佐の様な業務に就いていた。三年程の研修中も副院長の近くで患者を見ながら、院長の診察も見学していた事もあり、おおまかな仕事は身についていた。
「院長は明日から独り立ちしても良いぐらいって、だから、南先輩は何も気にせず一ヶ月頑張ってください」
「はは、頼もしいな」
次の日、南がいない朝を迎え、拓海もいつも通り仕事に向かった。
仕事から帰ってくるまでは。
南の家に着いたタイミングでスマホが振動し、拓海はスマホを確認した。
スマホには【池上秀也】と着信があった。
ニ、三回鳴ってから拓海は震える手で「もしもし」と電話に出た。
スマホの奥から一年ぶりの秀也の声が聞こえた。拓海は脈の鼓動が早くなるのを感じた。
 どうして、連絡が無かったんだ。なぜ、婚約者とアメリカで一緒に生活をしていた。
聞きたい事が頭をいっぱいにして、何も話しかけられなかった。
『空いている日があったら、教えて頂けませんか? お話したい事があります』
秀也からの電話は、拓海の無意識に出た休日の日付に対しての返事と、『失礼します』を最後に終わった。
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