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第四章 最愛の番
十一
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家に帰ると、拓海は南が帰ってくる一ヶ月後には自宅に戻るつもりで荷造りを始めた。
なぜなら、秀也と別れたのだから、写真が送られてくるのも止むだろうと思ったからだ。
自宅から持ってきた少ない荷物と同居するなかで増えた自分の物は意外と少なく、大きいボストンバック一個に収まった。
秀也と別れてから数週間経ったある日、拓海は診療が始まる前に診察室の掃除をしていると、裏から看護師が中に入ってきて、封筒を拓海に渡した。
「病院のポストに新条先生宛のお手紙が届いていましたよ」
「ありがとうございます」
看護師は仕事に戻り、拓海は手紙を一旦机に置いてゴミ出しに出た。
診察室に戻ってから拓海は誰からだろうと思い、封を切り中を確認した。
「……どうして」
手紙が一枚入っていた。内容は拓海を脅すものだった。
【五十嵐南は或るΩの恋人を殴り、ケガをさせた。そんな彼は今、実家が理事を務めている病院で医者をしている。さらには今後実家の病院経営の方でも活躍していく様だ。
しかし、私はこの国の医療業界に人に対して暴力を行う医者が存在していいのだろうかと、甚だ疑問に思う。今後彼が病院を経営していくとなれば、患者がどのような扱いを受けるか明白である。
なお、この時のΩは彼の片思いの相手である事が判明している】
どこの会社なのか、誰が書いたのか、そういった所在を明らかにするものは何処にも書いていない週刊雑誌の一面の様な記事。
その一番上に一文が書かれていた。
【新条拓海。お前が今勤めている病院をやめなければいつかこの紙面が世に広まるだろう】
同封されていた二枚の写真はあの日、学生だった頃の拓海と秀也が路地裏から出て、二人が口づけをした場面に南が鉢合わせ、秀也を殴った場面だった。三人の顔が見えるものと南が腕を振り降ろし秀也が頬に手を添えているのが分かる写真だった。しかし、秀也の顔は目鼻口を隠すようにモザイクが掛けられていた。
「なんで、どうして」
拓海は大学時代、理事長に呼び出された記憶を思い出した。
理事長は悪意ある記事をネット公開している有名な記者って言ってた。という事は、もしこのままここで働き続けたら、この送り主はここに書いてある通りにするかもしれない。
持っていた写真を掴む手が緩み、手から離れると写真は机に落ちた。
拓海は手で顔を覆い「……もう終わったと思ってたのに」と息を吐き出すように小さく呟いた。
なぜなら、秀也と別れたのだから、写真が送られてくるのも止むだろうと思ったからだ。
自宅から持ってきた少ない荷物と同居するなかで増えた自分の物は意外と少なく、大きいボストンバック一個に収まった。
秀也と別れてから数週間経ったある日、拓海は診療が始まる前に診察室の掃除をしていると、裏から看護師が中に入ってきて、封筒を拓海に渡した。
「病院のポストに新条先生宛のお手紙が届いていましたよ」
「ありがとうございます」
看護師は仕事に戻り、拓海は手紙を一旦机に置いてゴミ出しに出た。
診察室に戻ってから拓海は誰からだろうと思い、封を切り中を確認した。
「……どうして」
手紙が一枚入っていた。内容は拓海を脅すものだった。
【五十嵐南は或るΩの恋人を殴り、ケガをさせた。そんな彼は今、実家が理事を務めている病院で医者をしている。さらには今後実家の病院経営の方でも活躍していく様だ。
しかし、私はこの国の医療業界に人に対して暴力を行う医者が存在していいのだろうかと、甚だ疑問に思う。今後彼が病院を経営していくとなれば、患者がどのような扱いを受けるか明白である。
なお、この時のΩは彼の片思いの相手である事が判明している】
どこの会社なのか、誰が書いたのか、そういった所在を明らかにするものは何処にも書いていない週刊雑誌の一面の様な記事。
その一番上に一文が書かれていた。
【新条拓海。お前が今勤めている病院をやめなければいつかこの紙面が世に広まるだろう】
同封されていた二枚の写真はあの日、学生だった頃の拓海と秀也が路地裏から出て、二人が口づけをした場面に南が鉢合わせ、秀也を殴った場面だった。三人の顔が見えるものと南が腕を振り降ろし秀也が頬に手を添えているのが分かる写真だった。しかし、秀也の顔は目鼻口を隠すようにモザイクが掛けられていた。
「なんで、どうして」
拓海は大学時代、理事長に呼び出された記憶を思い出した。
理事長は悪意ある記事をネット公開している有名な記者って言ってた。という事は、もしこのままここで働き続けたら、この送り主はここに書いてある通りにするかもしれない。
持っていた写真を掴む手が緩み、手から離れると写真は机に落ちた。
拓海は手で顔を覆い「……もう終わったと思ってたのに」と息を吐き出すように小さく呟いた。
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