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第四章 最愛の番
九
しおりを挟む「おかえりなさいませ、アンセル様」
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
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