【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第三章 愛した人

十四

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拓海は、最後の患者を副院長と診た後、院長の診察室を確認すると、院長室に向かった。
「診察お疲れ様です。こちらに座って下さい」
部屋の中に入ると、院長は椅子から立ち上がり、ローテーブルを挟んだ向かいのソファに座るよう促した。
「新条先生が勤勉に働いてくれてから、そろそろ一年が経ちますね」
「はい、おかげ様で」
拓海はやや緊張しながら答える。
「新条君、体調の方は問題ありませんか?」
「体調ですか? 特に問題はありませんが」
「それは良かった」と院長が微笑む。
「あまり立ち入った話になってしまうといけないと思ってはいるのだけれどね、これから任せる業務上で新条君に負担がかからないようしたいと考えていて」
 何の事だろう? 
院長は不本意な話をしてしまう事を躊躇いがちに話し始めた。
「君のバース性の事でね、聞きたいことがあって」
拓海は心拍数が上がるの感じた。心臓の音が激しく波打ち、何を聞かれるのだろうかと思う不安に襲われた。
院長は拓海の顔が青ざめていくのに気づいたらしく、不安を取り除くような優しく落ち着いた口調で続けた。
「この病院にはαは僕と五十嵐君しかいないけど、これから君が一対一で患者さんを診るようになるとアルファの患者も少なからず診察に来るのだけれど、新條君のヒートとアルファの患者さんが半個室にいることになるのは少し心配事があってね」
「はい」
 院長が言っている事はもっともだ。俺は番を持っていない。番を持っていないオメガほど面倒な存在はいないだろう。なんて言われるのだろう。医者として患者を診る事は許されないのだろうか。
「その、君が良ければなんだが、君のヒートの周期をこちらでも管理していいだろうか? それで周期が近づいてきたら副院長の傍でこれまで通りの業務を続けてほしいと思ってね。五十嵐君もたまに僕の患者さんを一緒に診てる時もあるから、君がヒート期間だと公然になる事がないように、更に気をつけます」
院長は真剣な顔つきで「デリケートな事聞いてしまってすまないね」と言った。
申し訳なそうにそう言われたのは初めてだった。デリケート。ヒートの周期を教えるというのは、自分が発情し子を孕む事を目的とした期間だ。これまで拓海は、まるでオメガのせいで他に被害が出ないため、と言われるように学校や公的機関に必要とされた時だけヒートの周期を紙一枚を通して提出していた。
紙一枚の書類上と違って面と向かって言われることの方が恥ずかしいはずなのに、不快感は全くなかった。むしろ拓海はこうして自分の身を案じて策を講じてくれた事に驚いた。
「はい! あの、問題ありません。そのようにご配慮くださり、ありがとうございます!」
院長は「良かった。もし、何かあったら副院長がバース性をよく勉強しているから、気になることがあったら話を聞くと良いよ」と言うと、ゆっくりと立ち上がり、「これからもよろしく頼むよ」と言って拓海に手を差し出した。
拓海は「はい!」と返事をして握り返した。
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