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第三章 愛した人
十一
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***
お昼頃、秀也は図書館で試験勉強をしようと荷物をまとめて自室から出た。
秀也の実家は一階から三階まで吹き抜けになっている。一階のリビングから父と母の声と一緒に聞き覚えのある女性の声が聞こえた。階段から下を覗き込むと、そこには秀也の幼馴染でもあり、元婚約者がいた。
「何してるの?」
秀也はリビングにいる彼らに声をかけた。
すると、母は「秀也さん、どこか出掛けるの?」と言いながらソファから立ち上がると秀也に近寄る。
母は秀也の腕を引いて、元婚約者が座るソファの横に座らせた。
「ごめんなさいね、お菓子を焼いたから持ってきたの。秀也さんはきっとお忙しいと思って、お母様にお渡しするだけにしようと決めていたのだけれど、お母様のお言葉に甘えて、お話をしていましたの」
「なあに言っているだ、君は秀也の幼馴染でもあるんだから、もっと気軽に家に来て良いんだぞ」
父は将来息子の嫁になるだろうと思っていた彼女を、今でも手厚く持て成す。それには、今後二人の気持ちが固まれば、婚約を結びやすいからだ。
父も母も綾子を気に入っているからな。
「綾子さん、僕はこれから大学に行かなきゃいけないんだ。だから、お菓子は帰ったら頂くよ、持ってきてくれてありがとう」
「ええ、では、私もそろそろ帰りますわ。秀也さんと同じ大学に入学出来たんですもの。秀也さんに勉強を怠っていると思われたくありませんから」
「あら! 綾子さんは勉学によく励まれているじゃない。お母様から様子を伺っているわ。本当に素晴らしいわね」
「秀也、綾子さんを送っていってやりなさい」
「それでは、失礼致します」
秀也と綾子は家から出ると運転手を呼んで、最寄り駅まで送ってもらった。
その道中、秀也は綾子から思わぬ話をされた。
「私ともう一度婚約を結んでほしいの」
「……その事については、君も了承した上で婚約を解消したじゃないか」
運転手には、後部座席の声が聞こえないように保護をされて聞こえないため、綾子の話にこのように答えることが出来た。もし、運転手に聞こえていたら、父に連絡がゆき話を纏めかねなかった。
「君には彼女がいるだろう? なぜ今になって」
「別れたのよ、あの子……妊娠したの」
「……彼女って、確か」
「ええ、ベータよ」
綾子はαだ。だから、Ωの彼女であれば妊娠は可能だった。しかし、秀也も以前この婚約解消の話を持ち掛けられた時、相手の女性がβであると聞かされていた。
「やめてくれ、知っているだろう? 僕には愛する人がいるんだ」
「ええ、そうね。でも、貴方達も上手くいっていないのでしょう?」
「関係ないでしょう」
秀也は拓海を思い浮かべる。綾子の見透かす様な瞳から逃げるように、目線を避ける。
綾子は秀也の気持ちを気にする事もなく話を続けた。
「彼の運命の番が、彼と同じ職場にいるってどんな気持ち?」
秀也は血走った目で綾子を睨んだ。
お昼頃、秀也は図書館で試験勉強をしようと荷物をまとめて自室から出た。
秀也の実家は一階から三階まで吹き抜けになっている。一階のリビングから父と母の声と一緒に聞き覚えのある女性の声が聞こえた。階段から下を覗き込むと、そこには秀也の幼馴染でもあり、元婚約者がいた。
「何してるの?」
秀也はリビングにいる彼らに声をかけた。
すると、母は「秀也さん、どこか出掛けるの?」と言いながらソファから立ち上がると秀也に近寄る。
母は秀也の腕を引いて、元婚約者が座るソファの横に座らせた。
「ごめんなさいね、お菓子を焼いたから持ってきたの。秀也さんはきっとお忙しいと思って、お母様にお渡しするだけにしようと決めていたのだけれど、お母様のお言葉に甘えて、お話をしていましたの」
「なあに言っているだ、君は秀也の幼馴染でもあるんだから、もっと気軽に家に来て良いんだぞ」
父は将来息子の嫁になるだろうと思っていた彼女を、今でも手厚く持て成す。それには、今後二人の気持ちが固まれば、婚約を結びやすいからだ。
父も母も綾子を気に入っているからな。
「綾子さん、僕はこれから大学に行かなきゃいけないんだ。だから、お菓子は帰ったら頂くよ、持ってきてくれてありがとう」
「ええ、では、私もそろそろ帰りますわ。秀也さんと同じ大学に入学出来たんですもの。秀也さんに勉強を怠っていると思われたくありませんから」
「あら! 綾子さんは勉学によく励まれているじゃない。お母様から様子を伺っているわ。本当に素晴らしいわね」
「秀也、綾子さんを送っていってやりなさい」
「それでは、失礼致します」
秀也と綾子は家から出ると運転手を呼んで、最寄り駅まで送ってもらった。
その道中、秀也は綾子から思わぬ話をされた。
「私ともう一度婚約を結んでほしいの」
「……その事については、君も了承した上で婚約を解消したじゃないか」
運転手には、後部座席の声が聞こえないように保護をされて聞こえないため、綾子の話にこのように答えることが出来た。もし、運転手に聞こえていたら、父に連絡がゆき話を纏めかねなかった。
「君には彼女がいるだろう? なぜ今になって」
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「……彼女って、確か」
「ええ、ベータよ」
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「やめてくれ、知っているだろう? 僕には愛する人がいるんだ」
「ええ、そうね。でも、貴方達も上手くいっていないのでしょう?」
「関係ないでしょう」
秀也は拓海を思い浮かべる。綾子の見透かす様な瞳から逃げるように、目線を避ける。
綾子は秀也の気持ちを気にする事もなく話を続けた。
「彼の運命の番が、彼と同じ職場にいるってどんな気持ち?」
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