【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼

文字の大きさ
上 下
42 / 65
第三章 愛した人

十一

しおりを挟む
***
お昼頃、秀也は図書館で試験勉強をしようと荷物をまとめて自室から出た。
秀也の実家は一階から三階まで吹き抜けになっている。一階のリビングから父と母の声と一緒に聞き覚えのある女性の声が聞こえた。階段から下を覗き込むと、そこには秀也の幼馴染でもあり、元婚約者がいた。

「何してるの?」

秀也はリビングにいる彼らに声をかけた。

すると、母は「秀也さん、どこか出掛けるの?」と言いながらソファから立ち上がると秀也に近寄る。
母は秀也の腕を引いて、元婚約者が座るソファの横に座らせた。

「ごめんなさいね、お菓子を焼いたから持ってきたの。秀也さんはきっとお忙しいと思って、お母様にお渡しするだけにしようと決めていたのだけれど、お母様のお言葉に甘えて、お話をしていましたの」

「なあに言っているだ、君は秀也の幼馴染でもあるんだから、もっと気軽に家に来て良いんだぞ」

父は将来息子の嫁になるだろうと思っていた彼女を、今でも手厚く持て成す。それには、今後二人の気持ちが固まれば、婚約を結びやすいからだ。

父も母も綾子を気に入っているからな。

「綾子さん、僕はこれから大学に行かなきゃいけないんだ。だから、お菓子は帰ったら頂くよ、持ってきてくれてありがとう」

「ええ、では、私もそろそろ帰りますわ。秀也さんと同じ大学に入学出来たんですもの。秀也さんに勉強を怠っていると思われたくありませんから」

「あら! 綾子さんは勉学によく励まれているじゃない。お母様から様子を伺っているわ。本当に素晴らしいわね」
「秀也、綾子さんを送っていってやりなさい」

「それでは、失礼致します」

秀也と綾子は家から出ると運転手を呼んで、最寄り駅まで送ってもらった。
その道中、秀也は綾子から思わぬ話をされた。

「私ともう一度婚約を結んでほしいの」

「……その事については、君も了承した上で婚約を解消したじゃないか」

運転手には、後部座席の声が聞こえないように保護をされて聞こえないため、綾子の話にこのように答えることが出来た。もし、運転手に聞こえていたら、父に連絡がゆき話を纏めかねなかった。

「君には彼女がいるだろう? なぜ今になって」

「別れたのよ、あの子……妊娠したの」

「……彼女って、確か」

「ええ、ベータよ」

綾子はαだ。だから、Ωの彼女であれば妊娠は可能だった。しかし、秀也も以前この婚約解消の話を持ち掛けられた時、相手の女性がβであると聞かされていた。

「やめてくれ、知っているだろう? 僕には愛する人がいるんだ」

「ええ、そうね。でも、貴方達も上手くいっていないのでしょう?」

「関係ないでしょう」

秀也は拓海を思い浮かべる。綾子の見透かす様な瞳から逃げるように、目線を避ける。
綾子は秀也の気持ちを気にする事もなく話を続けた。

「彼の運命の番が、彼と同じ職場にいるってどんな気持ち?」

秀也は血走った目で綾子を睨んだ。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

処理中です...