【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第三章 愛した人

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「新人の新條拓海と申します。まだ未熟ですが、精一杯頑張ります。どうか、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

勤務初日、朝のミーティングで拓海は緊張しながら挨拶をした。
拍手の音とあたたかい言葉をかけられ、拓海はホッとした表情を浮かべた。
個人経営だからか、従業員もそう多くはない。
院長の深見聡、院長の奥さんで副院長の深見梓、看護師の三人だった。
院長は外科、副院長は内科・小児科を担当しており、南は外科を担当しているので、拓海は副院長の元で補佐をしつつ、内科を担当することになった。
拓海は事前に南から全員のバース性を教えてもらっていた。これは院長が職員個人と相談してから南が拓海にだけバース性を教えた。
院長と南はαで、ほか職員は全員βであることが分かった。
拓海の緊張がすぐに解けたのも、β性が多かったのもある。学生の頃は就職することに必死で大型病院しか考えていなかったが、この仕事先に就けてよかったと心から感じた。

拓海は午前中副院長の後ろに付き、お昼は休診で院長が毎日人数分頼む和牛弁当を食べ、午後は看護師と器具や機械を準備、片付けなどを行った。
南も初日の拓海に気を使うように誰もいないタイミングを見計らって声を掛けていた。

病院が閉まると拓海は看護師さんから飴やクッキーなどを貰った。
「初日お疲れ様!」
「これ良かったらもらってね~」
「作業丁寧で早くて助かったわ!」
看護師さんは子供のお迎えあるからお先に~と言って帰っていった。
貰ったお菓子を見つめてつい、拓海は笑みがこぼれた。

すると、後ろから急に背中を軽く触れられた。
振り向くとそこには小柄で眼鏡をかけた副院長がいた。
「新條さん、初日から頑張ってくれて頼もしいわ」
と微笑みながら言った。
「副院長、あの、自分何か問題な点はありませんか?」
「問題ないよ、よく働いてくれてる」
「よ、良かったです」
「ふふ、あ、一応就業時刻まで後三十分あるけど、休憩室で休んでていいよ」
「いえ! あのお手伝い出来る事、ありませんか?」
「んー、そうだな。新規のカルテは、もうみんながやってくれてるし、雑用も当番制だから特にないか」
そう言って色々考えて貰うことに、拓海は申し訳なく思った。
「やっぱりないね! あ、新しいインスタントコーヒーを買ったんだった! 新條さん甘いコーヒー飲める?」
急にコーヒーの話題になり、拓海は頭が追いつかず「はい?」と言ってしまい、あわてて「いえ、飲めます!」と答えた。
「良かった。じゃあ一緒に休憩しよっか!」
副院長と休憩室で新しく買ったらしいインスタントコーヒーコーヒーを飲み、常備してある籠に入ったお菓子を食べながら休憩していると、少ししてから院長と南も休憩室に入ってきた。
就業時間まで、拓海は三人のこれまでの仕事の話を聞いて過ごした。
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