【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第三章 愛した人

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***
 秀也と知らない女が一緒に居たのを見てから数日。以前通り、秀也は拓海の前に現れた。いつも通りの朝、正門の前にいる懐かしい彼の姿に、口元がつい綻ぶ。
「拓海先輩!! 返信出来ずにいてすみません。スマホが壊れて修理に出してました」
「そう、だったのか」
 なんだ、返信をしなかったのは壊れてたからか。でも、あの女性は……? 本当にスマホは壊れて修理に出してた? 一度も顔を見せなかったのはなぜ?
 頭のなかで疑問がぐるぐると浮かんでいる。
「課題も山積みでやっと解放されました。拓海先輩に会ったら勉強に手が付かなさそうだったので」
 ならなんで、女性と会ってた? 彼女は俺より、大事な人なのか? スマホが無くて会う仲? もしかして、頻繁に会っていたのか? 憶測だけが拓海の頭を支配する。
「……ハハ、やっと冬休みに入るから休めるな」
 あの女性は誰? と言ってしまいそうになった。でも、秀也が俺の所に来てくれているなら、わざわざ聞かなくても良い事なのかもしれない。
「具合、悪いんですか?」
 秀也の手が拓海の顔に触れそうなところで、拓海は咄嗟に手を払った。
「あ、ああ少し風邪かもしれない」
「拓海先輩、あの今日家にお邪魔しても良いですか?」
 秀也の柔らかい笑みが、今日に限って不安になる。拓海は秀也の顔を見れなかった。
「あっ……、ごめん。国家試験の勉強をしたいから」
「分かりました」
 なんで、お前が傷ついたみたいな顔をするんだよ。拓海は何も言わずにその場から立ち去った。少しして振り返ると、彼の姿を眺める人と同じになった気がした。
 ああ、痛いなあ。

図書室で勉強して、気づいたら閉館時間になり帰路につく。拓海は秀也と話したい事があったのを思い出した。秀也を前にして、その事は頭から消えてしまったのだ。
しまった。南先輩の事言うの忘れてた。どうしよう。
 所在なさげにスマホを操る。思いのほか、秀也への疑いが強くなっている事に気付く。何も聞いていないのに、だからこそ逆に不信感が強くなっているのかもしれない。
 会いたいけど、会いたくない。もし、今日家に呼んでいたら、この気持ちは晴れていただろうか? いや、もし、別れ話だったら……。
「どうしたらいいんだよ」
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