【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼

文字の大きさ
上 下
33 / 65
第三章 愛した人

しおりを挟む
 あの出来事から、半年が過ぎた。その間、Ωという理由だけで就職先が見つからず六年生となった拓海は焦り始めた。
 そんななか、これまで音沙汰無かった南からメッセージが届いた。大学の近くのカフェで会おう、と。
 秀也の実家にも耳に入っていた記者の話を、医療関係者から南も聞いただろうと拓海は考えた。彼に謝罪も兼ねて、会うことにした。
 
 南先輩にも、周りの人に迷惑をかけてまで、医者になる必要って……。俺には人を救う権利は無いのか? 

 拓海は講義が終わった後、カフェに向かった。カウンターに席を取っていた南が、拓海に気づいたようで手を振った。
 レジカウンターで頼んでいた珈琲を受け取って、南の隣の席に腰掛けた。
 拓海の謝罪から二人の会話は始まった。南は記者の話を直接理事長から聞いたらしかった。拓海は南の親の会社や彼の勤め先の病院に打撃はなかった話を聞いて安堵した。
 しかし、南の話を聞いてすぐにその安堵は驚きに変わった。どうやら、南が理事長から話を聞いた時に拓海の就職先の話を知ったらしかった。
「親のツテでΩを受け入れる病院を探したんだけど……」
 拓海は心の中で、やはり経営の仲介をしている南の家でも、Ωを受け入れてくれる病院を探すのは困難なのかと思い、握りしめた手に力が入った。しかし、南の話は続くらしく、「そのことで」と言った彼から病院の資料が入った紙袋を南から渡された。
「その……俺が働いている病院の院長が君にぜひ来てほしいって」
 拓海は目を見開いた。彼の勧誘は拓海にとったら願ってもない話だ。しかし、拓海はすぐに応える事は出来なかった。
「でも、俺は南先輩にもご迷惑をかけてしまいました」
 あの夜の出来事は彼ら三人の仲で目を逸らしてはいけない問題だからだ。しかし、それよりも【運命の番】である南の傍に自分がいる事を秀也が知ったら嫌な気分になってしまうのではないか、自分が【運命】に否定的でも、秀也は【運命】に肯定的だ、と頭を悩ませてしまう。
 南が小さく溜息をついた。カップの中を見つめていた拓海の肩に南の大きな手が置かれた。少し力強く感じたそれは、気のせいかと思えるほどだった。
「拓海も……【運命の番】に縛られずに生きていく道を選ぶ事が出来るんだ、それに拓海はすでに心を決めたんだろ? ……俺の事は気にするな」
「でも」
「それと、経験だと思って気軽に就職してきてよ。……医者になるしか道は無いだろう? きっと、池上も分かってくれるさ」
「……」
「んー、実はな、俺が今いる病院さ人が足りなくて、俺ひとりじゃ流石に持たないんだよ、だから人助けだと思って! な!」
 南は顔の前で両手を合わせる。

 むしろ自分が頼み込む方なのに、南先輩はこんな俺を……見捨てずにいてくれるなんて。

 拓海は南の手に触れて両手を離す。
「……南先輩、ありがとうございます。俺病院に迷惑をかけないよう、精一杯つとめさせていただきます」
「頼もしい後輩を持って……俺は幸せもんだな」
 南はそう言ってあまり見ることのない、ふんわりとした甘い笑みを目元に浮かべた。
 拓海は南の目を見て、「本当にありがとうございます」と言ってから頭を下げた。
 南はすぐに「頭を上げろ!」と小声で言った。周りの目が自分達に集中していることに気づいて拓海は慌てて頭を上げた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

婚約者の恋

うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。 そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した! 婚約破棄? どうぞどうぞ それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい! ……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね? そんな主人公のお話。 ※異世界転生 ※エセファンタジー ※なんちゃって王室 ※なんちゃって魔法 ※婚約破棄 ※婚約解消を解消 ※みんなちょろい ※普通に日本食出てきます ※とんでも展開 ※細かいツッコミはなしでお願いします ※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

処理中です...