【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

文字の大きさ
上 下
32 / 63
第三章 愛した人

しおりを挟む
 二人の何度目かの絶頂が峠を超えた頃。拓海の首にある黒いチョーカーの上から向きを変えて噛まれた跡が痛々しく残っている。拓海はその度に腹の底のあたりが縮こまる。
 拓海は、理性は残っているため、秀也の口が離れると項を隠す。

 番は、まだ怖い。

 拓海の心の中では【運命】以上に恐れているかもしれない。いや、本当に未来を共にする番を信じる事が出来れば、ここまで臆病になる事は無いかもしれない。だが、拓海が秀也を信じていないわけではなかった。
 ただ、幼かった拓海の心を傷つけた過去の記憶が、番となるの気持ちを留まらせた。秀也を受け入れるには心の余裕がまだ足りなかった。
 拓海の心情を察してか、秀也はその後も拓海の項のズレたところを番になれずとも自分の物であるかのように跡を残していった。
***
 シーツは二人の射精で湿っている。最初のそれらは乾いていて、触れたところがさりさりとしている。
 拓海は何度も何度も、絶倫とも言える秀也の求めに応じた。
 うつ伏せになっている拓海の身体に秀也が覆いかぶさっている。体重が掛かっていないため、拓海は苦しくなかった。
「やっぱり僕の運命の人は貴方しかいません」
「……」
 拓海は笑顔を向けることも、頷く事も出来なかった。
 それでも、秀也が幸せそうに柔らかい笑みを浮かべて額にキスをしてきため、拓海は不安に思うことも無く、心はホッとした。
 部屋の時間を確認すると、短針はすでに真上を過ぎていた。

 まさか、夕方に始まって落ち着いたのが深夜とは……。尻もヒリヒリするし、少し動くだけで中から垂れてくる。

 拓海は声を出そうとしたが、何時間も喘ぎ続け、得ていた水分が相手の唾液だけだった喉からは「ごほッ」と乾燥した咳が出た。
「拓海先輩! 大丈夫ですか!」
「ンンッ、……うん」
 台所から濡れたタオルを持ってきた秀也が、拓海の咳を聞いて、慌てて近づいた。
 拓海は身体を起こしてくれ、と秀也の方に両腕を伸ばした。
「無理しないでくださいね、今身体を拭きます」
 秀也が冷たいタオルで射精して飛んだ場所を綺麗に拭き取っていく。拓海はカサついた喉を潤す物が欲しいと思った。
「喉が乾いた」
「あ、水を持ってきま──」
「待てないから」そう言って拓海は秀也の後頭部に手を伸ばし、顔を近づかせて唇を合わせる。
 秀也の手が顔に優しく触れるのを感じて、柔らかい唇の隙間を割るように舌を入れる。秀也の口内から拓海の口の中へと流れた水分は、最後二人の離れた唇の間に透明な糸を作った。
「……ちゃ、ちゃんと水分取らないとですよ! 水持ってきます!」
「ああ」
 顔を真っ赤にした秀也が台所で動揺しているのが分かるくらい音を立てながらコップに水を入れている。その姿を見て、拓海は微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

記憶喪失の君と…

R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。 ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。 順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…! ハッピーエンド保証

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

処理中です...