【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第三章 愛した人

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 二人の何度目かの絶頂が峠を超えた頃。拓海の首にある黒いチョーカーの上から向きを変えて噛まれた跡が痛々しく残っている。拓海はその度に腹の底のあたりが縮こまる。
 拓海は、理性は残っているため、秀也の口が離れると項を隠す。

 番は、まだ怖い。

 拓海の心の中では【運命】以上に恐れているかもしれない。いや、本当に未来を共にする番を信じる事が出来れば、ここまで臆病になる事は無いかもしれない。だが、拓海が秀也を信じていないわけではなかった。
 ただ、幼かった拓海の心を傷つけた過去の記憶が、番となるの気持ちを留まらせた。秀也を受け入れるには心の余裕がまだ足りなかった。
 拓海の心情を察してか、秀也はその後も拓海の項のズレたところを番になれずとも自分の物であるかのように跡を残していった。
***
 シーツは二人の射精で湿っている。最初のそれらは乾いていて、触れたところがさりさりとしている。
 拓海は何度も何度も、絶倫とも言える秀也の求めに応じた。
 うつ伏せになっている拓海の身体に秀也が覆いかぶさっている。体重が掛かっていないため、拓海は苦しくなかった。
「やっぱり僕の運命の人は貴方しかいません」
「……」
 拓海は笑顔を向けることも、頷く事も出来なかった。
 それでも、秀也が幸せそうに柔らかい笑みを浮かべて額にキスをしてきため、拓海は不安に思うことも無く、心はホッとした。
 部屋の時間を確認すると、短針はすでに真上を過ぎていた。

 まさか、夕方に始まって落ち着いたのが深夜とは……。尻もヒリヒリするし、少し動くだけで中から垂れてくる。

 拓海は声を出そうとしたが、何時間も喘ぎ続け、得ていた水分が相手の唾液だけだった喉からは「ごほッ」と乾燥した咳が出た。
「拓海先輩! 大丈夫ですか!」
「ンンッ、……うん」
 台所から濡れたタオルを持ってきた秀也が、拓海の咳を聞いて、慌てて近づいた。
 拓海は身体を起こしてくれ、と秀也の方に両腕を伸ばした。
「無理しないでくださいね、今身体を拭きます」
 秀也が冷たいタオルで射精して飛んだ場所を綺麗に拭き取っていく。拓海はカサついた喉を潤す物が欲しいと思った。
「喉が乾いた」
「あ、水を持ってきま──」
「待てないから」そう言って拓海は秀也の後頭部に手を伸ばし、顔を近づかせて唇を合わせる。
 秀也の手が顔に優しく触れるのを感じて、柔らかい唇の隙間を割るように舌を入れる。秀也の口内から拓海の口の中へと流れた水分は、最後二人の離れた唇の間に透明な糸を作った。
「……ちゃ、ちゃんと水分取らないとですよ! 水持ってきます!」
「ああ」
 顔を真っ赤にした秀也が台所で動揺しているのが分かるくらい音を立てながらコップに水を入れている。その姿を見て、拓海は微笑んだ。
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