【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第ニ章 運命の番

十四

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 シーツとシャツが擦れる音を立てた。ベッドの上で仰向けになっている自分が覆い被さっている目の前の男、秀也と発情期ではない状態で行為をするのだと、今更ながら緊張している事に拓海は気付いた。
 秀也の顔が近くなると、拓海の桜色の突き出た上唇は喰まれる。
 拓海は惚けた顔で秀也の細く手触りの良い髪に指を通し、形のいい頭に沿って後頭部まで手を回すと、秀也の顔を引き寄せる。
 秀也の舌が拓海の口内へと侵入し、歯列をなぞり、舌を絡ませる。拓海と秀也の口から漏れる荒い息遣いが狭い部屋の中に響き、さらに「くちゅり」と唾液の絡み合う水音が耳を刺激する。
 秀也が拓海のシャツを丁寧に脱がす。ベッドに拓海の細腰を押さえつけるようにしていた手はスルスルと拓海のスキニーを降ろし、白く細長い太腿を軽々と持ち上げた。
 拓海は脚の間に秀也の前屈みになった腰を挟む姿になった。 
 髪も服も眼鏡さえも、なに一つ乱れていない秀也の姿を見て、拓海は視線に困った。自分の上にいる秀也の白い顔が滲むように赤く染まっていたのもある。

 そんな顔して俺を見てるのに、どうして俺だけ脱がされてるんだ? ……こいつの手際が良すぎて今更脱がそうとするのも恥ずかしい。

「……秀也君は脱がないの?」困っていた視線を秀也の服に向ける。白いワイシャツは彼の赤い肌を強調している。
「え? あ、いえ、拓海先輩に見惚れてしまって、すぐに脱ぎます」
 秀也はワイシャツのボタンを一個ずつ細い指ではずし、身体を起き上がらせて、ワイシャツを脱いだ。秀也の鍛えられた彫刻のような白磁の肉体が拓海の目の前に広がり、さらに視線に困る。

 ぬ、脱がせなきゃよかった。目に毒だ。

 拓海はそう思いながらも、身体の奥の欲は素直で、秀也の肉体美に魅入ってしまった。
「嬉しいです。貴方と肌を合わせる事が出来て、僕は幸せです」
 秀也の妖美な雰囲気に呑まれたそうになりながら、拓海は彼の雷雨のキスを全身に受け入れた。それは、まるで針で刺されるような軽い痛みを感じながらも、樹冠から満開に桜を咲かせるよう隙間無く注がれた。
 拓海の身体には点々と散りゆく桜が見せる赤みを帯びていた。
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