【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第ニ章 運命の番

十一

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「ママ! 落ち着いて」
 ママはロックグラスに半分以上注いだ三杯目のスコッチを呑もうとしたら、拓海に止められた。

 【運命】に怖がってるのはアタシもか……

 ママは拓海の金色の髪の毛を見て、拓海と初めて出会った時の事を思い出した。拓海は元々茶色の髪の毛だった。店で働き始めて二年の付き合いになった拓海に「脱色してほしい」と頼まれ、脱色剤を手渡された。
「美容室に行けば良いのに」と言ったが、「ママだって美容師だったでしょ」と言われた。客から前職は何してたんだと聞かれた時に、「腕のない美容師よ」と言っていたのを拓海は聞いていたのだろう。
 過去を掘り下げて欲しくないのは、拓海だけじゃない、ママにもそういった過去があった。だが、ママはその過去を憂うには時間が経ちすぎていた。すでに今の仕事にやり甲斐も感じていた。
 初めて頼ることが苦手な拓海にお願いされたので、ママは拓海の髪を脱色をしてあげた。脱色だけでは傷んで見えてしまうので、柔らかい印象にするためにカラーもカットもしてあげた。
 染め直しのたびに喜ぶ拓海を見て、捨ててしまった夢をいつも思い出す。それは、苦しさなんてない、美容師としての幸せな時間だった。幸せな時間を思い出させてくれた拓海にママは自分なりに彼を大切にしてきた。

 後悔……、いやもうアタシのαはいないわ。アタシももうαのΩになるつもりはない……。あんな苦しい思い、拓海にしてほしくない。行動しても、しなくてもどちらにしても後悔するかもしれない、けど後悔した結果の後の行動で後悔するとは限らないわ。

 ママはΩだった。いや、Ωを捨てた、Ωだ。過去、ヨウ君の親友だったαとママは番になった。だが、【運命の番】でなかったため、ママはαに捨てられた。αの男は【運命の番】と出会ったのだ。
 ママは地の果てに置き去りにされた苦しみを味わった。αとΩの番解消は悲惨なものだ。ママは生きていく事が苦痛で、勤めていた美容室を辞めた。それから、心配したヨウ君に連れられて、通っていた診療所でカウンセリングを受けた。
 三年。診療所のカウンセラーやヨウ君のおかげでママは社会に戻ってくる事が出来た。しかし、その三年間に飲み続けていた薬の作用で、発情期がなくなった。さらに、【運命の番】以外のαと番になる事も出来なくなった。βに近いΩになった。そのため、チョーカーをする必要はなくなり、過去との決別のため捨てた。
 これは、ママの人生最大の選択だった。遺伝子上のΩとして良い選択だったのか、今のママにも分からないが、人として生きる事を選んだママは後悔していない。
「たくみ! 言いたくなかったけどね、Ωだから【運命】に翻弄されてるって考え、あんたの悪い癖よ! 【運命の番】がいないβはどうなのよ! 【運命】の恩恵を受けられないβと一緒になりたいと思うαやΩだっているでしょう? それなのに、【運命の番】がいつか現れるかもしれないからって怖がってちゃ、βにも失礼だし、人として人を愛する自由がないじゃない! この世界は腐ってるけどね、αに慈善事業をさせるために私達Ωがいるわけじゃないのよ! 後悔してきなさい、そしたらアタシがあんたの後悔以上に幸せをあげるから!」
 拓海は、ママの酒を奪うと一気に呑み込んだ。
 そして、「ママ、俺後悔してくる」と力強い光を目に宿して言った。
 それに頷いたママもどこか決心をしたような目をしていた。
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