【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第ニ章 運命の番

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「はあ、騒がしいから見に行って良かったわ」
 拓海はママとヨウ君に連れられて、バーが入っているビルの二階にあるママの部屋に向かった。ママが出勤してきた二、三人の店のキャストにお店の事に頼むため下に降りて行った。ママの部屋でヨウ君は拓海をソファに腰掛けさせると、気分を落ち着かせようと水を入れたコップを渡した。拓海はそれを受け取る力も出せず、いらないと首を振った。
 拓海は発情中にも関わらず、「くす、り……」と言ってポケットから抑制剤を取ろうとした。しかし、おぼつかない手でケースに入った薬を取ろうとするが、上手く蓋を開けることが出来なかった。やっと蓋が空いて薬を取り出した時、部屋に戻ってきたママが拓海の手からそれを奪った。
「やめな! ここにはアタシらしかいないんだ。バーも早めに客を帰らせるから、今日はここで治めな」
 抑制剤の効果は、発情期前に服用しフェロモンを抑えるもので、すでに発情している状態で服用すると身体に負担がかかってしまう。発情期にフェロモンを放つことはΩとして自然な身体の働きだからだ。
「そうだよ、みい君。僕たちがここにいて落ち着かないんだったら下に行くから」
 ヨウ君はママに「先に下に行く」と伝えて、下のバーに行った。
「う、うう」拓海は泣くのを抑えようとしていたが、涙はぼろぼろと流れてしまった。
「大丈夫?」
「ママ、俺……今までにないくらい心臓が痛い」
 拓海はその痛みを理解していた。この衝動は【運命】を拒否していた自分が初めて感じる【運命の番】を見つけた時の鼓動だということを。
「たくみ」ママの苦しそうな顔と声。拓海は泣きながらママを見た。

 頭が上手く働かない。いつもの発情期と違う。やっぱりこれって……うう、が欲しい。

 しかし、頭の中に浮かぶ別の人の顔を、拓海は目の前にいるママと話さないと気がおかしくなりそうになった。
「ねえ、【運命の番】との出会いってこんなに苦しいの? ……先輩はもっと前から気づいてたよね」
「……」ママは何も言わなかった。
「ずっと俺のそばにいてくれたのに、俺を守ってくれていたのに、どうして、俺の頭の中にが浮かぶの!?」
「……ッ!」
 ママは驚いた顔した。【運命の番】がお互いを認識したら、必ず彼らは番として一つになると思っていたからだろう。
 拓海は頭に浮かぶ秀也の照れた時の顔、優しく笑った顔、キスをしてきた時の鋭い目がずっと消えないので、自分の【運命の番】が秀也なのかと錯覚しそうになった。だが、それを錯覚だと言いきれるほど、身体と本能は南を欲していた。拓海はそんな自分が気持ち悪くなった。
「なんで、なんで【運命の番】なのに、俺は南先輩を選ばなければならないのに、なんであんな自分勝手な秀也なんか」
 ママは痛々しい面持ちで拓海を見つめる。「あんたは……悪くないよ」としか言えなかった。
「でもでも」と拓海はママにしがみつく。
 拓海を可哀そうに思えてのだろう、ママは拓海を抱きしめながら、「たくみ【運命】、捨てちゃいなよ」と言った。
「え?」
「嫌なんでしょ? 【運命の番】の南君も、一目惚れしてきた秀也君も選びたくないんでしょ?」

 南先輩も秀也も? ……南先輩は人として好きだ。秀也は――分からない

 拓海はママの話を聞いて、どうすればいいのか分からず俯いた。
「明日また話しましょう」
 ママはそう言って、拓海から離れると彼をソファから立ち上がらせて寝室へと連れて行った。
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