【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第ニ章 運命の番

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「何してんだてめえ」南は怒気を含んだ声で言って、秀也を睨んだ。
 拓海は南の荒い空気に恐怖を感じながらも殴られて唇を切った秀也の心配をして近づいた。
「先輩! こいつ酔っ払ってるだけで!」
 南は秀也を睨みつけていた目つきのまま、拓海の方を見た。
「酔っ払っただけ? そいつ池上秀也だよな? お前襲われてるって自覚ないのか?」と心配する声で言った。
 怒りが張り裂けるような空気を南から感じ取った拓海は心臓が激しく揺れた。風が肌に触れてゾワリと鳥肌が立つ。拓海は立っていられなくなり、その場に座り込んだ。
「拓海先輩!」と言って、秀也が拓海の体に触れようと手を伸ばしたが、拓海はその手を振り払った。
 拓海の異変に気付いて、何かを知っているような南は目を細めて「拓海?」と呼んだ。その時、拓海は座り込んだまま俯いた。お酒のせいではない、自分の脳が何かを感じ取り、体温がどんどん上昇しているのだと理解した。

 なんで、急にどうして……発情期が!?

 南が慌てて拓海に近づこうとするが、近づく足音を聞いて拓海はゆっくりと後退る。
 すると、表通りを歩いていた人達が異様な雰囲気を察知して、裏路地に視線を向けている。
「おい、奥にいるのΩじゃねえか?」
「やだ、痴話喧嘩?」
「おい、じゃあ二人ともαか?」

 やばい! これ以上騒ぎを起こしたら大学が!! 

 辺りが騒がしくなって野次馬が増えた。拓海はどうにかしないとと焦る気持ちで、気を確かに持つと身体を起き上がらせた。南と秀也が心配そうに拓海を見ている。拓海は息をあげ、壁にもたれ掛かって、「早く、お店に戻るぞ、話、は後だ」と二人に言った。二人の後ろに群がる人の中には暗闇でフラッシュをつけて写真を撮る人もいた。
 拓海はフラッシュの明るさのせいで目を瞑ってしまった。
 目を開けた瞬間、スマホを向ける人々の間に人が立ちはだかった。その人は黒く長い髪を揺らして、野太い声で、「ほら! 見せもんじゃないよ! 散りな!」と叫び散らした。
 ママの声が聞こえて拓海はもう大丈夫だと、ホッとした。
「みい君こっち」とヨウ君が拓海に声を掛けた。彼に支えられて店の方に戻ろうとした拓海は振り返る。すると、すでにママは秀也をタクシーに乗せて帰らせ、南に「今日は帰りな」と言って別のタクシーに乗せていた。拓海は再度安堵して溜息をついた。
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