【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第ニ章 運命の番

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──拓海と秀也の出会いから一年と半年が経った。

「もう! あんた、まあた発情期遅れているんでしょ!」
 野太い声が狭く薄暗い部屋に響く。バーはまだ開店前。床の掃き掃除、おしぼりを巻き直し、テーブル準備に勤しむ拓海。ママはカウンターで煙をふかしている。
「大丈夫だって! 何回も遅れてるから身体が慣れたんだって」
 拓海は明るい声で、心配そうにしている美人ママに言った。
「それにしても、南君お店に顔見せなくなったわね」
 ママは、お店のドアを半分開けている拓海にそう言って、短い煙草を灰皿に押し潰した。
「先輩はもう大学卒業したからね、自分の病院を持つのが夢って言ってたし、きっと頑張ってんだよ」
 南が大学を卒業してから一年半が経った。彼は実家のそれなりに名が通っている病院に勤務したようだ。六年生にも関わらず週に一、ニ回は顔を見せに来ていたが、卒業後はこれまでの実習とは違い、仕事量が増えたからだろう。一年目は「疲れた」と言いながら月に一回来ていたが、最近は半年前に一度顔を見せに来て、それからは来店していない。
 特に南の様子に変わった所が無かったから、拓海は、忙しいのだろう体調を崩してなければいいんだけど、と、体調を気遣うぐらいだった。
「そうね、南君みたいなイイ男が医者なんて妄想が膨らむわ」
 ママは拓海を見てニヤっと笑う。オレンジ色の照明が赤いルージュに妖しく反射する。
「変な妄想って、」
 拓海は呆れた。医者とΩである自分達が結ばれる確率は低い。当然、医者はαが多く、妻となる人もαが多い。この世界はバース性の上に男女性があるのだ。
 だから、Ωである拓海が医大に通えるのは稀な待遇で、だけれど、αとΩがα社会の病院で番になれるわけではない。拓海も医大のαとは一線を引いて接している。
「なによ! 妄想ならナニしてもいいじゃない!」
 そう言ってママがいつものように般若顔になりながら怒鳴ると「おはよ~! ママ! みい君も!」と陽気に言いながら、ヨウ君がドアから現れた。
「おはよ~ヨウ君~!」ママの顔はすぐに美しい笑顔へと変わっていた。
「あ! そうそう入口ですっごい若いイケメン君見つけてさ」

 若いイケメン? この店は常連客が多いし、南先輩以上に若い人ってあんまり来ないよな。

「あ、あの! すみません。邪魔するつもりはなかったのですが、」
 聞き慣れた落ち着いた低い声の主がヨウ君の手に引かれて店内に入った。
「秀也、君!?」
 拓海が大学で避けているαの秀也だった。
 秀也は驚いた顔をした拓海に、眉を八の字にさせ微笑みながら「すみません」と謝った。
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