【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第一章 運命の出会い

十四

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 暗闇に置いていかれたような表情かおをしている、と秀也は思った。自分が拓海に【運命】という言葉を伝える度に彼は表情を曇らす。そんな表情を見たいという訳でもないのに、秀也は時間が経つと【運命】だと伝えてしまいたくなる。秀也にとったら【運命】という言葉が拓海との出会いを表現するのにピッタリだと思ったのだ。

 どんな言葉で伝えたら、拓海先輩の笑顔を見られるのだろうか。

 それも──自分が愛されていると自覚しての笑顔を、秀也は望んでいる。しかし、今は秀也がどんな言葉を伝えても拓海は同じ表情をするだろう。すでに、秀也は、拓海にとって苦しい過去のトラウマを口にした男なのだから。
 秀也は拓海の過去を知らない。何も知らない状態で拓海に愛を囁やき続ければ、今みたいに友人の様にご飯似さえ行けないかもしれない。愛想を尽かされれば、秀也の【運命】も終わりだ。
 彼の事を知りたい反面、急に聞けばはぐらかされ逃げてしまうのではないかと考えていた。

 取り敢えず、当たり障りない事を聞いてみよう。もう少しだけ、距離を縮めたい。

「拓海先輩は、何が好きですか?」 
 そう考えた結果が、これだった。非常に平凡な質問でつまらない質問をした。何が好きかと突然聞かれても、相手がどんな「好き」を求めているのか分からず、すぐに答えられないだろう。
 やはり、拓海も答えに詰まらせている。暫くすると、手元を見つめて「えと、辛い料理……」と言った。
 そう答えた拓海を見ている秀也の頬はゆるみっぱなしである。
 さっきの質問はある意味拓海にとっては、丁度良かったのかもしれない。
 それからは、好きな人を目の前して、緊張している秀也のオチのない話も、話上手な拓海のおかげで盛り上がっている。
 食事が終わる頃には拓海の表情も晴れていた。

***
「すみません、手持ちがカードしかなくて」
「いや、むしろこっちが御馳走様です」
 会計をする時、秀也は当たり前のようにカードを店員に渡してしまった。拓海があたふたとしている間に店員はすぐに部屋から出て行ってしまった。
 秀也は拓海が財布を取り出しているのに気づいていたようだが、先に会計を終わらせる事が目的だった。
 案の定、拓海は自分の分は払うと言ったが、財布を持ち歩いていないから現金を渡されても困るという事を伝えると、大人しく引き下がった。
 秀也は申し訳なさそうに「気を使わせてしまいましたよね」と言った。
「はあ、……今度は絶対! 俺が奢るから」
 その言葉を聞いて秀也は心の中でガッツポーズをした。計画的通りに上手く次の約束を取り付けられたからだ。

 やった! 拓海先輩は奢られるのが嫌だろうけど、奢った方が罪悪感を持っているのを見ると、無下に出来ない性格だろう。いつかは、こんな先輩の弱みにつけ込まなくても、一緒にいられたらいいな。

 拓海の隣で秀也は人生で一番幸せそうな顔をしている。
「はい! またご飯行きましょう!」
「ああ、次はカードも持ってこなくていいよ」と呆れたように笑って言った。

 ――スマホで払えるところにしますね! 
 秀也は危うく口から出そうになったその言葉を飲み込んだ。
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