【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第一章 運命の出会い

十二

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 どうして、ずっとこっち見てんの? 食べづらいんだけど。

 食事しに来ているのに、箸が止まっている秀也。料理は身体の前なのに、秀也は拓海から目を離さない。
 拓海は秀也の冷めた、いや、瞳の奥では熱を孕んでいるような視線を受け続け、心中穏やかでいられなかった。

 もしかして……いや、薬もちゃんと飲んだし、そんなはず。

 そんな目で見つめられていれば、自分が発情期特有の誘発性フェロモンを出しているのではないかと不安を抱かずにはいられないだろう。
 薬を処方された際の説明では、効果は六時間しか持たないから、自宅で発情期が来るのを待っている様にと言われていた。

 薬を服用してから、カフェに着いた時には三十分以上経っているし、すでに効果を発揮しているはずだ。
 
 という事は、と拓海は怯む事が間違っていると考え、秀也の目を見据えて、「腹、減ってないのか?」と聞いた。
「お腹は空いてます、はい、でも、……です」と答えて俯いてしまったので、最後の方は聞き取りづらく、拓海は聞こえなかった。
「お腹痛いのか?」と心配した声で聞くと、「いえ!」と顔をあげた秀也の顔は真っ赤だった。拓海は秀也と目が合ったと思ったら、すぐに顔を背けられた。
 白磁の肌を頬から耳まで赤くした横顔。高い鼻梁に指先を引っ掛け、その大きな手で自分の顔を隠そうとしていても、耳までは隠せていなかった。秀也は困ったような顔をしている。

 え? そんな怒る?

 拓海の見当外れな思考には、流石に秀也に同情せざるを得ない。いくら秀也がαとΩのラブストーリーに出てくるお手本のようなαだとしても、彼らが持つ特有の高い自尊心や自尊心を傷つけられ逆上するような性格を持ち合わせているわけではない。
 拓海は彼を怒らせるような不躾な質問をしてしまったと、でも謝るのもなんか違うように思えて、どうしたら良いのか分からず、困惑した表情を浮かべる。
「すみません、その、辛い料理は好きなんですが、拓海先輩の食べている姿を見てると見た目以上に辛そうで」と恥ずかしそうに言った。
「そっか、でも熱くて辛いの食べたらこうなるだろう?」と言って、そんな酷い顔で食べてたか? と卓に置いてあるティッシュを一枚取って、鼻や頬、額に押し当てる。
 しかし、ティッシュにうっすらと染みが出来るぐらいで、そんなに汗をかいている訳ではなかった。

 ん、食べる姿? そんなに、がっついて食べてたつもりはないけど、そう見えた?

 今度は拓海が少食のように、大皿から取る量を減らした。秀也はそれなりの大人の男の食欲を持っているようで、箸を進めていく。

 うわあ、食べ方にまで品が出るってどんな育ちをしてきたんだ。

 拓海は秀也の食事姿にうっとりした。
 秀也は椅子にかけた腰から背筋をきっちりと伸ばし、小皿に取り分けた料理を、一口分持った箸で姿勢を崩さず口に運ぶ。体格の良い身体で洗練された所作を嫌味なく魅せている。
 今度は、彼の食事姿に見惚れた拓海の箸が止まった。
 
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