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第一章 運命の出会い
十一
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料理が運ばれてきて、拓海が目を輝かせながら、皿に盛り付けられた美味しそうな料理をひとつひとつ眺めていた。秀也は拓海のそんな様子を見て、今にも手を出してしまいそうな気持ちになった。その衝動を抑えるように、拳にした手を反対の掌で包んで、微かにその手を震えさせている。
真横にいても、料理にご執心な拓海は秀也のそんな努力を知る事はないだろう。
可愛いな。食べてしまいたい。でも、まだ我慢しないと。
拓海は並べられた料理を前に、当たり前だがなんの警戒心も持たず、可愛らしい笑顔を浮かべていて、楽しみにしている様子が分かる。
そんな彼をジッと見ていた秀也は、「はやく食べよう!」と言って急に自分の方を見た拓海の瞳に心臓を鷲掴みされた感触を受けた。
なんでこの人は、自分を好きだという男の前で自分の魅力を発揮させるんだ!
秀也は誰が見ても分かるような明らかな動揺をして、水を飲んだ。
そんな秀也の不自然な行動を気にする事なく「いただきます!」と拓海は手を合わさて、机に措かれた箸を手に取り、水餃子やら鍋の具に箸をつけた。彼は自分の皿に料理を少しずつ乗せていく。
「ウマッ!」と本心からだろう声を出した。
好きな物を目の前にすれば、他の物は目に入らない、というだろう。拓海はまさにそれだ。大好きな辛い料理を前にしたら、自分を好きだと言った秀也の行動など気にも留めない。
しかし、配慮という気持ちは残っているようで、一向に料理に手を付けない秀也を心配し、「食べないのか?」と拓海は箸を止め、そう言った。
しかし、この男、池上秀也は違う意味で「食べたいです」と即座に返した。
「なら、早く食べろよ! 冷めちゃうぞ」と呆れつつも、可笑しそうに笑っている。
「……はい。いただきます」
秀也が「食べたいです」──あなたを、と付け加えなかっただけ、理性を保てているという事だろう。そう言ってしまえば、今すぐにでも箸を置いて拓海はこの空間から逃げてしまうと秀也は解っている。
αとΩが密室にいるのだ。ここがホテルなのであれば、する事は一つしかないが、普通の料理店だ。いや、普通、料理店でそんな気を起こす方が、どうかしているのだが。秀也の前で無防備な姿を晒している、一目惚れ相手の拓海にも問題が無いとは言えない。
辛党だとしても、辛さは感じる。口に入れたカプサイシンの味覚性発汗の作用で、拓海のこぶりな鼻の頭や尖った上唇など、頬や額に汗を滲ませている。
さらに、料理の熱により彼の肌理の細かい顔の肌は赤くなり、目元も秀也の欲を掻き立てるように潤んでいる。水を飲むと上下に動く喉元に今すぐ噛みつきたい衝動を、気付かれないよう唇を噛んで抑える。
ああ、なんでこんな美味しそうな姿を僕は見せつけられているんだろう。目の前の料理より、拓海先輩を食べたいって言おうかな。逃げたら……手段を選ばずに捕まえれば──駄目だ。そうしても彼の気持ちが僕の方に向かないと分かってるだろう。
拓海を疑似食のように見ている目は静観している。だが、その瞳の奥には、彼の欲望が潜んでいた。
真横にいても、料理にご執心な拓海は秀也のそんな努力を知る事はないだろう。
可愛いな。食べてしまいたい。でも、まだ我慢しないと。
拓海は並べられた料理を前に、当たり前だがなんの警戒心も持たず、可愛らしい笑顔を浮かべていて、楽しみにしている様子が分かる。
そんな彼をジッと見ていた秀也は、「はやく食べよう!」と言って急に自分の方を見た拓海の瞳に心臓を鷲掴みされた感触を受けた。
なんでこの人は、自分を好きだという男の前で自分の魅力を発揮させるんだ!
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そんな秀也の不自然な行動を気にする事なく「いただきます!」と拓海は手を合わさて、机に措かれた箸を手に取り、水餃子やら鍋の具に箸をつけた。彼は自分の皿に料理を少しずつ乗せていく。
「ウマッ!」と本心からだろう声を出した。
好きな物を目の前にすれば、他の物は目に入らない、というだろう。拓海はまさにそれだ。大好きな辛い料理を前にしたら、自分を好きだと言った秀也の行動など気にも留めない。
しかし、配慮という気持ちは残っているようで、一向に料理に手を付けない秀也を心配し、「食べないのか?」と拓海は箸を止め、そう言った。
しかし、この男、池上秀也は違う意味で「食べたいです」と即座に返した。
「なら、早く食べろよ! 冷めちゃうぞ」と呆れつつも、可笑しそうに笑っている。
「……はい。いただきます」
秀也が「食べたいです」──あなたを、と付け加えなかっただけ、理性を保てているという事だろう。そう言ってしまえば、今すぐにでも箸を置いて拓海はこの空間から逃げてしまうと秀也は解っている。
αとΩが密室にいるのだ。ここがホテルなのであれば、する事は一つしかないが、普通の料理店だ。いや、普通、料理店でそんな気を起こす方が、どうかしているのだが。秀也の前で無防備な姿を晒している、一目惚れ相手の拓海にも問題が無いとは言えない。
辛党だとしても、辛さは感じる。口に入れたカプサイシンの味覚性発汗の作用で、拓海のこぶりな鼻の頭や尖った上唇など、頬や額に汗を滲ませている。
さらに、料理の熱により彼の肌理の細かい顔の肌は赤くなり、目元も秀也の欲を掻き立てるように潤んでいる。水を飲むと上下に動く喉元に今すぐ噛みつきたい衝動を、気付かれないよう唇を噛んで抑える。
ああ、なんでこんな美味しそうな姿を僕は見せつけられているんだろう。目の前の料理より、拓海先輩を食べたいって言おうかな。逃げたら……手段を選ばずに捕まえれば──駄目だ。そうしても彼の気持ちが僕の方に向かないと分かってるだろう。
拓海を疑似食のように見ている目は静観している。だが、その瞳の奥には、彼の欲望が潜んでいた。
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