【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

文字の大きさ
上 下
13 / 63
第一章 運命の出会い

十一

しおりを挟む
 料理が運ばれてきて、拓海が目を輝かせながら、皿に盛り付けられた美味しそうな料理をひとつひとつ眺めていた。秀也は拓海のそんな様子を見て、今にも手を出してしまいそうな気持ちになった。その衝動を抑えるように、拳にした手を反対の掌で包んで、微かにその手を震えさせている。
 真横にいても、料理にご執心な拓海は秀也のそんな努力を知る事はないだろう。

 可愛いな。食べてしまいたい。でも、まだ我慢しないと。

 拓海は並べられた料理を前に、当たり前だがなんの警戒心も持たず、可愛らしい笑顔を浮かべていて、楽しみにしている様子が分かる。
 そんな彼をジッと見ていた秀也は、「はやく食べよう!」と言って急に自分の方を見た拓海の瞳に心臓を鷲掴みされた感触を受けた。

 なんでこの人は、自分を好きだという男の前で自分の魅力を発揮させるんだ!

 秀也は誰が見ても分かるような明らかな動揺をして、水を飲んだ。
 そんな秀也の不自然な行動を気にする事なく「いただきます!」と拓海は手を合わさて、机に措かれた箸を手に取り、水餃子やら鍋の具に箸をつけた。彼は自分の皿に料理を少しずつ乗せていく。
「ウマッ!」と本心からだろう声を出した。
 好きな物を目の前にすれば、他の物は目に入らない、というだろう。拓海はまさにそれだ。大好きな辛い料理を前にしたら、自分を好きだと言った秀也の行動など気にも留めない。
 しかし、配慮という気持ちは残っているようで、一向に料理に手を付けない秀也を心配し、「食べないのか?」と拓海は箸を止め、そう言った。
 しかし、この男、池上秀也は違う意味で「食べたいです」と即座に返した。
「なら、早く食べろよ! 冷めちゃうぞ」と呆れつつも、可笑しそうに笑っている。
「……はい。いただきます」
 秀也が「食べたいです」──あなたを、と付け加えなかっただけ、理性を保てているという事だろう。そう言ってしまえば、今すぐにでも箸を置いて拓海はこの空間から逃げてしまうと秀也は解っている。
 αとΩが密室にいるのだ。ここがホテルなのであれば、する事は一つしかないが、普通の料理店だ。いや、普通、料理店でそんな気を起こす方が、どうかしているのだが。秀也の前で無防備な姿を晒している、一目惚れ相手の拓海にも問題が無いとは言えない。
 辛党だとしても、辛さは感じる。口に入れたカプサイシンの味覚性発汗の作用で、拓海のこぶりな鼻の頭や尖った上唇など、頬や額に汗を滲ませている。
 さらに、料理の熱により彼の肌理の細かい顔の肌は赤くなり、目元も秀也の欲を掻き立てるように潤んでいる。水を飲むと上下に動く喉元に今すぐ噛みつきたい衝動を、気付かれないよう唇を噛んで抑える。

 ああ、なんでこんな美味しそうな姿を僕は見せつけられているんだろう。目の前の料理より、拓海先輩を食べたいって言おうかな。逃げたら……手段を選ばずに捕まえれば──駄目だ。そうしても彼の気持ちが僕の方に向かないと分かってるだろう。

 拓海を疑似食のように見ている目は静観している。だが、その瞳の奥には、彼の欲望が潜んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ
BL
 「俺とお前は、この先、ずっと一緒には居られない 」  Ω《オメガ》の真祝《まほぎ》の心の総てを掴んでいる男は、幼馴染みのβ《ベータ》の二海人《ふみと》。  けれど、ずっとずっと二海人だけで、涙が出る程好きで好きで堪らない真祝の想いに、二海人は決して応えてはくれない。  何度求めても跳ね返される想いに心は磨り減りそうになりながら、しかし応えてはくれないと分かっていても好きなことは止められない。  そんな時、真祝の前に現れたα《アルファ》の央翔《おうしょう》。 「真祝さん、俺の番《つがい》になってよ 」ーーーーー。  やっと会えた『運命の番 』だと、素直に気持ちをぶつけてくる央翔に、真祝は……。 ◆R-18表現には、※を付けてあります。

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

いつか愛してると言える日まで

なの
BL
幼馴染が大好きだった。 いつか愛してると言えると告白できると思ってた… でも彼には大好きな人がいた。 だから僕は君たち2人の幸せを祈ってる。いつまでも… 親に捨てられ施設で育った純平、大好きな彼には思い人がいた。 そんな中、問題が起こり… 2人の両片想い…純平は愛してるとちゃんと言葉で言える日は来るのか? オメガバースの世界観に独自の設定を加えています。 予告なしに暴力表現等があります。R18には※をつけます。ご自身の判断でお読み頂きたいと思います。 お読みいただきありがとうございました。 本編は完結いたしましたが、番外編に突入いたします。

処理中です...