【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第一章 運命の出会い

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 カフェから出ると、二人は目的のお店に向かった。拓海は昨日の夜から楽しみにしていて、すでに四川料理のになっていた。秀也に案内されて駅から少し歩いたところに、そのお店はあった。
 『四川料理』とだけ書かれているが、赤い草書体に黒い看板は物々しい存在感を放っている。
 大きく構える玄関には、透明なガラスに卍が重なり合った格子文様を紫檀で立体的に見せる、東洋風の独特な装飾が施されている。
「なんか、想像していた以上だ」
 拓海は何も考えず呟いた。その言葉を聞いて、秀也はオロオロとしはじめた。
「気に入りませんでしたか?」
「いや、そうじゃなくて! あんまり行くようなお店じゃないから驚いて」
「そうでしたか、中は案外普通ですよ!」
 そう言ってなんの躊躇いもなく、秀也は玄関を開けて中に入っていく。反対に拓海はその立派な玄関を前にして委縮してしまっていた。

 なんか、写真で見るより凄い。今までチェーン店とかの中華料理店にしか行ったこと無かったら、店の雰囲気といい場違い感半端ない。

 しかし、風除室を通った秀也がすでに二つ目の扉を開けて待っていたため、拓海は火鍋の為だと意を決して後ろについて行った。
 店内に入ると、玄関の雰囲気より豪華絢爛な内装に圧倒された。入ってすぐ目につく場所にガラス越しに広がる石庭園があり、席ごとに赤色の暖簾が天井から垂れて仕切られている。店内は薄暗いが温かみのあるオレンジ色の明かりが、席を下から照らしている。さらに、赤色の暖簾に反射して、妖しい光を生み出しているのが幻想的である。
 二人の入店に気付いた東アジア系の日本人とはまた違う顔立ちの店員が「何名?」と言って出迎えた。
 秀也はゆっくりとした口調で「予約した池上です」と伝えると、店員は「ん」と軽く頷いてから二人を二階の個室に案内した。

 個室!? ……一応、薬は家を出る時に飲んだから、発情期が急に来る事は、無い、だろう。予約してくれたみたいだし、今更一階にって言うの失礼だよな。

 拓海は、眉をひそめて不安気な顔色を浮かべながらチョーカに触れた。
 個室は、薄暗くはなく、オレンジ色の照明が竹織りのシャンデリアから放たれ、鏡の様に姿を映しそうな大理石の床、真ん中には小ぶりな回転式の円卓があり、縦に背がある椅子は四客分ある。一階とは違い落ち着いた雰囲気だ。
 拓海は、個室の雰囲気が良かった事に安堵した。
 店員は隣同士の二客の椅子を引き、そこに拓海と秀也は腰かける。
 それを店員は見て「メニューはコレネ。決めたら呼んでネ」と言うと頭を下げて、個室から出ていった。
 拓海は真横にいる秀也に「予約してくれてたんだな。ありがとう」と言うと、「席だけ予約したので料理は好きなものを選んで下さい」と秀也がそう言ってメニュー表を広げてくれたのを見た。
 メニューには拓海の興味をそそるものばかりであり、どれにしようか二人とも迷っていた。といっても、秀也は拓海が選ぶ料理を全て「良いですね」と言って嬉しそうな笑みを拓海に向けているだけである。拓海は結局、何を選ぼうにも全て肯定する秀也の意見を諦めて、「四川料理」店に誘うぐらいだから辛い料理に耐性があるんだと踏み、せっかくだから自分の好きな物を選んだ。楽しみにしていたお店オススメの火鍋は辛い四川風スープと豚骨スープの二種類を頼む事にした。もちろん秀也は「美味しそうですね! 頼みましょう!」と言って肯定した。
 タイミングよく個室の扉をノックして入ってきた店員に秀也は料理の名前を伝えると、メニュー表を返した。店員はメニュー表を持ったまま個室から出ていき、料理が来るまで拓海は、楽しみに待った。

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