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第ニ章 運命の番
七
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新條拓海は俺の【運命の番】だ。
そう確信しているのは、拓海の先輩である五十嵐南だ。
恵まれた容姿に恵まれた環境、さらに恵まれた才能、全てを持ったαだ。
南の家は病院経営と病院経営の仲介会社に携わっている。病院経営には医師の資格は必要がないので、病院経営をしたいという富裕層からの依頼を受け、院長となる医者と理事長となる彼らの仲介をしている。
大きな私営病院においては院長とは別に、経営方面に特化した人間が必要だった。医者として腕があっても経営経験のない者が病院経営を担うと、赤字を出してしまう。そうなってしまうと、良質な設備が整わず、より良い設備を提供してくれる私営の病院に患者は移ってしまう。まあ、患者の持つ病気よってはその通りによるわけではないが、病院を経営する上では金回りを上手くする経験者が必要だった。
その面富裕層は大金を出し、実業家であれば赤字を出さないよう上手くコントロール出来る。そして開業が夢の医者は独立して自分の病院を持てるという、持ちつ持たれつの関係を築けるのだ。そこに目を付けたのが五十嵐南の両親だった。
そのため、病院を開業した多くの経営者も院長も五十嵐家には頭が上がらないのだ。
医者の父、実業家の母を持つ南は、人の命と対面する酷な医者という職業にならずとも実業家としてもやっていけただろうに、人の命を救う方を選んだ。
小学生低学年の頃、将来の夢を発表した時、彼は「医者なら、困ってる人は俺の所に来るし、俺も彼らを救えるから」と言った。これを聞いて教諭は「なんて図々しいんだ!」と叱った。
しかし、医者と患者という関係は本来そういうものではだろうか。その場にいれば患者は来るのに、地域の患者を放って患者を探し回る医者がいるだろうか。幼心に南はそう思った。
今、同じように将来の夢の理由を聞かれたら同じような事だけど上手く答えるだろう。ただ、当時は語彙力も表現力も無かっただけなのだ。人を救いたいとう気持ちはどの医者とも変わらない。
そんな順風満帆な大学生活を送っている南に、人生を大きく変える出来事があった。
それは、新条拓海との出会いだ。
二年の南とは関係ない入学式が終わった数日後、前期の授業が始まったため登校すると、一年の時からよく話す友人がある噂を持ってきた。
「Ωが医大であるこの学校に入学したらしい」
はじめ、南は衝撃を受けた。「医大にΩが?」その言葉が講義を受けている間も、昼食の時も、午後の講義の時も、頭から離れなかった。
その日の帰り、正門の近くで南は小柄な青年とぶつかった。αが多いこの学校には珍しい華奢な身体が、地面に尻もちをついた。
「ごめんッ!」と言って、南はすぐに倒れた彼に近寄ろうとした。
だが、微かな甘い香りが南の鼻孔を掠めた事で身体の筋肉が急に硬直したように動きが止まってしまった。
俺のΩだ。
そう直感した。けれど、不思議な事に目の前の青年に対して【運命の番】特有の衝動に駆られなかった。相手も平然としていたため、南は一瞬勘違いかと思った。けれど、本能というのは過敏で彼を【運命の番】と認識すると、なにもかも目に入らず目の前の青年が欲しいという欲が脳を侵していった。
この子は、【運命の番】を拒否しているのか。
青年の首元にある黒いチョーカーがΩだと象徴し、それに対して彼を放っておくのをαの本能が許さなかった。
【運命の番】に対してそこまで執着は無かった南だったが、この機会を逃したくないと焦る気持ちで立ち上がった青年に声をかけた。
「ごめんね。大丈夫?」
「はい、こちらこそすみません」
「俺五十嵐南。君、新入生だよね?
「……新條拓海です」
拓海の伏せ目がちの陰のある表情、震えるしなやかな白い手から、αが怖いのかもしれないと感じ取った南は、例えこの先ずっと【運命の番】を否定されようとも、彼を守りたいと思った。
これが二人の初めての出会いだった。
そう確信しているのは、拓海の先輩である五十嵐南だ。
恵まれた容姿に恵まれた環境、さらに恵まれた才能、全てを持ったαだ。
南の家は病院経営と病院経営の仲介会社に携わっている。病院経営には医師の資格は必要がないので、病院経営をしたいという富裕層からの依頼を受け、院長となる医者と理事長となる彼らの仲介をしている。
大きな私営病院においては院長とは別に、経営方面に特化した人間が必要だった。医者として腕があっても経営経験のない者が病院経営を担うと、赤字を出してしまう。そうなってしまうと、良質な設備が整わず、より良い設備を提供してくれる私営の病院に患者は移ってしまう。まあ、患者の持つ病気よってはその通りによるわけではないが、病院を経営する上では金回りを上手くする経験者が必要だった。
その面富裕層は大金を出し、実業家であれば赤字を出さないよう上手くコントロール出来る。そして開業が夢の医者は独立して自分の病院を持てるという、持ちつ持たれつの関係を築けるのだ。そこに目を付けたのが五十嵐南の両親だった。
そのため、病院を開業した多くの経営者も院長も五十嵐家には頭が上がらないのだ。
医者の父、実業家の母を持つ南は、人の命と対面する酷な医者という職業にならずとも実業家としてもやっていけただろうに、人の命を救う方を選んだ。
小学生低学年の頃、将来の夢を発表した時、彼は「医者なら、困ってる人は俺の所に来るし、俺も彼らを救えるから」と言った。これを聞いて教諭は「なんて図々しいんだ!」と叱った。
しかし、医者と患者という関係は本来そういうものではだろうか。その場にいれば患者は来るのに、地域の患者を放って患者を探し回る医者がいるだろうか。幼心に南はそう思った。
今、同じように将来の夢の理由を聞かれたら同じような事だけど上手く答えるだろう。ただ、当時は語彙力も表現力も無かっただけなのだ。人を救いたいとう気持ちはどの医者とも変わらない。
そんな順風満帆な大学生活を送っている南に、人生を大きく変える出来事があった。
それは、新条拓海との出会いだ。
二年の南とは関係ない入学式が終わった数日後、前期の授業が始まったため登校すると、一年の時からよく話す友人がある噂を持ってきた。
「Ωが医大であるこの学校に入学したらしい」
はじめ、南は衝撃を受けた。「医大にΩが?」その言葉が講義を受けている間も、昼食の時も、午後の講義の時も、頭から離れなかった。
その日の帰り、正門の近くで南は小柄な青年とぶつかった。αが多いこの学校には珍しい華奢な身体が、地面に尻もちをついた。
「ごめんッ!」と言って、南はすぐに倒れた彼に近寄ろうとした。
だが、微かな甘い香りが南の鼻孔を掠めた事で身体の筋肉が急に硬直したように動きが止まってしまった。
俺のΩだ。
そう直感した。けれど、不思議な事に目の前の青年に対して【運命の番】特有の衝動に駆られなかった。相手も平然としていたため、南は一瞬勘違いかと思った。けれど、本能というのは過敏で彼を【運命の番】と認識すると、なにもかも目に入らず目の前の青年が欲しいという欲が脳を侵していった。
この子は、【運命の番】を拒否しているのか。
青年の首元にある黒いチョーカーがΩだと象徴し、それに対して彼を放っておくのをαの本能が許さなかった。
【運命の番】に対してそこまで執着は無かった南だったが、この機会を逃したくないと焦る気持ちで立ち上がった青年に声をかけた。
「ごめんね。大丈夫?」
「はい、こちらこそすみません」
「俺五十嵐南。君、新入生だよね?
「……新條拓海です」
拓海の伏せ目がちの陰のある表情、震えるしなやかな白い手から、αが怖いのかもしれないと感じ取った南は、例えこの先ずっと【運命の番】を否定されようとも、彼を守りたいと思った。
これが二人の初めての出会いだった。
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