【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第ニ章 運命の番

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 拓海の入学から、予想していた通り大学の雰囲気は悪くなっていた。支配者とも呼べるような権力を持つαと学生の半数以上は優秀なβという世界に、Ωが医大に入学するなんて前代未聞だったからだ。
 南は両親の知り合いの教授に話を聞いた。この話が出たのは、政府と医大が共同して優秀なΩに支援するという、善政のイメージを作り上げるために、この医大が選ばれたという事だった。他の大学より医大はかなりお金がかかるため、これが成功すれば大学の名も売れると、この大学は了承したのだ。
 そんなんだから、Ωである拓海に差別的な目を向ける学生や教授達は多かった。
――Ωが医大に来てなんの用だ。直接ではないが彼らの拓海を見る目は、そういった蔑視が込められていた。
 これまで、才能あるαを上位種、子を成す身体を持つΩは下位種、普遍的なβを中間種だと認識する世の中だった。そうなってしまったのも、男女という性が第一性があるため、Ωの価値というのはαを前にしたら、劣るという、人的・金融・固定・事業を資本と考える経済至上主義の人間が多かったからだ。人間を産むという行為は女でも構わないという考えから、Ωに依存する必要はない、Ωが新しい価値を生み出す事はないと決定づけられてきた。
 男女の上に成り立つヒエラルキー、さらにはαを誘惑するΩの誘発性フェロモンの非道徳性から、数も少なく力も弱いΩは影へと追いやられていった。そうしてα社会が実現してしまった社会でΩの為の道徳を説く者は減っていった。
 しかし、近年ではその考え方を変える人道主義の考え方をするαもβも増えてきた。南もそのうちの一人だ。
 当然、南は今の大学の空気が気持ち悪く感じた。同じ人権を有する人間であるのに、Ωというだけで彼を蔑視する同学生達に嫌悪さえ抱いた。
 それでも気丈に振る舞う拓海の姿を見て、彼は常日頃から拓海に声をかけては傍にいた。
 最初は、やはり距離を置かれていた。だが、経営者としてもやっていけるほどの観察力と積極性に追加して、別け隔てない性格のおかげで実を成した。二年が経った頃、拓海は南に友人のような笑顔を向けてくれるようになっていった。

 いつになったら、【運命の番】と認めてくれるのだろうか。

 変わらない友情を前にそう想っていた。
 それから二年が経ち、南は六年生になった。就活先はすでに決まっており、国家試験や実習で忙しい毎日を送っていた。その日も南は拓海に会いにバーへ行った。
 そのバーは雑多ビルが所狭しと並んでいる一角に、隠れ家の様に存在している。それなりに人入りする小さなそのバーの半分開いたドアの隙間から、中で話す拓海の顔が見えた。南は頬を緩めた。
 しかし、ヨウ君の言葉を聞いて、南の心臓は鋭い痛みに襲われた。そのまま、ドアの取ってにのせた手は止まった。

 拓海に春? 嘘だ。嘘だ。
【運命の番】は俺なのに……。拓海? どうしてそんな【運命】に出逢ったみたいに、嬉しそうな顔しているんだ? 

 それでもきっと気のせいだと、南は拓海に期待して「へぇ、誰の春祝いだって?」と言って中に入っていた。自分の顔を見て喜んでくれる拓海を見て安心したかったのだ。
 
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