【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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「拓海さん、ごめんなさい」

 休日の昼間、人気の多いチェーン店のカフェ。太陽が空高くに昇っていて、窓辺の席に陽を差している。
 お互いとも休日だと分かっているというのに、誠意を見せるためか、謝罪した男は紺のスーツを着用している。
 さらに、その男は外の陽気な天気が今にも曇り空になって雷雨が訪れそうな天気の変化を感じ取り、片頭痛を引き起こしたかのように白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。悩み事を抱えていたのか、仕事が徹夜続きなのか目の下に隈を作ってさらに具合が悪そうに見える。
 空気の悪いところに若い女性のウェイトレスがカップを一つ乗せたトレイを片手に、仕事の所作で「失礼します」と言った。
 拓海はお店に入った時に、何かを頼まなければと思い、たまたま視界に入った小さなティッシュの置き箱が目に入り、そこに貼られていたメニューに「自家焙煎・挽きたて!」と売り文句が書かれた珈琲を頼んでいた。
 拓海の前に黒褐色の艶々とした液体が入ったカップが机に置かれた。再度、拓海は誇張したような言い方のメニューに目をやり「チェーン店で何が自家製だ」と心の中で嘲笑した。いや、本当は目の前の男に「別れ」を告げられた自分に向けてかもしれない。拓海は芳醇な香りが広がるカップを手に取り気持ちを落ち着かせようと口に運んだ。
 依然として目の目の前に座っている男は俯いていて、拓海の方を見ようとしない。その姿はまるで、隠し通せないと己の罪に嘆き懺悔室で不倫の告白をしたら、聴いていた「神様」が自分の妻だったかのように消沈している。

 まあ、不倫ではないけど。こいつが選んだお相手は幼馴染で元婚約者のαの女性、恋人に裏切られて、解消したはずの婚約に再度圧力をかけて再婚約。まあ、大病院の院長である父親にとったら息子の相手には、そっちの方が良縁だと思うわな。

 鬱蒼としている男は拓海と大学時代からの付き合いのある後輩 池上秀也だ。今は大病院に勤務する外科医であり、勤務先は自身の父親が院長をしている一族経営の病院である。
 そして、つい最近までΩである拓海と”番”を前提にしてお付き合いしていたαだ。拓海はΩだが、頭の良さと縁があって医大卒業後、彼とは別の病院で働いている。お互い忙しい職業だ。
 まあ、こんな状況に至るまで拓海は秀也との間の問題を放置していたのだから、急に相手から別れを告げられても、当の本人は今更かと頭の中は澄み切っていて動揺もしていなかった。
 拓海自身は秀也に「別れ」を告げられる事を望んでいたわけではなない。初めて自分を抱いた後、「運命的な出会いを忘れません」そう幸せそうにベッドではにかみながら言った秀也の顔を一度も忘れた事はなかった。
 拓海は「運命的な出会い」をしたと言って告白してきた人を沢山見てきた。一時の感情で熱に溺れ、最後はこちらの感情など考えずに新しい運命の人を見つける。だから秀也もその内の一人にすぎないと気持ちにセーブしていたつもりだったが、反対に、心のどこかで自分を本当に愛してくれているのだと、秀也に期待していた。
 結局、秀也の「別れ」の答えを聞いて、今回こそは”運命”かも、と自分が淡い期待をしていただけだと拓海は自覚させられたのだ。

 
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