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12 秘密のひととき
しおりを挟む廊下側の教室の壁に背を付けて床に座った立野の上に、下を全て脱いだ涼が跨る。
芯を持った自分のそれと、前を寛げた立野のそれに薄い膜を付けながら不意に笑みが零れた。
「まさかこの数週間、有名人とヤリまくってたなんて思わなかったな……」
「や、やめてください……、そんなに有名じゃないです」
「またまた……っう、ん……っ」
膜を根本まで伸ばした途端に涼は腰を引き寄せられ、そそり立つ欲望を後孔に擦り付けられる。
「僕は」
言葉を切る立野が荒い息で涼を見上げた。
「僕は……涼さんを抱きたくて仕方のない、ただの男ですよ」
体温が二度くらい上がった気がした。下腹が一気に重くなって、早く受け入れたい後孔が堪らなく疼く。日頃から愛撫され続けた蕾は少し解されるだけで、熱い切先が触れるだけで立野を待ち望んだ。
「掴まって……」
頷いた涼は立野の肩に手を置き、薄い膜に覆われた熱い先端を受け入れながら腰を下ろした。
「んっ……ぅあ、あ、ぁ……っ」
ゆっくり狭い中を進む怒張は涼に絶え間ない刺激を与える。涼が耐え切れず途中で立野を食い締めると、立野が隙間を埋めるように突き上げて涼の最奥に触れた。
「んッ! ん、んんー……っ、ふ、ん、ううん……ッ!」
涼の身体は大きく戦慄いた。立野の首に縋りつきながら喉を反らし、僅かに残った理性で唇を噛む。
二人が重なった姿は教室の引き戸の窓から覗き込んでもぎりぎり隠れる位置にある。それでも取引先の学校で事を始めるスリルは涼の呼吸を浅くさせた。
立野は息を切らしながら瞬く。
「あれ、涼さん、イっちゃった……?」
涼の膜に覆われた性器を見つめるが、先端に白濁は溜まっていない。
「はー……っ、はーっ、ぁ、まって、まだ、動かなっ……」
顔を真っ赤にしてうわ言のように繰り返す涼を見つめ、立野は困ったように微笑んだ。
「ふふ、涼さん、早いですよ……。う……すっごい締まる……」
ずるりと抜け出た性器が、空いた隙間をすぐさま埋めるように突き上げる。
「はぁっ! あ、はぁっ、ぁ、やば、まだ、うごくなってっ……っ!」
涼が肩を掴んでも爪を立てても、立野は腰を止めなかった。
辛いだけだった身体が奥の方でじわりと変わる。そうすると今度は物足りなくて堪らなくなった。
「んあ、あぁっ、はっ、ぁ、もっと……もっと……っ!」
「涼さん、しー……」
立野は楽しそうに、涼の唇に人差し指を添える。はっとして涼は声を抑えるが、荒い呼吸に乗って勝手に声が漏れ出た。
「は、はあっ……はぁっ、ぁ、や、ば、また……またイく……っ!」
「はぁ、僕もっ……、涼さんの中、気持ちよすぎて、もうイきそう……っ」
再度奥に叩きつけられた衝撃に身体の軸から揺れ、涼の視界が白む。
「か、はっ……、は、ぁあ……ッ!」
再び上り詰めてしまった涼は呼吸を繰り返すのに必死で、閉じられない口の端から唾液が伝っていった。
それを舐め取る立野が、涼を食い入るように見つめる。瞳の光彩は燃えるように揺らめいた。
「あ……っ、はぁ……っ」
快楽の波が一旦落ち着いてくると、前を寛げている以外は着衣の乱れていない立野と、下を全て脱いでいるのに脱ぎ忘れたエプロンが上半身に巻き付いている自分との差異を実感して耳まで熱くなった。
「あっ……っう!」
及び腰になった涼の腰を掴み直した立野が律動を再開する。
服の下の肌にまた新しい汗が浮かんだ。
「ぁ、んぁ……っ! まっ、て……た、つのくっ……ぁ、あぁっ……!」
「ごめんなさい、止まれない……っ」
奥を穿つ強さはそのままに、速さを増していく抽挿から立野の激情を感じる。
ひたすら翻弄され、意識が真っ白に塗り潰されていきながらも涼は満たされる心地がした。
「はぁっ、たつのく、っあ、……っぅあ、あっそれ好き……あ、ああ! っぁ、そこ、んんっ……!」
「ここでしょ、分かってる……っ。うっ、すず、しさっ、そんなに締めないで……っ、終わっちゃう……ッ」
「あぁっ! んぁ、あ、無理いく、いくぅ……ぁあ、立野くっ……!」
「涼さん、声、かわい……、でも、」
立野が唇を塞いだ。息も声も飲み込まれて口内を貪られ、涼は力の入らない舌で立野に応える。
互いの息と唾液を交ぜ合わせた後、酸素を求めて銀糸を引きながら口を離した立野は絞り出すように囁いた。
「我慢して……誰か他の人に、聞かれたくない……っ!」
「ふ、ん、んんっ、ンッ……!」
再び深く口付けてくる立野の、愛欲に濡れたカーキ色に見つめられて涼の最奥が疼く。
疼きは身体の奥から全身へ波のように伝わって痺れ、いよいよ身体の自由が利かなくなった。中にいる立野を食い締めることだけが涼に出来ることとして残り、朦朧としながらも相手に全てを明け渡す快感に酔いしれる。
「ん、は、ぁっ、涼さんっ……!」
限界を迎えた立野が涼の細腰を固定するように鷲掴み、より深いところを抉ってから強く脈打った。
薄い膜に覆われて涼の中を濡らすことはないが、力強い拍動は涼を果てさせるには充分だった。
後ろで果てて震えている涼の屹立を、立野があやすように扱く。全身をがくがくと揺らしながら、涼はようやく膜の中に欲を放っていった。
互いに荒い呼吸を繰り返し、抜け出ようとした立野を涼が引き止める。
「んっ、す、涼さん……?」
「はぁ……っ、ぁ、はあっ、も、……すこし、いろよ……いいだろ……」
珍しく立野は慌てるような、僅かに怒ったような顔をした。
「だっ……、だめです涼さんっ。そ、んな可愛いこと言われたら、また勃っちゃいますって……!」
そんな必死な顔を見ながら、涼は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「ふふ……俺から見れば……、立野くんの方が、じゅうぶん可愛いけどな……」
「え……?」
「だって毎回、こんな……、一生懸命、律儀に腰振ってさ……」
涼は立野の汗ばんだ頬に両手で触れた。
「ちゃんと、マネさんに言えるか……?」
「が……がんばります。言えます……」
立野は一瞬固まったが何度も頷いた。その真剣な瞳が、涼の笑みを深くする。
「……ったく、かぁいいな……ほんと……」
唇に触れるだけのキスをして、涼は肩を揺らした。
潮が引くように互いの欲が収まっていくとようやく現実が頭の隅にちらつき始め、立野は名残惜しそうに抜け出ていく。
力の入らない涼は立野に寄り掛かり、性器に被せた膜を立野に取り外されながら口を開いた。
「なあ、いつぐらいに戻んの……」
「そうですね……。なるべく早く済ませたいですが……半年は、かかるかな……?」
「そ。まあ、一年くらいは見とく……」
「あっ……も、もちろん長期間ですし、その間バーには行かないでとかは言いません。苦しくなったら、その時は涼さんにお任せします。ただ……」
赤くなった涼の目元に残る雫を拭いながら、言い聞かせるように立野は言う。
「僕が一番、あなたのことを好きです。どうかそれだけは、忘れないで」
「……俺だって、そうだよ」
立野があまりに真剣に言うので、涼もつられた。
涼の言葉を咀嚼して瞬いている立野の薄い唇に、自分のそれを重ねる。
やがて気付いてきたのか強く応えてくる立野を深く味わいながら、涼は柄にもなくこのまま時間が止まればいいのにと思った。
教室を、学校を出るまで。車に乗って店に戻るまでは、立野は涼のものだ。
だからもう少しだけこの時間が長く続けばいいと、この時ばかりはあらゆるものに願った。
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