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9 秘密の昼下がり
しおりを挟む会計を済ませて店の外に出ると、ものの数分で自宅に帰りついてしまう。これは癖になりそうだった。商店街を出歩きながら、ふとその気になってもすぐに戻れるとは。
二人は言葉少なに二階に上がり、汗ばんだ衣服を脱ぎ捨てて浴室に入る。
当たり前のように入ってきた立野とシャワーの雨に打たれながら、涼は立野の腕の中で唇と肌を合わせた。
肩から胸、腹、脚、そして踵まで、二人の身体の間を湯が流れ落ちる。唇から顎、首筋に次々と落とされる口付けに、押し付けられる立野の屹立の拍動。肌に触れる全てが涼の中の欲望を呼び覚まし、熱い息を吐いた。
立野の髪が濡れて深い色になっているのをぼんやり見つめていると、唇に啄むようなキスをされてから身体を壁へ向けられる。立野の濡れた手が下腹に滑り降りて、芯を持ち始めた涼の性器を扱いた。
「っあ、ん……」
双丘の谷間に立野の怒張が押し当てられ、緩慢に動くと涼の後孔は期待に疼く。立野の荒い息の熱が項に当たるだけで涼は高められ、反り返った自身からは先走りの蜜が滲んだ。
「ふ……立野くんって、物好きだな……」
「えっ?」
涼は平静を装って振り向きながら言う。
「飽きずによく抱いてくれると思って。俺の身体って良いの?」
「え……えっ、か……身体……?」
頬を紅潮させた立野は湯を含んで濡れた睫毛を瞬かせていた。やることはやっておきながら耳まで赤くした立野は口籠り、百面相を始める。
「か、身体が好きというか、僕は涼さんが好きなわけで……っ」
「……へえ?」
真っ赤になって慌てる立野が可愛くて、ついからかう調子で聞き返してしまった。
「本当ですって。少し前にお会いした、その時からちゃんと……っ」
続いた言葉に、今度は涼が瞬く番だった。
「……ごめんそれは初耳だわ。人違いじゃなく? 立野くんみたいな人見かけたら、そうそう忘れないだろ」
「あっ……やっぱり……」
分かりやすく項垂れた立野に、身に覚えがないのに罪悪感が生まれる。
「あー……ヒント。ヒントくれ」
本気で思い出そうと食い下がると、立野は慌てて首を横に振った。
「いっ、いいんです。ほんと、聞かなかったことにして」
「いや待て。場所は? どこだった?」
「と、都内のホテル……」
「うーん都内……」
涼が都内で会社員をしていた頃は調子に乗りすぎて、週三のペースで一日に一人以上だったこともある。立野に会った記憶は掘り出せそうにもない。
「でも立野くんみたいな外見を忘れることあるか……? よっぽど酔ってたとかぐらいしか考えられな……、っぁ、んぅ……っ!」
「もういいですから……」
無防備だった涼の先端を手の平で擦るように愛撫し始めた立野は、強すぎる刺激に飛び上がる涼の腰を引き寄せた。
「あ……ッ! ぁ、それ、やばっ……、は、ぁん、悪かった、って、っあ、謝るからっ、怒んなよ……っ」
「怒ってないですって……。でも涼さんよく見てくるから、覚えているのかと……」
「あ、あっ! そりゃ、たつのく、っ……はっ、顔がっ、タイプだからっ……」
「また顔って……。涼さんこそ、物好きですよ?」
ぴたりと手を止めた立野は涼の項にキスを落とす。そろそろ達しそうだった性器から立野の手が離れ、狂いそうなもどかしさに涼は思わず腿を摺り寄せた。
「ぁ……っ! あ……っ、やだ、やめんな……悪かったから……」
「ふふ、怒ってないですよ。……それより、腰もっと上げられる……?」
後半につれて立野の声音が余裕のないものに変わり、涼は鼓動を逸らせた。
先ほどよりも腰を持ち上げられ、脈打つ怒張の先端が涼の蕾の近くをなぞる。それだけで、いま何を話していたかを忘れてしまう。
涼は腰を突き出し、疼く孔を広げるように双丘を持ち上げた。
だが立野は涼の脚の隙間に怒張を滑り込ませ、荒い息で囁く。
「涼さん、この後お仕事するから……素股にしましょうね……」
立野は涼の身体に長い腕を巻きつけて、すぐに腰を打ちつけた。熱い楔が、涼の両脚が作る小さな隙間をくぐり重くなった蜜袋にぶつかる。
「ンぁ、……ッ!」
腰を引いた立野がまた突き入れる。肌が激しくぶつかる音を立て続けながら、与えられるもどかしい刺激に涼は悶えた。最奥が疼いて堪らなくなる。
「涼さん、声可愛い……、いつも我慢してるから、新鮮……」
「はぁっ、あっ、もう……んぁ、そういうの、いいからっ……!」
「前も、こんなにぬるぬる……」
雫を振り零し続ける涼のそれを立野の手が軽く扱くだけで、腰から下が重く痺れた。だが、上り詰めるには到底足りない。
「ぁ、あぁ、も、無理、は、イきたいっ、は、いれて、たつのく……っ」
立野の腕に縋りついて自分でも腰を動かすが、涼の求めるものには程遠く、身体の熱は荒れ狂うばかりだ。
「だめですよ……。涼さんが言ったんですから、我慢して?」
静かに諭す声音に涼は途方に暮れた。
「なに……すげー、いじわる……っ」
「ちょっとだけですよ……。それに涼さんなら、これだけでも中でイける、でしょう?」
語尾に合わせて立野がまた腰を穿つ。
「はぁっ、あぁ……ん!」
涼の先端から白濁が零れたが、立野は尚も止まらなかった。
硬い男根が涼の裏筋を擦り蜜袋がぶつかり合う。涼の先端には立野の掌が添えられたままで、往復が繰り返される度に身体の奥から捻じれるような快感に苛まれた。
「あー……っ、あぁー……、ぁ、やば……あ、あっ、で、出るぅ……っ!」
休みなく続く甘い責め苦によってついに涼は透明の雨を噴く。白濁より勢いよく噴き出しながら、涼は声も出せずにがくがくと腰を揺らした。その涼の脚の間で、脈打ちながら立野も達している。
「はぁっ……涼さん……」
鏡に映る涼の顔を見て立野は呟いた。
「顔、真っ赤ですね……」
「うるせ……イくと、こうなるんだよ……」
「そうなんだ……可愛い……。そういえば明るいところでするの、初めて?」
「明るいとこですんのあんま好きじゃないんだよ……」
「恥ずかしがることないのに」
立野は涼の背中にキスを幾つも落とし、脱力して立てない涼の腰を支えながら囁いた。
「……出ましょうか。お仕事もあるし、絵美子さんたち、帰って来ちゃいますし」
そのまま出ようとする立野の腕を引き、涼は立野に身体を向ける。きょとんという擬音がしっくりくる顔の立野が何度も瞬いた。
「涼さん?」
「……帰ってくるの夕方だし、まだ大丈夫だから……」
立野の首に腕を回して、涼は首を傾げる。
「挿れろよ……。欲求不満は、身体に悪いんだろ……?」
立野は一瞬呆けた顔をした後、そのまた一瞬の後に顔を真っ赤に染め上げた。
「す、涼さんっ……!?」
温和なカーキ色がここまでぎらつくことがあるのかと驚きながら、涼は片足を上げて立野を迎え入れようとする。
――頼まれていたお使いを忘れていることに気が付くのは、もう少し後のことだ。
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