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第6章:夢を尋ねる ~キャラクターデザイン学科:河野いちか~
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しおりを挟む二日間の合同企業説明会を終え、私は志望のB社、G社、M社すべてに履歴書などの書類を提出した。
そして、三社とも書類審査をクリアし、出されたイラストの課題をそれぞれ作成し、提出した。
正直、この課題作成の方がポートフォリオ作成の日々よりも日数的にも精神的にも体力的にもきつかった。就職を決める大きな意味を持つ作品だし、課題の内容も三社三様。しかも一週間ほどの短期間で三社分のイラストを、求められるものを汲み取り、かつ、クオリティの高いものに仕上げなければならない。
洗濯ものはギリギリまで溜め込んだし、食事はほとんど買ってきたものや温めるだけのもので済ませ、睡眠時間もかなり削った。
本当に申し訳ないと思ったけれども、日曜日のバイトを直前で休みたいと申し出て、別の人に代わってもらった。
苦心して作成した課題を提出して一週間ほど経った平日の夕方、一通のメールが届いた。
バイト終わりに見つけたそのメールは、タイトルからひと目で選考結果だとわかった。
ドクン、と心臓が一拍強く鳴った。
今見ようかどうしようか数瞬迷い、家に帰ってから見ることにした。
帰宅後、カーペットに正座した私は、呼吸を整えてからスマホ画面をタップした。
メールの冒頭、挨拶文から、第一志望のB社からの連絡だとわかった。
小さい文字を目でなぞっていく。
全文を読み終える前に、
『今回は残念ながら河野様のご意向に沿えない結果となってしまい――』
目が止まった。
呼吸も一瞬止まった。
もう一度読み返すも、文面は同じだった。
落ちた――。
面接に進めなかった。
『御社の乙女ゲームが大好きで、私も是非とも携わりたいと思っておりました』
合同企業説明会では伝えられなかった思いを面接で伝えようと思っていたのに、叶うことなく終わってしまった。
ガクンと項垂れる。
「まじか……」
掠れ声が出た。
就職活動の結果は担任に伝えないといけない。私は何とか顔を上げ、重い指捌きで増山さんにメールを送った。
翌日、増山さんから、「今ほしい絵柄じゃなかっただけで、出来の問題ではなかったんじゃないかな」と慰めの言葉をもらったけれど、気分はあまり浮上しなかった。
理由は、落ちたのがB社だけじゃなかったから。
B社からのメールの数日前、五月と六月に応募したコンテストの結果が続けざまに発表された。そのどちらも賞に掠りもしなかったのだ。メールでの連絡がなかったから、そうだろうと思っていたけれど、やはりサイトで確認したら凹んでしまった。
そこにB社のお祈りメール。
私の絵は必要とされない。そんな負の感情が頭を占めてしまった。
嫌なことは続くもので、B社からの連絡から二日経ってもG社とM社からの返事が来ず、やきもきする日が続いた。
課題の提出期限はB社より他の二社の方が早かったのに、なんで……? 不採用だから連絡後回しにされてる?
そんなことをぐるぐると考えてしまって、私のメンタルはますます”負”に傾いていった。
気持ちが晴れないままさらに三日過ごし、第二志望のG社と第三志望のM社の両社から待望のメールが届いた。
両社とも、面接に進んでほしいという旨が書かれており、読んだときは、内定をもらったわけじゃないのに、拳を強く握った。
まだ繋がっている、先に進むことができる。それがわかっただけで、心の底から安堵した。
再びリクルートスーツを身にまとい向かった第二志望のG社の面接は、こちらを審査するというよりは、私の人となりを知ろうとする会話が多かった。またG社自体もどういう性格の会社なのか、どういう社員が多いかを話してくれて、もっぱらお互いが合うかどうかを確かめるような面接だった。
TMSからG社に入った先輩の今の仕事内容や、社員の休みの日の過ごし方、社風、仕事中の雰囲気。そういったものを社内の見学も通して伝えてくれた。私に対しても、好きな作品や休みの日の過ごし方などを訊いてくれた。
面接として用意していた質疑ではなかったけれど、話しやすい雰囲気を作ってもらえたおかげで、つっかえずに伝えることができたと思う。
この面接を通して、気持ちがかなりG社に傾いた。日常業務の話をたくさん聞かせてもらい、スクール修了後に送りたい生活に近いものを実現できるのではないかと感じたからだ。
B社に落ちたからG社、というではなく、G社を知ったからこそ入りたい。そんな前向きな思いで、G社が第一志望になった。
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