上 下
59 / 63
第6章:夢を尋ねる ~キャラクターデザイン学科:河野いちか~

6-10

しおりを挟む

 二日間の合同企業説明会を終え、私は志望のB社、G社、M社すべてに履歴書などの書類を提出した。
 そして、三社とも書類審査をクリアし、出されたイラストの課題をそれぞれ作成し、提出した。
 正直、この課題作成の方がポートフォリオ作成の日々よりも日数的にも精神的にも体力的にもきつかった。就職を決める大きな意味を持つ作品だし、課題の内容も三社三様。しかも一週間ほどの短期間で三社分のイラストを、求められるものを汲み取り、かつ、クオリティの高いものに仕上げなければならない。
 洗濯ものはギリギリまで溜め込んだし、食事はほとんど買ってきたものや温めるだけのもので済ませ、睡眠時間もかなり削った。
 本当に申し訳ないと思ったけれども、日曜日のバイトを直前で休みたいと申し出て、別の人に代わってもらった。
 苦心して作成した課題を提出して一週間ほど経った平日の夕方、一通のメールが届いた。
 バイト終わりに見つけたそのメールは、タイトルからひと目で選考結果だとわかった。
 ドクン、と心臓が一拍強く鳴った。
 今見ようかどうしようか数瞬迷い、家に帰ってから見ることにした。

 帰宅後、カーペットに正座した私は、呼吸を整えてからスマホ画面をタップした。
 メールの冒頭、挨拶文から、第一志望のB社からの連絡だとわかった。
 小さい文字を目でなぞっていく。
 全文を読み終える前に、

『今回は残念ながら河野様のご意向に沿えない結果となってしまい――』

 目が止まった。
 呼吸も一瞬止まった。
 もう一度読み返すも、文面は同じだった。
 落ちた――。
 面接に進めなかった。

『御社の乙女ゲームが大好きで、私も是非とも携わりたいと思っておりました』

 合同企業説明会では伝えられなかった思いを面接で伝えようと思っていたのに、叶うことなく終わってしまった。
 ガクンと項垂れる。

「まじか……」

 掠れ声が出た。
 就職活動の結果は担任に伝えないといけない。私は何とか顔を上げ、重い指捌きで増山ますやまさんにメールを送った。
 翌日、増山さんから、「今ほしい絵柄じゃなかっただけで、出来の問題ではなかったんじゃないかな」と慰めの言葉をもらったけれど、気分はあまり浮上しなかった。
 理由は、落ちたのがB社だけじゃなかったから。
 B社からのメールの数日前、五月と六月に応募したコンテストの結果が続けざまに発表された。そのどちらも賞に掠りもしなかったのだ。メールでの連絡がなかったから、そうだろうと思っていたけれど、やはりサイトで確認したらへこんでしまった。
 そこにB社のお祈りメール。
 私の絵は必要とされない。そんな負の感情が頭を占めてしまった。
 嫌なことは続くもので、B社からの連絡から二日経ってもG社とM社からの返事が来ず、やきもきする日が続いた。
 課題の提出期限はB社より他の二社の方が早かったのに、なんで……? 不採用だから連絡後回しにされてる?
 そんなことをぐるぐると考えてしまって、私のメンタルはますます”負”に傾いていった。



 気持ちが晴れないままさらに三日過ごし、第二志望のG社と第三志望のM社の両社から待望のメールが届いた。
 両社とも、面接に進んでほしいという旨が書かれており、読んだときは、内定をもらったわけじゃないのに、拳を強く握った。
 まだ繋がっている、先に進むことができる。それがわかっただけで、心の底から安堵した。
 再びリクルートスーツを身にまとい向かった第二志望のG社の面接は、こちらを審査するというよりは、私の人となりを知ろうとする会話が多かった。またG社自体もどういう性格の会社なのか、どういう社員が多いかを話してくれて、もっぱらお互いが合うかどうかを確かめるような面接だった。
 TMSからG社に入った先輩の今の仕事内容や、社員の休みの日の過ごし方、社風、仕事中の雰囲気。そういったものを社内の見学も通して伝えてくれた。私に対しても、好きな作品や休みの日の過ごし方などを訊いてくれた。
面接として用意していた質疑ではなかったけれど、話しやすい雰囲気を作ってもらえたおかげで、つっかえずに伝えることができたと思う。
 この面接を通して、気持ちがかなりG社に傾いた。日常業務の話をたくさん聞かせてもらい、スクール修了後に送りたい生活に近いものを実現できるのではないかと感じたからだ。
 B社に落ちたからG社、というではなく、G社を知ったからこそ入りたい。そんな前向きな思いで、G社が第一志望になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話

赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。 「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」 そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

処理中です...