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第2章:夢に酔う ~小説・シナリオ専科:木崎彩~
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しおりを挟む翌日日曜日も一日中立ち仕事でへとへとになって帰宅したわたしは、気合いとコーヒーで企画書に向き合った。そのかいあって土日でキャラクター設定は終わった。
あとはプロットを完成させるだけだ。
土日の隙間時間にいろいろ考え結果、乙女ゲームの展開を先に決めるのではなく、小説のストーリーを先に固めることにした。小説の流れに沿って乙女ゲームのストーリーを後付けしていくのだ。当初のやり方だとかなり時間がかかる気がしたからだ。今のわたしにそんな余裕はない。
どんなやり方がいいかわからないけれど、完成させなければ始まらない。改良は、大西先生に見てもらってからいくらでもできる。
月曜は朝から講義があったけれども、一コマ目終了後は大学内の図書館に行き、勉強をしているように見せかけてネタ帳と印刷してきた企画書を開いた。
課題の一つ目――攻略対象キャラたちと交流が深まっていくイベント――よりも、すでに固まっているラストに近いところの方が決めやすいような気がして、課題の二つ目――魔王討伐の任に抜擢される流れ――を先に詰めていくことにした。
以前書いた何パターンもの展開案を何度も頭の中で上映し、改良を加えたり、一部分だけ別の案と入れ替えたりして試行錯誤をしていく。
前は、この上映中に書籍が書店に並んで、コミカライズが決定していく妄想に耽ってしまったけど、今回は大丈夫だった。
なにせ、圧倒的に危機感が違う。
それに、今回は「詳細まで書かなくても流れがわかればよい」と敢えて口にして『プロット』を意識して、進めていった。
月曜最後の講義を終えると、わたしはすぐさまアパートに帰って、図書館や講義中にメモしたことをWord文書にまとめていった。不思議なことにまとめると新たなアイデアが湧いて、展開が繋がっていった。
集中しているうちにいつの間にか日付が変わっていたけれど、頑張ったおかげで課題の二つ目は大体固まった。これでプロットは残り二割強だ。
火曜日も印刷した企画書を持ち歩き、空いている時間に眺めては頭の中で物語を展開させ、話しの流れを組み立てた。
課題の一つ目である攻略キャラクターたちとの交流イベントはキャラクター分考えなければならない上にワンパターンにならないようにしなければいけない。
それが若干不安だったけれど、各キャラクターの性格や設定を見ながらイメージを膨らませていたら、自然と異なるきっかけ、異なる展開を思いつくことが出来た。
講義を終え、夕方前に家に帰ると、メモを元に、それぞれの出来事の時系列や順番、辻褄などがおかしくなっていないことを確認して、プロットに反映していった。
連日の睡眠不足で頭が若干ぼーっとしていたけれど、自分を奮いたたせ、プロットに向き合った。
書き終わったのは夜の12時を過ぎた頃だった。
データを保存しつつ、わたしは大きく息を吐いた。
書けた――。
でも、まだ完成じゃない。
わたしはお湯を沸かしながら、企画書をプリントアウトした。提出前の再確認だ。誤字脱字のチェックと、齟齬がないことの確認。
襲ってくる睡魔を淹れたばかりのコーヒーとお菓子で散らしながら、本当にこの展開でいいだろうか、もっと大きな動きがあった方がいいのだろうか、と今更ながら悩み、その都度、
「完璧は求めない。まずは出す」
と、呪文のように口に出した。
一発で満足のいくものなんて書けっこない。あとでもっと面白いものを思いついたら差し替えればいい。
誤字脱字を修正し、深夜3時半、長編小説の企画書第一稿が完成した。
保存をして、わたしは背もたれに身体を預けた。
しぱしぱする両目を揉み解す。
出来た――。
興奮と安堵で胸がいっぱいになった。
千映ちゃんたち他の人はみんなやっていることだけど、それでも妙にやり遂げた気持ちになった。
明日水曜日は二コマ目のみ。でも午後から夜まで喫茶店でのバイトが入っている。
シャワーをして、少しだけ頭をすっきりさせたわたしは、課題提出用のメールアドレス宛にメールを打った。
出来たての企画書を添付し、今一度宛先と文面、添付ファイルを確認する。
うん、問題ない。
今のわたしが思い描ける最大限の物語とキャラクター。
「よろしくおねがいします」
送信ボタンをクリックするとき、そんな言葉が自然と零れてきて、思わず苦笑する。
念のために送信済フォルダにメールがあることを確認すると、安堵の息を吐きつつパソコンをシャットダウンした。
頭は朦朧としていたけど、達成感で少し興奮していた。
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