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第2章:夢に酔う ~小説・シナリオ専科:木崎彩~
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しおりを挟む授業を終え、わたしは千映ちゃんと一緒にスクールを出た。
彼女と初めて話したのは、第一回目の授業の帰り。授業の最初に行われた自己紹介でお互い大学二年生だと分かり、授業が終わった後千映ちゃんの方から、
「新宿駅まで? もしそうだったら駅まで一緒に行ってもいい?」
と声をかけてきてくれたのがきっかけだ。
駅までの道すがら、路線が同じだということがわかってますます会話が弾んだけど、わたしが一浪していることを話したら、真面目な千映ちゃんは急に敬語を使い始めてしまって、「同学年なんだからタメ口がいいよ」と慌てる一幕もあった。
そんなことを話しているうちに新宿駅に着いたわたしたちは、金曜の夜のぎゅうぎゅう詰めの電車に乗り込み、千映ちゃんの乗り換える駅までの五駅の間、大学のことや好きなライトノベルレーベルや作品のことを話した。
それから約一年間、新宿駅までの道のりと、人でいっぱいの電車の中でいろんな話をした。
今日も新宿駅は人でごった返していて、ホームには一週間の疲れが顔に表れている人たちや、お酒を飲んできた陽気なサラリーマンたちがすでに列を作っていた。
わたしも千映ちゃんも人に押さながら車内に乗り込み、はぐれないようになんとか並んで吊革に掴まった。
「彩ちゃん、最近忙しいの?」
電車が走り出したのとほぼ同時に千映ちゃんが口を開いた。
一瞬ギクリとしたけれども、表情には出さずに「んー」とわたしは思案顔を作る。そして少し間をおいてから、準備しておいた返事を口にする。
「そうだね、忙しかった。春休みだからバイトの量を増やしててさ。多い週は六日。最初は週五でシフト出したんだけど、社員さんに人が足りない日があるから出てくれないかって頼まれて。スクールの学費以外にも買いたい小説もあるし、稼げるときに稼ごうと思ったら、自分の首絞めちゃった……」
彼女の問いは当然だと思う。決して文字数の多くない今回のシナリオ課題を提出していなかったのだから。
会社員は決算なんかが三月にあるから忙しいと聞いたことがあるけれども、大学二年生のわたしたちは二月から三月は春休み。それだけ見れば時間はたっぷりあるように見えるけど、週五や週六でバイトをしていれば休みの日は家のことをこなしたり、身体を癒したりするのに徹してしまう。
「学費のためとは言え、そんなに働いたら書く時間捻出するの大変だね。喫茶店だったよね。バイトの後じゃくたくただよね」
「そうなの!」
思わず語気が強くなる。
わたしだって週六も働きたくない。毎日くたくたで、帰ってからネタ帳とノートパソコンを開いて課題に取り組んでもほとんど進まない日もあった。
だから、課題を提出出来なくても仕方ないのではないか……。
「そっか、大変だね。私は多くても週三しかシフト入ってないから……」
吊革に掴まってなんとかバランスを取りながら、千映ちゃんが申し訳なさそうに呟く。
千映ちゃんは実家暮らしで、ご両親はスクールに通うことに協力的らしい。願書を提出するとき、彼女は両親に、小説家になりたいと、初めて自分の夢を告げたらしい。
両親は驚いたらしいが反対はせず、むしろ、スクールの学費のためにバイトをたくさん入れて、大学もスクールも中途半端になってしまっては本末転倒だと、自分で学費を払うと言った彼女を制したらしい。
自分で賄いたい千映ちゃんと両親との間で見つけた着地点が、彼女が学費の六割を払う、だったらしい。実家暮らしも手伝って、千映ちゃんのバイトの日数はわたしに比べてずいぶん少ない。故に時間に余裕もある。
――お前になれるわけないだろう。
脳裏に過った父親の言葉に、自然と眉根が寄った。
両親に頭ごなしに否定されたときの記憶は今も生々しく残っている。
高校生のときだった。小説を書いているのを見られたのをいい機会だと思い、小説家になりたいという夢を告げたのだ。
両親は、鼻で笑い、一蹴した。
なに馬鹿なこと言ってるの。なれるわけないだろう。もっと現実を見なさい。そんなことより就職に有利な資格の勉強をしなさい。
両親から矢のように言われた。
実家を離れアパートで独り暮らす今、TMSには親に内緒で通っている。
本当は大学に入ってすぐにでも通いたかったけど、教育ローンを組みたくなかったから、一年間で一年分の学費を貯めた。
小説家を目指してスクールに通っていることを両親が知ったら、きっと「金と時間の無駄だ」と罵るだろう。
親の理解があり、時間にもお金にも余裕のある千映ちゃんが羨ましいと思うことがたびたびある。
でも、それと同時に、妬ましく感じてしまうのも本音だった。
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