夢はお金で買えますか？ ～とあるエンタメスクールの7カ月～

第１章：夢を喰う ～教務係：佐久間晧一～

１－１

「高たっか……」

　何気なく見た募集要項に並ぶ金額たちに、僕は思わず声を漏らした。


　ゲーム学科103万円
　アニメーション学科100万円
　キャラクターデザイン学科103万円
　マンガイラスト学科89万円
　小説・シナリオ学科89万円
　声優学科90万円――。


　学科毎の学費の内訳は授業料、施設設備費、演習費。
　この額だけでも十分高くて引いてしまいそうなのに、これはあくまで一年分。どの学科も二年制だから、単純にこの倍はかかるということだ。
　それに学費以外にも入校金10万円、教材費約5万円も別でかかると書かれている。
　とんでもない額だ。


　東京メディアスクール。
　略してＴＭＳ。


　新宿駅を最寄りとした、アニメやゲーム、マンガ、声優などのエンターテインメント業界への就職、デビューを手助けする専門教育機関。


【夢の種をまきませんか？】


　ＴＭＳの総合パンフレットにもＷＥＢサイトにもこのキャッチフレーズが踊っている。
　生徒たちのまいた夢の種を育て、花を咲かせる手助けをする。そう謡い、ＷＥＢサイトではこのキャッチフレーズ以外にも就職率や卒業生の実績も大きなフォントでアピールし、入校を誘っている。
　開校は1998年。ちなみに僕より年上だ。
　結構な高額だが、ダブルスクールや働きながら通うことを想定しているらしく、どの学科も授業は週に三日しかない。
　残りの四日間をフルで働けば、ギリギリ生活できるかもしれないし、大学や短大に行きながら通うこともできるかもしれない。でも、学費と生活費の両方を捻出するのはさすがに厳しいと思うけど……。

　と、思っていたら、募集要項に教育ローンのページを発見した。
　週三の授業と、教育ローンという点を見ると間口の広いスクールに見えるけれど、授業日数に比べ学費が割高な気がしてしまう。きっとそう思っているのは僕だけじゃないだろうけど、夢のためにローンを組む人もきっと結構な割合でいるのだろう。


　エンターテインメント業界と言えば人気もあるし、華やかそうだ。
　小説家や漫画家なんて、成功すれば印税収入がウン千万円と入ってくるのだろう。
　夢がある。
　あるけれど――。
　エンターテインメント業界と言えば、狭き門。

　人気があるからこそ、倍率が高く、誰もが仕事に就くことができるわけではない。
　小説家や漫画家なんて特にそうだ。デビューするのも狭き門なら、仕事をし続けられる人なんてほんの一握り。おまけに収入面は安定しない。
　実現できるかどうかもわからない夢というあやふやなものに対して、どうして大金と二年間という時間を費やせるのか。
　僕にはそれが理解できない。まるでギャンブルだ。
　学費と生活費を自分で稼げば親に迷惑はかからない、そう言う人もいるだろう。けれども、費やした時間は戻らない。入校して二年後、希望する業界への就職ができなかったら、その後の就職はどうするのだろう。

　今まさに、夢を叶えるスクールで働いている僕が言うのもおかしな話だけども、嘘偽らざる、正直な思いだった。