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No.9 自壊
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貧しい青年と、美しい娘の恋の結末。
ようやく心を通わせ、互いに恋するようになった二人。けれど、あまりに身分が違い過ぎた。
二人は周囲の大反対に合う。娘の両親は、二人の恋を決して許そうとしなかった。
二人を無理矢理引き離し、娘の縁談を決めてしまう。
トントン拍子に進んでいく娘の結婚話。
両親の眼を盗み家を飛び出した娘は、青年の元へ会いに行く。そして二人は駆け落ちし、遠い街に身を隠す。だが、娘の両親は執念深く、逃げ通す事はできなかった。
結ばれる事が叶わないと悟った二人は、共に死にゆく事を選んだ。
最後は互いに固く抱き合ったまま、深い海へと身を投げていく。魂だけになって、結ばれる事を誓いながら。
何処にでも語られるような、悲しい恋の結末。
∞
物語の結末がそうであったから、二人を真似たいと思ったわけではない。そんな安易な結論ではない。
結ばれる事がないから、共に死んでいく。そんな理想を描いたわけでもない。
アルフレドには、『死』というものはない。
完全に壊れてしまわない限り、半永久的に動き続ける。アルフレドを造り出した人間達が全て居なくなってしまった後も、燃料が尽きない限り、ずっと。
イブの肉体は、いつか朽ちる。
こうして今は美しいカタチをしているけれど、生身である以上イブは歳を取っていく。それは、イブが眼を覚ましても覚まさなくても、変わらない事実。
喩えアルフレドがイブと心を通わす事ができたとしても、いつかはイブだけが死んでいく。生身の体は、時間と共に年老いる。
生き物たる故の『死』。死ぬ事のないモノは、生き物ではない。
命の理。
曲げる事のできない摂理。
それならば……。
それならば、いつかその理に習って朽ちていくイブと一緒に、自壊していく事を選んだ。
何故だか判らない。
けれど、そうしたいと思った。
アルフレドの人工頭脳の回路に発生した思考。
自壊。
全ての出来事には、終わりがある。
この宇宙に生まれた星々ですら、永遠ではないように。
いつか訪れるかもしれない終わりならば、自分の意思で終わりたい。
目覚める事のない、唯一の人と一緒に。
アルフレドはそう思った。
人工頭脳にプログラムされた回路の思考ではなく、自らの意思でそう決めた。
自壊という選択肢は、プログラムにはあり得ない。
アルフレドの『心』が望んだ答え。
人工頭脳の学習プログラムが造り出した、偽物の『感情』かもしれない。けれど確かに今、アルフレドの中に『心』というものが存在していた。
イブへの『恋』という『感情』で満たされた、アルフレドの『心』。
アルフレドは、ただじっとイブを見詰め続けていた。
「イブ、僕に感情を教えてくれて、ありがとう」
恋しい人。
この人の心には、永遠に出会う事はできない。
だから、せめて最期は君と共に。
そう、この基地ごと、君と崩壊していく。
想定される様々な緊急事態に備え、このドーム型の基地の機器類には消滅プログラムが内蔵されている。それを全て同時に発動させれば、この基地自体が消滅する。
ここにあるものの全てが、等しく崩壊していく。
イブも、アルフレドも。
二人の体を構成していたものが、するすると解けていく。
形成していたものが、解放されていく。
全てが、この宇宙に自由に散らばっていく。
君も僕も、ここへ散らばっていく。
それで、いいんだ。
アルフレドは、それで満足だった。
イブを見詰めながら、嬉しそうに微笑む。
この世界に造られて、本当に良かったと思った。
こうして、自壊を選んでしまったけれど。
アルフレドの『心』は、満たされていた。
ようやく心を通わせ、互いに恋するようになった二人。けれど、あまりに身分が違い過ぎた。
二人は周囲の大反対に合う。娘の両親は、二人の恋を決して許そうとしなかった。
二人を無理矢理引き離し、娘の縁談を決めてしまう。
トントン拍子に進んでいく娘の結婚話。
両親の眼を盗み家を飛び出した娘は、青年の元へ会いに行く。そして二人は駆け落ちし、遠い街に身を隠す。だが、娘の両親は執念深く、逃げ通す事はできなかった。
結ばれる事が叶わないと悟った二人は、共に死にゆく事を選んだ。
最後は互いに固く抱き合ったまま、深い海へと身を投げていく。魂だけになって、結ばれる事を誓いながら。
何処にでも語られるような、悲しい恋の結末。
∞
物語の結末がそうであったから、二人を真似たいと思ったわけではない。そんな安易な結論ではない。
結ばれる事がないから、共に死んでいく。そんな理想を描いたわけでもない。
アルフレドには、『死』というものはない。
完全に壊れてしまわない限り、半永久的に動き続ける。アルフレドを造り出した人間達が全て居なくなってしまった後も、燃料が尽きない限り、ずっと。
イブの肉体は、いつか朽ちる。
こうして今は美しいカタチをしているけれど、生身である以上イブは歳を取っていく。それは、イブが眼を覚ましても覚まさなくても、変わらない事実。
喩えアルフレドがイブと心を通わす事ができたとしても、いつかはイブだけが死んでいく。生身の体は、時間と共に年老いる。
生き物たる故の『死』。死ぬ事のないモノは、生き物ではない。
命の理。
曲げる事のできない摂理。
それならば……。
それならば、いつかその理に習って朽ちていくイブと一緒に、自壊していく事を選んだ。
何故だか判らない。
けれど、そうしたいと思った。
アルフレドの人工頭脳の回路に発生した思考。
自壊。
全ての出来事には、終わりがある。
この宇宙に生まれた星々ですら、永遠ではないように。
いつか訪れるかもしれない終わりならば、自分の意思で終わりたい。
目覚める事のない、唯一の人と一緒に。
アルフレドはそう思った。
人工頭脳にプログラムされた回路の思考ではなく、自らの意思でそう決めた。
自壊という選択肢は、プログラムにはあり得ない。
アルフレドの『心』が望んだ答え。
人工頭脳の学習プログラムが造り出した、偽物の『感情』かもしれない。けれど確かに今、アルフレドの中に『心』というものが存在していた。
イブへの『恋』という『感情』で満たされた、アルフレドの『心』。
アルフレドは、ただじっとイブを見詰め続けていた。
「イブ、僕に感情を教えてくれて、ありがとう」
恋しい人。
この人の心には、永遠に出会う事はできない。
だから、せめて最期は君と共に。
そう、この基地ごと、君と崩壊していく。
想定される様々な緊急事態に備え、このドーム型の基地の機器類には消滅プログラムが内蔵されている。それを全て同時に発動させれば、この基地自体が消滅する。
ここにあるものの全てが、等しく崩壊していく。
イブも、アルフレドも。
二人の体を構成していたものが、するすると解けていく。
形成していたものが、解放されていく。
全てが、この宇宙に自由に散らばっていく。
君も僕も、ここへ散らばっていく。
それで、いいんだ。
アルフレドは、それで満足だった。
イブを見詰めながら、嬉しそうに微笑む。
この世界に造られて、本当に良かったと思った。
こうして、自壊を選んでしまったけれど。
アルフレドの『心』は、満たされていた。
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