ワンダープラネット《やんごとなき姫君と彷徨える星の物語》

遠堂瑠璃

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28 冒険

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 そして、あれから一週間が経とうとしている。
 ラオンはジイやと王、王妃に連れられ、ジュピターへと帰っていった。
 ソモルはその後、宇宙ポリスたちに送られ無事マーズへと帰還した。帰還してすぐ、ソモルは荷物運びの仕事場へ向かった。
 三日以上無断欠勤してしまったのだ。しかも、指名手配犯になった上にだ。仕事場にも、多大な迷惑をかけてしまった。
 ソモルはびびりながらも、おっかない親方の元へ顔を出した。そして数日間の事情を説明して、素直に謝った。
 絶対にゲンコツを喰らう。ソモルは覚悟していた。
 けれど、親方は怒らなかった。
 親方は豪快に笑い飛ばした後、ソモルの頭をポンポンと三回軽く叩いた。
 なんだか呆気にとられてしまった。けれど、親方の手はとても大きくてぶ厚くて、そして暖かだった。


 そしてソモルは、いつも通りの平凡な日常へと戻った。
 朝から晩まで働いて、金を稼ぐだけの生活。スリルや冒険なんかとは、到底無縁の毎日。悪ガキ仲間とたまにつるんで、くだらない話に花を咲かせたり、ふざけ合ったりする。ただ、それだけ。
 当たり前だったそんな事が、なんだか妙に虚しく思えたりする。もっとずっと面白くて、心躍るようなわくわくを知ってしまったから。
 けど、俺には俺の毎日がある。そう、無理矢理自分を納得させた。

「……なんって、やっぱ退屈だよあ」

 ぼそっと言葉にしてみる。
 いつものようにソモルは、夕方酒場ファザリオンに荷物を配達し、そのまま夕飯にありついていた。ふわふわ卵のオムライスを、銀色のスプーンで皿から掬い上げる。
 ケチャップの色が、ラオンの飲んでいた赤ワインの色に見えてくる。
 なんだか突然、もう一度冒険がしたくなった。
 切ない気分だった。
 スプーンに掬ったオムライスを、ソモルはパクッと口に入れた。ほろほろと、舌の上で卵が溶けていく。


「やっほーっ! ソモル!」

 
 非常に聞き覚えがある声が、背後から響いた。
 カウンター席に居たソモルは、驚いて振り向いた。
  
 そして眼を疑う。
 一週間前に別れたままの格好をしたラオンが、そこに立っていた。

「ラッ……ラオンッ!」
 
 すっとんきょうな声を上げ、驚きのあまりソモルはオムライスの米粒を喉に詰まらせた。

「大丈夫、ソモル」

 ラオンにミルクを渡され、ソモルはそれを一気に飲んだ。

「ぶあーっ!」

 ソモルが、汚れた口元を手の甲で拭う。

「お前! 一体なんでここに居るんだよっ!?」

 ソモルが涙目のまま、まくし立てる。

「だって、いつでも来いって云ったじゃないか」
 
 あっけらかんとしたラオンの答え。
 そう云われては、云い返せない。

「けどなー、別れたのはつい一週間前だぜ」

 再会は素直に嬉しいが、どうも妙な感じだ。と、その時だった。

 バターン

 勢い良く、酒場の扉が開く音。
 嫌な予感を感じながらも、そーっとソモルは振り向いた。

「姫様! やはりここでしたか!」

 やっぱり。ソモルがため息を吐いた。
 感動の再会シーンもままならず、ジイやたちが飛び込んできてしまった。

「あれからまだ日数も経っておりませんのに、ジイはお嘆き申し上げますぞ!」
「だって、退屈なんだもん」

 ラオンの減らず口が飛ぶ。自分も同じ事を呟いていたなんて、絶対に云うもんかとソモルは思う。

「おいラオン、俺また指名手配なんてやだよ」

 あらかじめ、断るソモル。ラオンは聞いていない。

「そーれ、逃げるぞ、ソモル!」

 ラオンは椅子から飛び降りると、勢い良く駆け出した。
 やっぱりなあ。
 ソモルが再び、ため息を吐く。

「待てよ、ラオン!」

 もう、こうなったら自棄だ。それに、なんだかとても面白くなってきた。
 ラオンを追って、ソモルも駆け出した。

「お待ち下さい、姫!」


 二人の冒険は、まだ始まったばかりなのだ。


         
 《END》
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