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11 逃避行
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ラオンは身を屈めたまま、貨物船までの三メートルを一気に駆け抜けた。
誰も、見ていない。
ラオンが無事船体の下に隠れたのを確かめると、ソモルも一気に後に続いた。滑り込むように、ラオンの隠れる船体の下に潜る。
うまくいった。
地べたを伝って、大人数の走る振動が動く。
少年たちの証言を元に、警備隊の数人が街へ向かう様子だった。
二人は船体の下から這い出ると、貨物船の様子を確かめた。周囲に乗員は居ない。幸い、まだ荷物の積み込み口は開いている。
しめた!
二人は踏み台に飛び乗ると、そのまま積み込み口の中へ身を躍らせた。行く先は判らないが、とにかく今はこの星から脱出できればいい。
二人は積み込まれた荷物の隙間に身を潜めると、息を殺して発射の時を待った。
乗員の声がする。荷物の積み込みが全て終了した事を確認しているようだ。
やがて、荷物口の戸が閉められた。
どうやら、無事この星から離れる事ができそうだ。二人は安堵と疲労に、すっかり脱力していた。
ぺったりと座り込んだ体の下から、ゆっくりと振動が伝わってくる。いよいよ、発射の時だ。
ゴゴゴゴゴゴ
二人の侵入者を乗せてしまった事も知らず、貨物宇宙船が地表を離れていく。どんどん加速を繰り返しながら上昇を続け、あっという間にマーズの大気圏の中だった。
もちろん外の様子を見る事のできない二人は、それを知るよしもない。
ラオンはふと、違和感を覚えた。なんだか、この貨物船は臭う。
怪しいと意味ではない。本当に臭うのだ。
その時、背後に気配を感じて固まった。
何か、居る。
ソモルの首元に、生暖かい息がかかった。
心臓が跳ね上がった。そして。
ブヒッ
二人は、恐る恐る振り向いた。
丸々と肥えた、白い塊が幾つもうごめいているのが見えた。
豚の群れだった。
必死だった二人は、隠れた荷物の奥の方に居た豚の大群に全く気づかなかった。
「……ラオン、俺たちどうやら、豚の家畜船に乗っちまったみたいだぜ」
「……だね」
一面、白い豚だらけ。
豚たちは侵入者にも動じず、もぞもぞと用意された餌を食んでいる。
物音が目立たない分、普通の貨物船より見つかる可能性が低そうなので、案外幸運なのかもしれない。
ラオンとソモルは、宇宙軌道を渡る数時間の道程を豚たちと過ごした。
この豚たちがおとなしくしていてくれれば良いのだが、やたらと威勢が良くあちこち動き回る。その度に、二人はもみくちゃにされた。
おかげで二人共、貨物船が行き先の星に到着する頃には更にくたくたになっていた。
下降にともなう船体の振動も収まり、どうやら何事もなく移動に成功したようだと二人は悟った。ラオンとソモルは、活発に動き回る豚たちの中に紛れ込む体勢で扉が開かれるのを待った。
ここで見つかっては、今までの全てが水に流れる。豚の背中越しに、今か今かと扉を見詰める。
豚たちの白い体に、一筋の光が射した。扉が、ゆっくりと開かれていく。
ラオンとソモルは、視線でこの後の行動を確かめ合う。豚に紛れて、このままここから脱出する手筈だ。
扉の外に、乗員の姿が見えた。どうやら二人程、豚たちの誘導をしている。豚たちを養豚場へ移す為に、別の乗り物へ移動させているのだろう。
二人は目配せした。体を小さく丸め、誘導されていく豚の間にうまく納まる。
鼻を鳴らして興奮している豚のよだれが、ソモルの頭にだらりと垂れた。不快感に顔を歪めながらも、じわりじわりと進んでいく。
ソモル、根っからの汚れ役だ。
扉がすぐそこに迫り、乗員の姿が近づいてくる。二人は、更に身を低くした。二人が挟まれた豚の列が外に出ようとした、その時だった。
ブッキイイー!
激しく鳴き叫ぶ豚の声がした。トラックに乗せられる直前で、一匹の豚が反抗して暴れていた。その甲高い鳴き声に、他の豚たちもにわかに動揺し始めている。
「こらっ! 暴れるな、おとなしくしろっ!」
乗員がなだめるも、云う事を聞く気配はない。一匹の豚の反乱に、同調した豚たちも次第に暴れ始めた。もはや、収拾がつかない。
「おい、大丈夫か」
てこずる仲間の助っ人に、扉の前で誘導していた乗員が持ち場を離れた。
チャンスだ。今しかない。
ラオンとソモルは沸き立つ豚の群れを掻き分けると、扉の横のゲートを飛び越え、一気に地表へと駆け出した。豚たちの騒ぎ声を背に、一目散に船体を離れていく。
警備隊の姿はない。幸いこの星は、マーズのような厳戒態勢ではない様子だ。
二人はそのまま走り続け、ステーションの門を抜けた。
誰も、見ていない。
ラオンが無事船体の下に隠れたのを確かめると、ソモルも一気に後に続いた。滑り込むように、ラオンの隠れる船体の下に潜る。
うまくいった。
地べたを伝って、大人数の走る振動が動く。
少年たちの証言を元に、警備隊の数人が街へ向かう様子だった。
二人は船体の下から這い出ると、貨物船の様子を確かめた。周囲に乗員は居ない。幸い、まだ荷物の積み込み口は開いている。
しめた!
二人は踏み台に飛び乗ると、そのまま積み込み口の中へ身を躍らせた。行く先は判らないが、とにかく今はこの星から脱出できればいい。
二人は積み込まれた荷物の隙間に身を潜めると、息を殺して発射の時を待った。
乗員の声がする。荷物の積み込みが全て終了した事を確認しているようだ。
やがて、荷物口の戸が閉められた。
どうやら、無事この星から離れる事ができそうだ。二人は安堵と疲労に、すっかり脱力していた。
ぺったりと座り込んだ体の下から、ゆっくりと振動が伝わってくる。いよいよ、発射の時だ。
ゴゴゴゴゴゴ
二人の侵入者を乗せてしまった事も知らず、貨物宇宙船が地表を離れていく。どんどん加速を繰り返しながら上昇を続け、あっという間にマーズの大気圏の中だった。
もちろん外の様子を見る事のできない二人は、それを知るよしもない。
ラオンはふと、違和感を覚えた。なんだか、この貨物船は臭う。
怪しいと意味ではない。本当に臭うのだ。
その時、背後に気配を感じて固まった。
何か、居る。
ソモルの首元に、生暖かい息がかかった。
心臓が跳ね上がった。そして。
ブヒッ
二人は、恐る恐る振り向いた。
丸々と肥えた、白い塊が幾つもうごめいているのが見えた。
豚の群れだった。
必死だった二人は、隠れた荷物の奥の方に居た豚の大群に全く気づかなかった。
「……ラオン、俺たちどうやら、豚の家畜船に乗っちまったみたいだぜ」
「……だね」
一面、白い豚だらけ。
豚たちは侵入者にも動じず、もぞもぞと用意された餌を食んでいる。
物音が目立たない分、普通の貨物船より見つかる可能性が低そうなので、案外幸運なのかもしれない。
ラオンとソモルは、宇宙軌道を渡る数時間の道程を豚たちと過ごした。
この豚たちがおとなしくしていてくれれば良いのだが、やたらと威勢が良くあちこち動き回る。その度に、二人はもみくちゃにされた。
おかげで二人共、貨物船が行き先の星に到着する頃には更にくたくたになっていた。
下降にともなう船体の振動も収まり、どうやら何事もなく移動に成功したようだと二人は悟った。ラオンとソモルは、活発に動き回る豚たちの中に紛れ込む体勢で扉が開かれるのを待った。
ここで見つかっては、今までの全てが水に流れる。豚の背中越しに、今か今かと扉を見詰める。
豚たちの白い体に、一筋の光が射した。扉が、ゆっくりと開かれていく。
ラオンとソモルは、視線でこの後の行動を確かめ合う。豚に紛れて、このままここから脱出する手筈だ。
扉の外に、乗員の姿が見えた。どうやら二人程、豚たちの誘導をしている。豚たちを養豚場へ移す為に、別の乗り物へ移動させているのだろう。
二人は目配せした。体を小さく丸め、誘導されていく豚の間にうまく納まる。
鼻を鳴らして興奮している豚のよだれが、ソモルの頭にだらりと垂れた。不快感に顔を歪めながらも、じわりじわりと進んでいく。
ソモル、根っからの汚れ役だ。
扉がすぐそこに迫り、乗員の姿が近づいてくる。二人は、更に身を低くした。二人が挟まれた豚の列が外に出ようとした、その時だった。
ブッキイイー!
激しく鳴き叫ぶ豚の声がした。トラックに乗せられる直前で、一匹の豚が反抗して暴れていた。その甲高い鳴き声に、他の豚たちもにわかに動揺し始めている。
「こらっ! 暴れるな、おとなしくしろっ!」
乗員がなだめるも、云う事を聞く気配はない。一匹の豚の反乱に、同調した豚たちも次第に暴れ始めた。もはや、収拾がつかない。
「おい、大丈夫か」
てこずる仲間の助っ人に、扉の前で誘導していた乗員が持ち場を離れた。
チャンスだ。今しかない。
ラオンとソモルは沸き立つ豚の群れを掻き分けると、扉の横のゲートを飛び越え、一気に地表へと駆け出した。豚たちの騒ぎ声を背に、一目散に船体を離れていく。
警備隊の姿はない。幸いこの星は、マーズのような厳戒態勢ではない様子だ。
二人はそのまま走り続け、ステーションの門を抜けた。
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