12 / 13
十一 黄泉
しおりを挟む
黄泉津大神。
かつてこの國を造り上げた、夫婦神の片割れ。伊邪那美命。
今や黄泉を司る神となったイザナミが黄泉返りし時、この現世と黄泉は完全に繋がる。かつてはひとつだったもの。伊邪那岐命と伊邪那美命、二人が別ったこの世とあの世の門が開く。
生きる者、死す者、全てが共に存在する世界。
かつてこの國が生まれる前、世界が混沌の海だった頃のように。
何もかも、全てが共に。本来は、そうあるべきだったのだ。
だが、今は違う。
世界はあの世とこの世に別れ、それが当たり前の理におさまった。
今また交ざり合えば、それは再び混沌を招く。
そうならぬように、父神、伊邪那岐命より仰せつかった。
天照大御神と月読命。
現世を照らす太陽を司る神と、夜の食す國を司る月の神。
夜の食す國は、黄泉と同じく有るもの。現世に現れ、黄泉と共に存在する。
夜は黄泉と束の間に重なる。丑三つの刻は、二つの世界が最も濃く重なり合う。
けれど、常に共に存在する事はない。してはならない。
その秩序を保つ。
それが、父神から仰せつかった月読命の役目。
月読命……かぐやは己の承った使命を思い出した。
黄泉の國から繋がりし空。
その空に宿った月読命の魂が、かぐやとなり生まれ出でた。
己が何処から、何の為に空に宿ったのか。その意味を、かぐやは今はっきりと思い出した。
この世と繋がってしまった黄泉を断ち切り、再び夜の食す國の向こうへ戻す。
それは、夜の食す國を司る月読命にしかできぬ術。
そして、黄泉の國から悪しき汚れた者が降りてくるのを阻むは、桃の精である桃太郎の役目。
月は満ち明るい処は現世に現れ、欠けて闇を宿した処は黄泉に残る。黄泉と現世を行き来する円。
そして、その円の中は空。
黄泉に下った者の魂を呼び戻すには、最良の入れ物。
その魂を宿す器、生身の肉の器が必要となる。
輪廻転生をせずに肉体に宿る。黄泉から通じる空に宿り生まれる。
けれどそれは、この世の理の中では御法度。
そして物理的な肉体を得るには、やはり子種は欠かせない。
瓜子姫は、かぐやの形に化けた天の邪鬼と目交った。
母神、伊邪那美命に肉体を与える為に。
黄泉と通じる月という巨大な空に、尊い母の肉体を宿す為に。
かつて火の神である自分を産み落としたが為に、黄泉へと神去った母神。
そして、母神を神去らせてしまった自分を斬り殺した、父神。
母神への償い、父神への償い。
火之伽具土神は、空に宿り瓜子姫となった。
母神に許してもらう為に、父神に愛してもらう為に。
かつてこの國を造り上げた、夫婦神の片割れ。伊邪那美命。
今や黄泉を司る神となったイザナミが黄泉返りし時、この現世と黄泉は完全に繋がる。かつてはひとつだったもの。伊邪那岐命と伊邪那美命、二人が別ったこの世とあの世の門が開く。
生きる者、死す者、全てが共に存在する世界。
かつてこの國が生まれる前、世界が混沌の海だった頃のように。
何もかも、全てが共に。本来は、そうあるべきだったのだ。
だが、今は違う。
世界はあの世とこの世に別れ、それが当たり前の理におさまった。
今また交ざり合えば、それは再び混沌を招く。
そうならぬように、父神、伊邪那岐命より仰せつかった。
天照大御神と月読命。
現世を照らす太陽を司る神と、夜の食す國を司る月の神。
夜の食す國は、黄泉と同じく有るもの。現世に現れ、黄泉と共に存在する。
夜は黄泉と束の間に重なる。丑三つの刻は、二つの世界が最も濃く重なり合う。
けれど、常に共に存在する事はない。してはならない。
その秩序を保つ。
それが、父神から仰せつかった月読命の役目。
月読命……かぐやは己の承った使命を思い出した。
黄泉の國から繋がりし空。
その空に宿った月読命の魂が、かぐやとなり生まれ出でた。
己が何処から、何の為に空に宿ったのか。その意味を、かぐやは今はっきりと思い出した。
この世と繋がってしまった黄泉を断ち切り、再び夜の食す國の向こうへ戻す。
それは、夜の食す國を司る月読命にしかできぬ術。
そして、黄泉の國から悪しき汚れた者が降りてくるのを阻むは、桃の精である桃太郎の役目。
月は満ち明るい処は現世に現れ、欠けて闇を宿した処は黄泉に残る。黄泉と現世を行き来する円。
そして、その円の中は空。
黄泉に下った者の魂を呼び戻すには、最良の入れ物。
その魂を宿す器、生身の肉の器が必要となる。
輪廻転生をせずに肉体に宿る。黄泉から通じる空に宿り生まれる。
けれどそれは、この世の理の中では御法度。
そして物理的な肉体を得るには、やはり子種は欠かせない。
瓜子姫は、かぐやの形に化けた天の邪鬼と目交った。
母神、伊邪那美命に肉体を与える為に。
黄泉と通じる月という巨大な空に、尊い母の肉体を宿す為に。
かつて火の神である自分を産み落としたが為に、黄泉へと神去った母神。
そして、母神を神去らせてしまった自分を斬り殺した、父神。
母神への償い、父神への償い。
火之伽具土神は、空に宿り瓜子姫となった。
母神に許してもらう為に、父神に愛してもらう為に。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる