6 / 7
6
しおりを挟む彼から、離れないと!
なぜか分からないけれど、シルヴィアはそう思った。
もつれそうになる足を懸命に動かして、シルヴィアは中庭に飛び出した。外は思いのほか暗くなっていたけれど、満月の光が照らしている。
(大丈夫。あともうちょっと走れば、公爵家の馬車が……!)
飛び乗って、公爵邸に帰ろう。
そして父に、エリス殿下に魔法をかけられていることを言うのだ。父なら、きっと知恵を貸してくれる。魔法の解き方を考えるなり、父と一緒にエリス殿下に直訴するなり、方法はある。
とにかく、あのままあそこにいるのは、かなりまずい。
「──あぁ、また無視するんだね」
耳もとで、エリス殿下の声がして。
シルヴィアが気付く頃には、腰をがっちり捕まれて顎に手をかけられていた。
「ど、どうやってここまで?」
「飛んできた」
「飛んで……っ?」
「瞬間移動だ。転移魔法って知ってるかな」
転移魔法なんて、おとぎ話みたいな存在だ。使用する魔力量が膨大だし、なにより魔法を編む演算式が難しすぎる。
(でも……私を監視する魔法をかけてきたエリス殿下なら……)
それが、できるかもしれない。
「きゅ、急に飛び出したのは謝ります。で、ですが、それをいうならエリスもお戯れはおやめください」
「本気で君の身を心配しているのに?」
「あの! はっきりいって困ります!!」
エリス殿下が、瞳をすぅ……っと細めた。
シルヴィアはエリス殿下に乱暴に腕を掴まれ、近くにあった東屋に押し込まれた。壁に押し当てらると同時に、両腕をバンザイさせられる。乱暴にブラウスを外され、零れ落ちてきた胸を鷲掴みにされた。
「シルヴィアさ、毎日のように誰かに犯される夢を見てるんじゃないのかな?」
「ど……して、それを……っ?」
「その夢を見せてるのが僕だからだよ」
「え」
わけがわからなくて、シルヴィアは無意識に頭を振っていた。
「君を初めて見た瞬間、ああ、やっと僕のアリスに出会えたって思えたよ。でも前世の記憶がなかった。僕はあんなにアリスを愛していたのに、悲しかったよ。僕をフッたことすら覚えていないなんてね」
「私が……貴方を……?」
「そうだよ。前世の君はアリスという女の子で、魔導師だった僕をフッたんだ。私には愛する人がいますって」
ならそれは、貴方の横恋慕では……?
そう思ったが、とても口に出せなかった。
「仕方ないから、僕はアリスの来世──つまり今のシルヴィアを生涯愛し尽くそうと決めたんだ。アリスが望んだ、来世では王子様と結婚したいという願いを叶えるために、エリスヴァルドという王子に転生したんだよ。アリスと同じ魂を持つ君を探し出し、婚約者に迎えた。君が十八になるまで手を出さないように我慢もした。初恋も……許したんだよ? 寛大だよね、僕」
エリス殿下は、嬉しそうに笑っている。
だがシルヴィアには、狂気に満ちているように見えた。
逃げたいのに逃げられない。
エリス殿下に、強く手首を掴まれているからだ。
「僕が君をどれだけ愛しているかを思い出してもらうために、夢を見せた。まあ、今日という日を迎えるために、君の体を慣れさせるという意味でもあったのだけどね」
──シルヴィアは悟った。
これから、あの悪夢のように、目の前にいるエリス殿下に犯されるのだと。
21
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
執着系狼獣人が子犬のような伴侶をみつけると
真木
恋愛
獣人の里で他の男の狼獣人に怯えていた、子犬のような狼獣人、ロシェ。彼女は海の向こうの狼獣人、ジェイドに奪われるように伴侶にされるが、彼は穏やかそうに見えて殊更執着の強い獣人で……。

愛の重めな黒騎士様に猛愛されて今日も幸せです~追放令嬢はあたたかな檻の中~
二階堂まや
恋愛
令嬢オフェリアはラティスラの第二王子ユリウスと恋仲にあったが、悪事を告発された後婚約破棄を言い渡される。
国外追放となった彼女は、監視のためリアードの王太子サルヴァドールに嫁ぐこととなる。予想に反して、結婚後の生活は幸せなものであった。
そしてある日の昼下がり、サルヴァドールに''昼寝''に誘われ、オフェリアは寝室に向かう。激しく愛された後に彼女は眠りに落ちるが、サルヴァドールは密かにオフェリアに対して、狂おしい程の想いを募らせていた。

ヒョロガリ殿下を逞しく育てたのでお暇させていただきます!
冬見 六花
恋愛
突如自分がいる世界が前世で読んだ異世界恋愛小説の中だと気づいたエリシア。婚約者である王太子殿下と自分が死ぬ運命から逃れるため、ガリガリに痩せ細っている殿下に「逞しい体になるため鍛えてほしい」とお願いし、異世界から来る筋肉好きヒロインを迎える準備をして自分はお暇させてもらおうとするのだが……――――もちろん逃げられるわけがなかったお話。
【無自覚ヤンデレ煽りなヒロイン ✖️ ヒロインのためだけに体を鍛えたヒロイン絶対マンの腹黒ヒーロー】
ゆるゆるな世界設定です。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。


束縛婚
水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。
清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

Catch hold of your Love
天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。
決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。
当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。
なぜだ!?
あの美しいオジョーサマは、どーするの!?
※2016年01月08日 完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる