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IFストーリー
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しおりを挟む「驚く事じゃないでしょう? 帰ってきてほしいって願ったのは貴女だ、ユフィ」
いつもと同じような……いいや、声にほんのりとした昏さを纏わせて、ランブルト様が寝室に入って来る。
こっちに来るかと思ったけれど、ランブルト様はそのまま横を通り過ぎて、アゼル様が入って来た窓に近付いていった。
「予想通りと言えば予想通りではありますが、窓から侵入した挙句にベッドにあがりこむなんて。
義妹のことになると本当に必死ですね、実に貴方らしい」
窓が閉まった。隙間が出来ないように遮光カーテンまで丁寧に閉められて、部屋がまた暗くなる。
窓際に凭れかかっているランブルト様は、ちらりとこちらを見てくる。正確に言えば、わたしの腕を掴んだまま離そうとしないアゼル様を見て、冷ややかな笑みを向けていた。
「それで、どうだ? 俺の愛する女性の唇を、無遠慮にも俺の目の前で奪った感想は? 柔らかくて蜜のような味がしただろう? あぁそれとも、見せつけたっていう興奮のほうが強いか?」
「…………そんなこと」
「吸血鬼はそういう種族だ。貴方は、その半端者だろう?」
「…………どうでもいい」
アゼル様は小さく首を振った。
「それより、あんたは義妹を誘拐した。大事なのはその事実だ」
「誘拐?」
喉でクツクツ笑う声がする。
「失敬。あまりに面白いことを言うので笑ってしまっただけですよ。そうかそうか、貴方にはコレが誘拐に見えるのか。俺にとっては、ハーフ吸血鬼の義妹を誘拐したというより、囚われのお姫様を悪役のもとから救い出したという筋書きなのですがね?」
穏やかに微笑っているように見えて、ランブルト様の表情は恐ろしく冷え切っていた。アゼル様が言い返してこないのを確認したからか、わたしの目の前までやってくる。
「あ…………ら、んぶるとさま……」
名前を呼んだ瞬間、わたしの腕を掴むアゼル様の力が強くなった。でも何も言ってこない。静かにランブルト様を様子を見ているだけ。
「違うでしょう?」
囁かれる。顎に指がかけられて、腰から何かが這いあがってくる。さっきアゼル様を押し倒した時と、同じような気持ち……熱くて、重たい……ドロッとした感情。
あ…………これ、すごく……ゾクゾクして……っ。
「昨晩、俺のことは“ルト”と呼ぶと約束したじゃありませんか。……もしかして忘れてしまったのかな?」
「……あ、いえ……その、ごめんなさい……」
ランブルト様の腕のなかで、確かにそんな約束をした記憶がある。愛称呼びに慣れてなくて、いつもの呼び方が出てしまった。
「る、ルト……さま」
「様なんて必要ないと思うのですがね。まぁ、いいでしょう」
ランブルト様の口角が満足げにあがる。そしたら、急にわたしの唇をきゅ……っと撫で上られて……とてもキモチイイのに、すぐに指が離れていってしまう。あ……もっと触ってほしかったのに。
「束縛魔法を解いて、ラティアの杭も抜いてしまったんですね」
「ぁ……っ」
アゼル様に掴まれていないほうの腕を触られたと思ったら、手を握られる。指の付け根部分を揉みこむようにさわさわと愛撫されて、無意識に身を捩りながら太ももを擦り合わせてしまう。
そんな様子を視姦していたランブルト様は、少しだけ残念そうな顔をした。
「一度イってしまったの? 今日は一日中耐えてもらう予定だったんですよ?」
「ぁぅ……っ。ご、ごめんな……さい、ルト、さま……っ」
「だめ、許さない」
「ぅ……っ」
甘く言われて、思わず声が漏れる。じゅくじゅくと、また疼いていく。頭がどんどんぼーっとしていく。
そんな時だった。
「昼の薬は飲ませたのか?」
アゼル様だった。
「飲ませるために帰ってきたら、どこぞのハーフ吸血鬼が住居侵入して勝手にベッドにあがりこんでいたんですがね。そういえば、俺が貴方と同じ薬を作っている事、知っていたんだな」
「ユフィから聞いた」
アゼル様は急にベッドから立ち上がり、ランブルト様の隣に立った。
「あんたの作った薬を、あんたが、ユフィに飲ませればいい」
「もともとそのつもりでしたよ。言われるまでもない」
「魔力もだ」
驚いたのはわたしだけじゃない。
ランブルト様も、同じようにアゼル様の顔を見た。
「ランブルト・ホイットニー。あんたがユフィを抱け、今すぐここで」
分からない。
どうして急にそんなことを言い出すのか、全然さっぱり理解出来ない。
「あ……ぜる……さま……?」
「……冗談にしては笑えないな」
「冗談だと思う?」
アゼル様の目は本気だった。いや、そもそも義兄は冗談の類を言わない人だ。真面目で責任感が強い……それがアゼル様。
「ユフィは発情して魔力を求めている。俺はそれに従う。あんたなら、ここまで言えば分かるだろう?」
相変わらず何も分からないわたしとは反対に、ランブルト様は納得したようだった。
「あぁ……そうか。そういうことか。そういう結論に至ったのか! そうかそうか、そうだな。ずいぶん人間臭いハーフだと思っていたが、根っこの部分は吸血鬼と何ら変わらないな! アッハハハハハハッ!!」
「…………何とでも言えばいい」
顔を手で覆い、ランブルト様は横目でアゼル様を見ている。
悪人のように、唇を歪めて。
「嫌いですよ、本当に。貴方のこと、世界で一番嫌いだ」
「お互い様だ。何を今さら」
……二人とも、なんか……おかしい。
雰囲気が……いつもと違う……。
「る、とさま……どうした、ん、ですか……。そ、れに、あ、ぜる様も……」
どうやら、何も分かっていないのは、わたしだけらしい。
「どうもしてないですよ。お義兄さんと今後の話をしていただけです」
「今後……?」
「ええ。だから、何にも考えずに俺に身を預けてくださいね」
「な、にも……?」
「ええ、何もです。辛い事も苦しいことも悩んでいることも全部です」
「なにも……考えなくて……いい……」
ナニモ、カンガエナクテイイ。
「ただキモチイイことだけに集中して、俺に可愛い姿を見せてくれればいい。じゃないと、真っ暗な闇の中に放り出されて、一人で寂しく泣く羽目になりますよ?」
「やだ……わ、わたしを一人に、しないで……っ」
ランブルト様が急にそんな事を言ってくるので、怖くなってしまった。
首を振ると、ランブルト様が抱きしめてくれた。いつもの声で「大丈夫ですよ」と囁いてくれる。手を握ってくれる。
ランブルト様はよく手を握ってくれるから、とても好きだ。アゼル様みたいに細いわけじゃない……大きくて武骨な手。それにこの声……。この声を聞くと、……あぁ、大丈夫なんだ、って思う。
「貴女と再会したあの日から、傍にいるためならどんな事でもする覚悟でした」
ランブルト様は、わたしの顎をくいっと掴んだ。
唇同士を触れ合わせながら、底なしの闇を感じさせる甘美な声で。
「誰よりも愛してるよ、ユフィ」
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