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IFストーリー

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「はい、どうぞ」

 ランブルト様が水を持ってきてくれた。ぐったりする体を起こして、お礼を一つ言ってから、コップを受け取る。

 渇いた喉に冷たい水がしみわたる……すっごく美味し……。

「せっかく家までやって来てくれたのに、わたしがこんなで……本当にごめんなさい。……紅茶の一つでも出すべきなのに……」
「押しかけたのは私なので、ユフィさんが気にする必要はありませんよ」

 仕事でわたしの家の近くに来る用事があったランブルト様。
 わたしが大の甘い物好きということを知っていて、連日長蛇の列が出来る大人気スイーツ店のクッキーを持って、わざわざ家まで足を運んできてくれたのだ。
 そのときに、タイミング悪く眩暈を起こして倒れてしまった。家のソファまで運んでもらって、今に至るというわけだ。

「タイミングが良かった。家に誰もいない状態で倒れて、熱湯でも浴びたら大変だからね。作ってるのはスコッチブロスでしょう? とても良い匂いがする」
「はい。お昼に食べようと思って……」

 ランブルト様が来なかったら、あのまま火を止めることもなく、スープを作り続けていただろう。もし指が熱湯に触れていたら……ううん、倒れる時にお鍋に触れて、そのまま落ちてきたら……。

 考えただけでゾッとする。
 
「本当にありがとうございます。……あの、もうわたしは大丈夫なので……そこまで気を遣わなくて大丈夫ですよ。ランブルト様もお仕事がありますよね……?」

 ランブルト様は貴族だ。
 スケジュールは分刻みで、わたしとデートする時もわざわざ休みを取ってくれたり、顔が見たいから夜の数分だけ……なんて事がほとんど。わたしのような庶民の女に構っていられるほど、暇じゃないはず。

「こんな状態の女性を独りにさせるほど薄情な男ではありませんよ。相手がユフィさんなら余計だ」
「……なんか、本当にごめんなさい……」
「気にしないでって言ってるのに」

 ランブルト様がわたしの頭を撫でてくる。武骨な手がストンっと髪を撫でつけて、耳にふれてくる。耳の縁をなぞるような妖しい動きに、肩がビクンッと跳ねる。とっさに顔を向けると、思いのほか近い位置に彼の顔があった。

「他に、何かしてほしいことは?」

 視線が、ランブルト様の瞳に吸い寄せられる。
 綺麗な若葉色のはずなのに、なぜか暗く淀んでいるように見える。どろっとしたソレは……抑えきれないほどの恋慕だろうか。これが恋慕……? 一種の宗教じみた、崇拝的な何かを感じる。……手を差し伸べたら、掴まれて引きずり込まれそうだと思った。

 彼はふとした瞬間に、こういう目をする。
 わたしに愛してると言ったときも。
 初めて肌を重ねて、魔力を貰った時も。

 怖いくらいの、激情を宿している。
 そしてそれに、いつも飲まれてしまうのだ。

「……………ひ、引き出しの中にある薬を、とってほしいです」

 ようやく絞り出せた声に、ランブルト様はにこりと笑顔を浮かべた。「薬ですね」と言って、すぐさま動いてくれる。彼との距離が離れたところで、はぁ……と小さな息を吐きだす。


 
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