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IFストーリー
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しおりを挟むわたしの名前はユフィ。
小柄で童顔だから、自分ではかなり子どもっぽいと思っている。
強くてたくましい女性に憧れるけれど、落ち込みやすくて内気な性格だ。綺麗な金髪って所だけは自慢できるポイントだけれど、それ以外に良いところなんてないように思う。
家事は一通りできるけれど、本当にそれだけ。
元貴族令嬢だったらもっとこう……気品とか教養があってもよかったけれど、わたしは本当にダメダメで、出来の良い姉達に比べられて両親に色々言われた。
虚弱体質のせいで長い間、外を出歩けないし、かといって家で出来る仕事なんて限られている。
まえは一日三時間だけ針子の仕事をしていたけれど、辞めてしまった。
いまは、過保護な義兄がわたしの面倒をみてくれている。狭い借家で、五つ歳の離れた義兄と二人暮らし。義兄はわたしの保護者であり、後見人でもある。
といっても、わたしは成人済だから、もう保護者とは呼べないのだけれど。
「ただいまです……」
ランブルト様とのお出かけから帰ってきたわたしは、無意識に小さな声で言ってしまった。
誰かいるなんて、ありえないのに。
だって、義兄の仕事は夜勤だ。もともとハッシュフィード家の次期当主としてたくさんの魔法や武術を習ってきた彼は、その経験を活かしてギルドで魔物を狩る仕事に就いている。彼の仕事は夜勤が多く、今日だってそのはず。
しんと静まり返った居間の中央へ。
思ったより帰るのが遅くなったから、今日はシャワーを浴びてこのまま寝よう。
「────おかえり、ユフィ」
急に真後ろからテノールボイスが聞こえて、悲鳴をあげそうになった。
びっくりしすぎて上体がふらつく。倒れそうになったところで、意外とたくましい腕に抱き留められる。わたしの真上に、見惚れてしまいそうなほど美しいお顔がある。
深い海の色を閉じ込めたような、憂い帯びた青宝玉の瞳が特徴的な、見目麗しい男性。わたしの義兄、アゼル様だ。
「夜勤だったんじゃ」
「夜勤だよ。最近、ユフィの魔力の減りが早くなってるから心配になって、仕事の合間に抜け出して様子を見に来たのだけれど」
彼は、あまり感情を表に出すタイプではない。
いつも淡々としていて、何を考えているのか全く分からない男性。
でも、過保護で心配性だから、仕事の合間に抜け出してわたしの様子を見に来るのは、よくあることだったのだけれど──
「ずいぶん、帰りが遅かったね」
鴉を思わせる黒羽色の髪を揺らして、アゼル様がジリジリと近づいてくる。
反射的に逃げようとすると、すぐ距離を詰められた。
退路を断たれて、いつの間にか背中が壁際に。
アゼル様が壁に片手をついて、恐ろしいほど整った顔を近付けてきた。
まるで、腕の中に閉じ込めてくるような動き。
「…………まだ、ランブルト・ホイットニーに会ってるの?」
「え、と……」
「あの男との結婚も交際も認めないって、何度も言ってるよね。一目惚れだか何だか知らないけれど、君の体は普通の人間とは違うのだよ。名門貴族のご令息と結婚したとして、ツラい思いをするのはユフィだ」
「…………」
知っている。今まで何度も言われた。
貴族となれば、色々なパーティに出席するだろうし、あらためて貴族のマナーを覚え直さないといけない。
放っておけばすぐどこかで倒れそうになっているわたしじゃ、ホイットニー家の当主になるランブルト様を支えていくことなんて出来ないだろう。
例えランブルト様が、事情を全て分かった上で結婚しようとしてくれていたとしても、きっとわたしがツラくなるって、アゼル様は心配してくれている。
「体の弱い君には薬が必要だ。そして、その薬を作れるのは俺だけ。分かった?」
「……そう、なんですけど……」
……魔力を貰うだけじゃ、ダメなのは分かっている。
アゼル様が薬を開発するまで、わたしはほとんど寝たきりで過ごしていた。飲まなければ、またそういう生活に戻ってしまう。それだけは……避けたい。
「しゃ、シャワー浴びてきます……」
一瞬の隙をついてアゼル様の腕の中から脱出し、共用のシャワー室に向かう。
アゼル様の視線が、わたしの背にじっとりと絡みついてくるようだった。
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