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AfterStory:冬のお泊まり
夕食、魔法の授業、そして……
しおりを挟むとてもパワフルなおばあさんだったな……。
ああいう人の言葉って当たりそうだし、せっかくなら占いしてもらえば良かったな……。
なんてことを思いながら元居た場所に戻ったら、案の定アゼル様に心配されてしまい、お目付けが厳しくなってしまった。
「フラフラするの禁止」
……確かにさっきのは、わたしが考え事しながら裏路地近くにいったのがいけなかったです。はい……。
再びランブルト様に送迎してもらって、家に到着。
さっそく夕食の準備にとりかかろうとしたら、なぜか全員集まってきて……。
「ルカ、ユフィさんは料理がとてもお上手なのでよく見ておきなさい。あの手際の良さと味付けはうちの料理長にも引けを取りませんよ」
ランブルト様は、身長の低いルカ君を抱き上げて、わたしの料理中継が見えるようにしていた。
「ひけって?」
「料理長と同じくらい美味しいってことです」
「ユフィはこのおうちのりょうりちょー……?」
「まあ、遠からずってところですね」
「すごーい……!」
なんか、ルカ君のなかでわたしのイメージがどんどん壮大になってきてるような気が……。
「はは……あんまり見つめられると照れちゃいますね……」
そんな風にルカ君に見つめられながら、作業を進める。
ルカ君が自分でやりたいと言った時には、わたしが補助しながらやらせてあげた。そのぶん料理の進行は遅れてしまうのだけれど、そこはアゼル様がフォローしてくれて、マトンシチューの仕込みを進めてくれた。テーブルに突っ伏したヨル君が「ねえお腹すいたー」と料理を急かすのだけれど、そこはアゼル様が「まだだ」と一喝。それでも五分後にはヨル君が唇を尖らせ始めたため、わたしはマトンシチューのつけあわせとして作りはじめていたシュリンプトーストをオーブンで焼き上げ、ヨル君の口の中に放り込んだ。みるみるうちに上機嫌になっていくヨル君に、思わず笑みがこぼれる。ヨル君の胃袋はすっかりわたしのものだね。
それからまた料理を進めて、マトンシチューの味見をしてみた。
あつ……火傷しそ……でも美味しい。
ルカ君が食べたそうな目で見ているから、おすそわけしてあげた。するとルカ君は、熱々のシチューをスプーンですくって……。
「──冷ましてから食べないと舌を火傷しますよ」
わたしが動くよりも先に、ランブルト様がルカ君の小皿を取り上げ、スプーンに息をふきかけて冷ましていた。
ルカ君は「美味しい」と言ってにっこり笑う。
「ルカはユフィさんにメロメロですね。いったい誰に似たんだか」
ルカ君の頭を撫でながら小さく笑う姿に、視線が吸い寄せられた。
ルカ君がいるからだろうか。
ランブルト様がいつもと雰囲気が違うような気がした。
「とても熱心な視線を感じるのですが……」
「あ、ごめんなさい……」
「いいですよ。存分に私を見てくださいね」
どうやら、気のせいだったみたい。
いつものランブルト様で、ちょっと安心した。
「──そういえばこんな庶民的な食べ方しちゃって大丈夫でした?」
今さらながら、貴族の食事としては相応しくない食事方法を取っている事に気付いた。
ランブルト様はテーブルマナーも庶民の食事もどちらも分かっている男性だけど、ルカ君はまだまだ成長途中。ホイットニー家の教育指針に反しているのではないかと心配になった。
「大丈夫ですよ。うちは長い歴史のある家ですが、商売人家系なのでその辺りはどっちも知ればいいと思っています。時と場合を考えれば済む話ですからね」
「それは……いい考えですね」
確かに、どっちも学べばいい。
実にホイットニー家らしい考えだと思った。
そうしてみんなで夕食を囲んだあとのこと。
食器の片づけを終える頃に、ルカ君が「魔法」を見たいと言ってきた。
教えてあげたいのは山々だけれど、治癒魔法以外は魔法の才能が全くないわたしだ。せっかくなら魔法の才能がある人に代行してもらおうと思って「アゼル様は天才だからどんな魔法でも使えるよ」ってルカ君に教えてあげた。
ルカ君はわたしの足に隠れながら、アゼル様をじーっと見上げている。
「俺の魔法は対夜の住人用の魔法武術だから人に見せるようなモノじゃないよ」
「じー……」
「ちょっとだけ、ぱぱっとできるやつとかないですか? 見た目が綺麗なヤツとかあれば所望します!」
顎に手をあてながら「まぁ、ないことはないけど……」と呟くアゼル様。そのあと、ちらっとわたしの方を見てきて。
「そういうのはユフィのほうが適任だと思うよ……?」
「わたしの魔法の才能と魔力量の少なさを甘く見ないでください」
「じー……」
わたしの訴えとルカ君の攻撃(潤んだ目で見つめる)が効いたのか、アゼル様は「君たち色々とそっくりだね……」と、ちょっとびっくりしているような、珍しい表情を浮かべて立ち上がった。ついてくるように言ってきた。
わたしとアゼル様とルカ君は、室内のテーブルなどを隅っこにおいやって、魔法の授業ができるように準備していた。……外? さすがに寒くて無理でした。
ルカ君はわたしの膝の上に座って、アゼル様の魔法を見ていた。アゼル様の魔法は火や水、氷、雷など、見た目にインパクトがある多種多様な魔法を使用していた。
魔力の練り方もスピードも、わたしなんかじゃ比べ物にならないほど綺麗で速い。ルカ君も食い入るように見つめていた。
「魔法、やりたい……」
ランブルト様によると、ルカ君はまだ一つも魔法を使えないらしい。といってもまだ五歳なのだ。五歳で魔法を使えるようになったら大したものだけれど、ほとんどの人はそんなこと出来ない。
「ルカ君にはまだちょっと早いかな……?」
「できないの?」
「うーん……あ、ほら、ルカ君はまだ体も小さくて魔力も少ないし、自分で魔力を感じることもできないだろうから、もうちょっと大きくなったら出来るようになるよ」
「まりょく……感じる、って……どういうこと?」
わたしは魔力が少ないけど、十歳の頃には治癒魔法を使えていた。当時の事を思い出してみれば、ルカ君の将来のためになるかもしれない。
ただ、いざ魔力とは? と聞かれると、具体的に言葉で表すのは難しい。魔力は血液に染み込んで体全体に流れている、っていう話だけど、五歳の子どもって血液とか理解できるんだろうか。そんな小難しい話より、もっと分かりやすく言うには……。
「魔力っていうのは──」
言いながら、アゼル様がルカ君の小さな手を掴み、開かせた。
手のひらに、トントン……っと、アゼル様の人差し指が触れる。
「体、温かくなってきた?」
「うん……なんか、ぽかぽかする……」
「それが君の魔力」
ルカ君は目をまん丸くして自分の手を見ている。
「魔力を収集、魔法への変換、発動にはそれ相応の才能と訓練が必要だよ。だから魔法を使えるようになりたいのなら、今の感覚を忘れないようにすればいい。魔法の一番基礎的な部分は、自分との対話が大事になってくるよ」
スラスラと魔法について話し終えると、ルカ君のアゼル様に対する態度が明らかに変わったような気がする。ルカ君が、キラキラとした目でアゼル様を見ていた。
「今の……具体的には何をしたんですか?」
「大したことはしてないよ。ただ、ほんのちょっとだけその子の魔力を活性化させただけ」
「そんなことできるんですね……」
「まぁ……昔、家庭教師にこうやって魔法の基礎を教わったから」
昔といえば、ハッシュフィード家に来てすぐの頃だろう。
「ふふっ」
「どうして笑ってるの?」
「アゼル様、子どもが嫌いだと思っていたので。なんか……嬉しいなって……」
「……今でも好きじゃないよ。子どもはうるさいし、よく分からない行動するし……。ただこの子は大人しいし……ユフィが……」
「わたしが?」
「すごく楽しそうだから…………まぁ、ユフィがいるのなら、付き合ってもいいかなって思ってるだけだよ」
アゼル様と目が合った瞬間、なぜかわたしまで体が熱くなってきた。
……よく分からないけれど、それ……すごく嬉しいかもしれない。
そんな感情が、わたしの中でふっと湧き起こった。
自室に戻ったわたしは、街への買い出しでパワフル占い師のおばあさんから貰ったラッキーアイテムと睨めっこしていた。
二つとも、何らかの液体が入っている小瓶だ。
一つは、無色透明。
一つは、薄桃色。
「悩める女性のラッキーアイテムとか言ってたけれど、これは持ち運びできるやつじゃないよね……」
ラッキーアイテムというくらいだから、肌身離さず持っていた方が良い気がする。
装飾品とか、昔のお守りとか。
コレは……飲み物だろうか。
タダより高いものはないと言うし、さすがに口に入れるのは気が引ける。
「あ、コレの使い方書いてる紙を貰ったんだっけ……」
怪しいものかな……と疑う心を持ちつつも、あのおばあさんは本当に親切心で言ってくれたような気もしている。メモを読めば何か分かるかもしれないと思って、紙を広げてみた。まずは無色透明なほうから見てみようと思って読んでみる。
「もしかしてコレってマッサージに使うオイルみたいなものなのかな……?」
絶対にそうだ。美肌効果もあって、肌がしっとりすべすべになると書いている。いま冬場で肌の乾燥も気になっていたところだから、なんとちょうどいい。確かにこんな便利なモノなら、すべての悩める女性に、っていう言葉もあながち嘘ではないのかも……。
「水をいれると粘性が出て、トロトロになるんだ…………女性の大切な部分に使っても肌荒れしない成分……」
すごい、こんなところまで配慮されている。
ということは、使っても大丈夫そうだ。
別に口に入れるものじゃないし、肌に少しだけ塗って、荒れなければ継続使用可能だろう。
無色透明な液体が入った小瓶の方を持って、自室から出る。
ちょうど廊下にヨル君がいた。
「ルカ君お風呂あがった?」
「あー、さっき金髪坊ちゃんと歩いてるとこ見かけたから、もうあがってるよ」
「分かった、ありがと」
せっかくだからお風呂で使おうと思って、そのままバスルームに向かう。
ふふっ、これでお肌がスベスベになったらいいな。
「あー、でも今はご主人が…………ま、いっか」
最後に呟いたヨル君の一言は、残念ながらわたしの耳には届かなかった。
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