【R18】ハーフヴァンパイアは虚弱義妹を逃がさない ~虚弱体質の元貴族令嬢は義兄の執着愛に囚われる~

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第2章 黒王子と白王子

09 白王子再び

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 吸血鬼ヴァンパイアは、夜の住人ノク・レビンのなかで最も強大な力を持っている。


 いわく、彼らは人間でいう二十代の姿からほとんど老いることなく、数百年の時を過ごす。


 曰く、彼らはすべからく美しい容姿を持つという。


 曰く、彼らは群れることを嫌い、少人数……あるいは、単独行動を好んで取る。


 曰く、性格は冷徹かつ残忍である。


 己の容姿が人間の好むものだと知っている彼らは、その美貌で人間に近づき、あらゆるすべを使って自由気ままにエサ人間を弄ぶ。

 
 吸血時に快楽を与えることなく、痛み苦しむ様を見て愉しむ吸血鬼ヴァンパイア

 逆に心が壊れるほどの快楽を与えて、自我が崩壊していく様を見る吸血鬼ヴァンパイア

 中には、気に入った人間を住処に連れ帰り、首輪をつけて愛玩生物として傍に侍らせる吸血鬼ヴァンパイアもいるけれども、人間を壊す事も食事にすることないのは、かなりのレアケース。
 それでも、彼らに目を付けられた人間は遠からず心を壊すという。


 きっと人間みたいな情があるはずだと、期待を胸に膨らませて彼らに近付いた多くの人間が、己の浅はかさに後悔した。


 彼らは、夜の住人ノク・レビンの頂点に君臨する。



 ──あくまで、バケモノなのだから。







「………………はぁ」



 分厚い本を閉じて、ため息をついた。
 これで七冊目だ。どの本を読んでも、吸血鬼ヴァンパイアは残忍で凶悪で、恐ろしい化け物だと書かれている。

 アゼル様はこの本に出てくる吸血鬼ヴァンパイアみたいな怖い存在じゃないのにと、もやもやしてしまう。

 アゼル様がハーフ吸血鬼ヴァンパイアだと知った翌朝、居間に行ったところアゼル様が朝食を作ってくれていた。目玉焼きを作り、パンを焼いてくれた。

 とっても驚いた。

『記憶を消さないのですか?』
『どうして消す必要がある?』
『だって、わたしがもし周りの人にアゼル様が吸血鬼ヴァンパイアだって告げ口したら、ギルドの人達に狙われちゃいますよね。……怖く、ないんですか?』
『ユフィがそういうことする子だとは思ってないけど、もしそうなったら、……それはそれだと思ってる』
『……誰にも言うつもりないですけど』
『だと思ったよ。だから消さない。そんなことより、顔を見せて』
『え、……っと』

 アゼル様はわたしの体調を気にしていた。顔を覗き込まれて、身体を触られてこっちはドキッとしたけど、アゼル様は至って真顔。情事アレは本当に”治療”以外の意味はなかったらしい。妙に意識して損した気分だった。

『うん、魔法がよく効いてる。顔色もいいね』
『え、と……』
『体に違和感はない?』
『あ、はい。……すっごく元気です……』
『それはよかった。魔力も満ちてるけど、無理は厳禁。俺の薬は忘れず飲むこと。じゃあ、仕事行くから』
『あ、……はい。いってらっしゃい……』

 アゼル様が吸血鬼ヴァンパイアだと知ったあとでも、わたしたちの生活は何も変わらなかった。余所余所しくなることもなくて、嬉しかった。
 アゼル様は前よりも過保護と心配症が増して、仕事の合間合間に抜け出してわたしの様子を確認してくるようになったけれど、それくらいだ。



 吸血鬼ヴァンパイアなのに日中に活動できるのは、人間の血が濃く出たハーフだからだとアゼル様は言っていた。

 いわゆる、人間と夜の住人ノク・レビンの間に生まれた子どもは、揶揄の意味も込めてハーフと呼ばれる。

 ハーフの存在は珍しいものではない。夜の住人ノク・レビンのなかには、人と子どもをもうけやすい種族がいる。代表的なのが蝙蝠男バッドマン魔女ウィッチだ。

 昔はハーフに人権を認めず殺処分になることも多かった。
 母親側が人間だった場合、我が子を守るため出生届けを偽ったり、夜逃げすることも珍しくなかったらしい。逆に、バケモノの子どもを生んだという恐怖に耐えかねて、命を落とすこともあったという。

 母親に愛されたとしても、半分は夜の住人ノク・レビンなので、夜の住人ノク・レビンの症状に悩まされる事も多いそうだ。

 たとえば、攻撃衝動を抑えられない。

 耳が良すぎて、学校の環境音に耐えられない。

 とりわけハーフを悩ませるのは、直射日光に長時間当たれない、ということだった。

 ハーフといっても、みんながみんながアゼル様のように日中に活動できるわけではない。むしろアゼル様のように機敏に動き回れるのは、そうとう珍しい。

 だから、ハーフだと今まで知られなかった。
 わたしも気付かなかった。

 もしかしたら、今は亡きわたしの両親も、ハーフだと知らずに養子として迎え入れたのかもしれない。

「アゼル様のことなら何でも知ってるって思ってたのは、勘違いだったなぁ……」

 アゼル様から貰っている薬も、アゼル様お手製のものだ。虚弱体質を改善するために、色々な薬草とアゼル様の血を混ぜて作っているらしい。……薬であり、魔力増強剤でもあるらしい。ランブルト様が、とんでもなく質がいいって褒めたっけ。
 
 そういえば……三日前のアレはわたしに魔力を渡す治療だったとしても、二週間前のアレはなんだったのだろう。アゼル様の様子がいつもとかなり違っていた。

 全体的に体が赤く色づいていたし、雰囲気もなんだか……かなり色っぽかった。
 記憶が確かなら、アゼル様は吸血鬼ヴァンパイアの発情だと言っていた。

 もしかして、載ってたりして……?
 興味本位でパラパラとページをめくっていると、お目当ての記事にたどり着く。


 ええっと……、なになに……。
 吸血鬼ヴァンパイアは、子孫を残しにくい種族だという。
 ゆえに“発情”という、非常に長く激しい生殖行動をとる。

 一度発情した雄の吸血鬼ヴァンパイアは、射精と吸血を繰り返して雌を求める。人間の女相手でも発情することが分かっており、その激しさに耐えられず人間側が死んでしまうことが多いという。ゆえに吸血鬼ヴァンパイアはハーフが生まれにくい。

 発情した吸血鬼ヴァンパイアは他の雄に雌が取られないように、雌に自分の匂いをつけるマーキング行動をとると言われており──



 ………わたしは顔を突っ伏して、しばらく悶えていた。



「思い出さなきゃよかった………」

 だめだめだめだめ真面目に考えちゃだめ。
 アレに深い意味はない。
 ないったらない。
 頭を振って思考を切り替える。

 よし!
 

「──おや」


 耳心地の良い声が聞こえて、顔を上げた。
 
「金髪が見えたのでもしやと思いましたが、やはりユフィさんでしたか」

 にこにこの笑顔を浮かべるランブルト様が、わたしの目の前にいた。

「こんなところで会えるなんて、私は幸運な男ですね」
「奇遇ですね……」 
「ええ。さすがに今日は、黒王子も邪魔してこないでしょうし、嬉しい限りです」
「黒王子……?」

 ……誰のこと?

「ご存知ないんですか?」

 嬉々としてわたしの目の前に座ったランブルト様が、目を丸くした。

「アゼルさんのことですよ。ギルドに入所した当初からずっと一人で行動し、誰ともつるまないソロの狩人。愛想笑いもほとんどしないので、ギルドの女性陣や噂話が好きなご婦人方はみなさん黒王子って呼んでますよ」
「へ、へえ……そうなんですね」

 白王子と呼ばれるランブルト様。
 黒王子と呼ばれるアゼル様。


 …………なんだか、わたしの周りって美形が多いな……。


「それで、ユフィさんはどうして吸血鬼ヴァンパイアの本ばかり読んでいるのですか?」
「……こ、れはその、えと……」

 テーブルの上に広げた本を、とっさに隠す。
 ランブルト様は、アゼル様が吸血鬼ヴァンパイアではないかと疑っている。

「ランブルト様の推測が正しいのかどうか、調べたいと思ったんです……」

 本当はもう正体を知っているのだけど……。

「あぁ、あの話はもう忘れてください。もうアゼルさんの正体を見極める必要はなくなりましたから」
「はい……?」

 え???
 どういうこと???

 驚くわたしに、ランブルト様が顔を近づけるように促してくる。
 内緒話かなと思って、耳を近づけてみると。

「昨晩、アゼルさんが私の家にいらっしゃいました。自分はハーフの吸血鬼ヴァンパイアだって、打ち明けられましてね」


 ……………………え?








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